3 ティムの本音1
第3騎士団の個性的な面々にもまれて大人になったティムの視点。
この時ティム21歳。ちなみにこの世界で成人は16歳。
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俺の名前はティム・バウワー。風の飛竜テンペストを相棒に持つタランテラ皇国第3騎士団所属の竜騎士だ。この国で最も権威のある飛竜レースに1位で帰着できたと言う事は、優秀な竜騎士と言えるのだろうな、多分。
何しろ身近にいる竜騎士が皆優秀だから基準がよく分からない。義兄のルーク兄さんは大陸最速だと言われているし、同じ騎士団の上官は強者ぞろい。しかも顔を見る度に親しげに話しかけて下さるのはこの国最強と言われる陛下とこの国の7つの騎士団をまとめているアスター卿。更には大陸最強(凶)とも言われている皇妃様の御家族とも交流がある。
有りがたい事に普通では到底お会いする事も出来ない方々との知己を得た上で特別に目をかけて頂いているのだ。俺は運がいいのかもしれない。
彼等の中にいると自分はまだまだなのだと思うのだが、正直、自分の力がどの程度なのかは分かっていなかった。だから今日の飛竜レースだけでなく、力試しのつもりで明日の武術試合にも挑んでいる。
「良い気になるなよ」
飛竜レースを1位で帰着し、陛下に挨拶を終えて御前を辞す時にすれ違った竜騎士に敵意を向けられた。何もこれが初めてでは無い。他団の同年代より上の竜騎士からは疎まれている自覚はある。敬称を持たない身分の俺が、高位の方々に目をかけられているのが気に食わないのだろう。内心「ああ、またか」とあきらめの境地で軽く受け流し、大人しく待つパートナーの元に戻った。
「お疲れ、テンペスト。よく頑張ったな」
さすがは飛行スピードに定評があるファルクレインとカーマインの子だ。1位で帰着できたのもこの相棒のおかげだ。後でたっぷりと好物の瓜を用意してやろう。
頭を摺り寄せてくる相棒を労うと、声援を送ってくれる観客に片手を上げて応えてからその背に跨る。そして陛下とご一家を中心にアルメリア皇女や5大公家の方々が揃ってとても煌びやかに見える貴賓席に目礼をする。でも、一際目立つのは姫様だろう。昔と違って今は年に一度会える程度。年々美しくなっていく彼女に目が離せない。
だが、いつまでもここに居たら後続の竜騎士の邪魔になる。貴賓席の背後に警護として立っているルーク兄さんに軽く睨まれ、俺は慌ててテンペストを飛び立たせて着場へと向かった。
「あなたはだあれ?」
そう声をかけられて振り向いた時、俺は信じられない存在を見た。ふわふわのプラチナブロンドに青い瞳。レース飾りをふんだんに使った青いドレスを着たお人形みたいな女の子だった。
今からもう8年以上も前、先の女大公グロリア様が隠棲しておられたお館の厩舎で働き始めたばかりの頃だった。すぐにその子が当時ロベリア総督をなさっていたエドワルド殿下の5歳になる御息女だと気付いたが、驚きのあまりその場に立ち尽くして姫様の御下問にすぐに答えることが出来なかった。
「あなたはだあれ?」
「……ティムと申します」
もう一度聞かれて慌てて頭を下げると、その場に跪く俺を姫様は興味深げにしげしげと眺められた。今にして思えば、大人ばかりのお館で育った姫様はまだ子供の俺が珍しかったのかもしれない。
その後、姫様は毎日の様に厩舎へ来られるようになった。下働きにすぎない自分が姫様と接していいのか不安になったが、殿下も女大公様も寛大な方で、それでとがめられることは無かった。寂しいのだろうと察しがつき、俺の事を兄の様に慕ってくる彼女の相手を時間の許す限り務めた。
だが、あの方は皇女。そして亡くなられてしまった女大公様の意思を引き継いでいずれは大公家の当主になる身。当時は竜騎士見習いにもなっていなかった俺とは身分が違う。あのまま何事も無く過ごしていたならば、俺の事は幼い頃に遊んでくれたお兄ちゃんというだけで記憶の片隅に留まる程度だっただろう。
あの内乱が全てを変えたのは言うまでもない。男手は俺だけ。姉さんと2人、奥方様と姫様を守りながらの追手を逃れたあの辛い旅の最中で俺は痛烈に己の力不足を悟らされた。辛うじてたどり着くことが出来た奥方様の故郷で、心細げな姫様を励ましながら「この方を守るためにもっと強くなりたい」と思った。
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