6 コリンシアの想い4
「あのお館も完成したの?」
「もうじき完成しますよ。秋に礎の里へ行く前に立ち寄れるようにするとヒース卿が言っておられました」
「楽しみ」
私が幼い頃、先代フォルビア公のおばば様と暮らしていたフォルビア領の別荘は、内乱の折に火事で焼失していた。私だけでなく、父様も母様も思い入れのある場所なのだが、内乱の終結直後は余裕が無くて再建は後回しになっていた。
それでも第3騎士団の竜騎士達が、空いた時間に飛竜にも手伝ってもらって瓦礫を撤去したり、庭が荒れないように手入れしたりしていたの。そのおかげで再建が始まって2年ほどで館は完成。後は内装に手を加えるだけなんだって。あの館に思い入れのあるティムは、手伝っただけでなく今でも使いの途中に館の様子を見に立ち寄ってくれているらしい。
「オルティスさんの家も完成しましたよ」
「そっか……」
じいやのオルティスは家令として長年フォルビア家に仕えてきた。内乱終結後は本宮の北棟で私が成人するまでフォルビア家当主となった母様や父様に仕えてくれてたんだけど、高齢の為にこの秋で引退する事になっていた。長年の功績に感謝して、父様が本人の希望を踏まえてあの館の一角に隠居所を作る事になった。
寂しいけれど、近頃は務めを果たすのも一苦労だと言う彼をこれ以上引き留めるのは酷の気もする。でも、物心つく前から一緒にいるのは当たり前だったので、離れてしまうのはやっぱり寂しい。
「姫様、そろそろお部屋に戻りましょう」
オリガが呼びに来て、ティムとの個人的な面会は終わりとなった。楽しい時間はあっという間に経ってしまう。ものすごく残念だけれど、彼は明日も試合があるのでそれに備えて体を休めて貰わなければならない。わざわざ来てもらったのに、これ以上わがままを言う訳にはいかない。
「ティム、明日も頑張ってね」
「はい、姫様」
ティムはそう言って私の手を取り、もう一度甲に口づけてくれた。その様子をオリガは暖かく見守っていてくれる。
「では、参りましょう。ティム、貴方も早く休むのよ?」
「分かっています」
実の姉の忠告に彼が素直に頷くと、オリガは私を促して北棟へと向かう。ティムはそんな私達をその場で見送ってくれた。
好きな人と話が出来て、先程までしぼんでいた気持ちが嘘のように膨らんでいる。あまりにも幸せでフワフワと地に足が着いていない気がする。
「コリン」
名前を呼ばれて我に返ると、北棟の入口に母様が立っていた。アルベルトが小さいので、宴は中座する事になっていたのだけど、予定では私が退出してから優に1刻は経ってからだったはずだ。自分が思っていた以上に長い時間ティムと話をしていた事に気付く。
「母様」
「ティムとお話しできたのね?」
「うん……凄く、幸せなの」
私は母様に抱きついた。母様はそんな私の頭を優しく撫でてくれる。
「そう……。コリンはいい恋をしているのね」
母様の言葉に私は頷いた。母様は微笑むと、北棟の奥へと私を促す。
「母様も父様を好きになってこんな気持ちになったの?」
私の質問に彼女は少しだけ困った表情を浮かべる。
「色々と問題もあったから、切ない気持ちの方が強くて……。でも、お会いできた時は気持ちが温かくなったわ」
父様と母様の結婚は当初、反対する人がいて順調とはいかなかった。一番の問題は母様に記憶が無くて何者なのか分からなかったのが大きい。今では記憶も取戻したし、何よりも大陸で最も大きな後ろ盾を持っている事が知られている。今ではその働きぶりと合わせて誰からも皇妃として認められている。
2人を一番間近に見て来たから思うのだけど、母様は……勿論父様もだけど、今でもお互いに恋をしているのかもしれない。お互いを尊敬し、常に思いやる姿を見て、将来自分も結婚したらそうなりたいと密かに思っていたりする。
「明日も早いのだから、すぐに休みなさい」
「はい、母様」
母様と別れて2階の自室へと向かう。ふわふわとした気持ちはまだ続いていて、私は着替えを済ませるとすぐに寝台に潜り込み、幸せな気持ちのまま眠りについた。
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両親だけでなく、コリンシアの周囲にいるのは非常にラブラブな夫婦ばかり。自然とそんな夫婦関係に憧れを抱いております。
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