第78話 暁流
そういうわけで、俺は幼い頃から常に爺ちゃんの奇襲に警戒する必要があった。気配探知の能力もその際に手に入れたものだが、春香はこのことを全く知らない。
爺ちゃんが知らせようとしないためだ。おかげで春香がいる状態では爺ちゃんが奇襲を仕掛けてこないので、俺もあえて教えたりはしていない。暁家の女性で道場などのあれこれを知っているのは婆ちゃんのみである。
父さんには姉が二人、弟が一人いる。つまり爺ちゃんは、道場のあれこれを娘二人に隠しきったということだ、ある意味恐ろしい。
とりあえず、そんなことがある爺ちゃん家には、あまりいい思い出がない。気配探知を習得するときも、かなりボコボコにされたからな。最終的に遠距離から狙撃されたりした。あれコルク玉じゃなかったら絶対流血してるぞ。
まあ今日はもう大丈夫だろう。爺ちゃんから気配探知については及第点をもらってるし……今回は何を仕込まれるのだろうか。今から気が重い。
今から道場に行ったりはしないだろうし、まだ婆ちゃんにも会えてないから、とりあえず春香の後を追うことにする。
「あ、遅いよ龍兄、なにしてたの?」
「爺ちゃんと少し話してたんだよ、今玄関に行けば会えるんじゃないか」
「そうなの? じゃあちょっと行ってくるね」
そう言って再び駆け出していく春香。
ずっと座りっぱなしだったから、元気が有り余ってるのだろう。
「久しぶり、婆ちゃん」
「久しぶりだね。また爺さんに奇襲でもされたのかい?」
婆ちゃんも変わらないな、そうだ、ゲームのこと話しとかないと。ギアかぶったまま寝てたら心配かけちゃうかもしれないし。
◇
翌日、さっそく爺ちゃんに呼び出された俺は、道場に向かって走っていた。
車? 自転車? そんなもんあるわけないだろ。まあ最近日課で走ってたから、この程度の距離なら問題ない。
その後道場で一日中ボコボコにされたな。まだ受けの技は全然ものにできてないな。
「誰に刀を教わった? 悪くないが、まだ経験が足りないな」
「ちょっとゲームで知り合った人に、槍なんかも教えてもらったよ」
「槍術か、なら今度はそれも視野に入れておこう」
うわ、藪蛇だった。にしても一部とはいえ褒められたのか? モルドさんの刀術はやっぱどこかの流派の物だったのかな? 爺ちゃん。槍術も出来たんだな。いや俺が出来るようになったんだから、何もおかしくないな。
にしても経験か、爺ちゃんの言ってる経験は多分対人戦のことだよな。PVPはモルドさん以外だとそんなにやってないからな。……モルドさんはNPCだけど。
今度光輝にでも頼んでみるか。
「それとその二刀流じゃが、手数を増やすという点ではアリじゃが、それなら短剣の方がいいと思うぞ。龍也の場合、二本持つことで逆に弱くなっとる。せめてもう少し握力をつけることじゃな」
二刀流も使ったがあっさり負けた。これはゲームとの違いだな。ゲームだとステータスのお陰で握力、腕力共に上がっていたが、リアルでは全く変わりがない。そんな状態で、片手で剣を振って、両手持ちと撃ち合えるかといえば、もちろん無理である。
にしても短剣か。今度使ってみようかな。ダガーみたいなのにするか、両刃にするかだけでも、戦術が広がりそうだな。
あ、そうだ、1つ教えて欲しいのがあったんだった。
「爺ちゃん、抜刀術教えてくれない?」
「良いぞ、構えろ」
爺ちゃんはそう言うと、端に飾ってある刀に手を伸ばした。まあ抜刀術は鞘がないと、あまり意味がないけど、木刀でも良いんじゃないかな。それって一応模造刀だけど鉄の塊だよね。すごく痛そうなんだけど。
抜刀術、いわゆる居合切り。スキルでの【抜刀術】は持っているが、あれは最後に納刀してしまうので、使い勝手が悪い。出来れば納刀しなくて良い抜刀術が欲しい。
そしてココでの構えろは、頑張って受けろと言う意味だ。
暁流には受けの技しかない、つまり攻撃技は全て受けて覚える必要があるということだ。
そう、全て受けるのだ。相手の息遣い、筋肉の動き、力を込める瞬間、全てを読み取り全てを模倣し更に昇華させる。それが暁流なのだから。
この後、めっちゃボコられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます