第75話 サキ

 そこには先日リアルで会った神無月咲夜先輩がいた。


 この人全く顔を変えていないのですぐに分かった。俺も人のこと言えないけど。


「丁度いいところにいた、なあリューヤお前達が持っている指輪の魔法道具アーティファクト、貸してくれないか」


「これまた唐突ですね。貸すのはいいですけどちゃんと返してくれるんですよね?」


「ああ、ちゃんと返すとも。ステータスの方向性を決めたくてな、なんなら付き合ってくれないか」


 まあ先輩の性格からして返してくれるとは思っていたけど、一応言質は取っておく。


「別にいいですけど、今からですか?」


「ああ、どうせなら早い方がいいからな」


「じゃあ私も行こうかしら、ちょうど新しく手に入れたスキルの試運転もしたかったし」


 ……というわけで三人でフィールドに向かうことになった。


 先輩は俺から受け取った指輪を中指につけるとそのままモンスターの方に向かって【マインドスイング】と言いながら思いっきりぶん殴った。


【マインドスイング】杖術のアーツの一つで、効果はMPを消費して相手を杖で殴る。MPの消費量によってダメージ量は変化する。まさかこのアーツを使う人がいたとは、というかこれは杖術といっていいのか? 確かに指輪は杖判定になっているが、いやアーツは発動しているからいいのか。


 まあ確かにこの戦い方だと検証したくなるのもわかるな。いざスキルレベルを上げて指輪を手に入れてその後、実は発動しませんなんてなったら最悪だもんな。


「よし発動したな。これで大丈夫だ」


「先輩、その使い方だとすぐに耐久が切れるんじゃないですか?」


「む、確かに思ったより削れてるな。すまん。とはいえまあもともと武器ではないみたいだしこんなものか。まあそこらへんは素材やらなにやら試すしかないか」


「あの、神無月先輩、一つ聞きたいことがあるのですが」


 ミキがそう言うと先輩が、ん? と首をかしげて


「ああ、そういえば自己紹介してなかったな。改めて、サヤだ、よろしく。あと先輩は付けなくてもいいぞ」


「分かりました、サヤさん一つ聞きたいのですが【マインドスイング】はいつ使えるようになったのですか? いくらイベント期間中だからと会いえこんなに早くスキルレベルが上がるとは思えないんですが」


 俺はよく知らないが【マインドスイング】の習得レベルって高いのだろうか。まあミキがこういうんだからそれなりに高いのだろう。今は二陣が入ってまだ数時間しかたってないしな。


「【マインドスイング】のアーツが使えるようになったのは、はじめて大体一時間後くらいだな。モルドって人のクエストを勝てるようになるまで周回したら簡単に上がったぞ」


 あ、ミキが頭を抱えた。ミキ、先輩はこういう人だからあきらめなさい。


 というかモルドさんに勝ったのか、さすがだな。杖術なのにリンデさんの方じゃないのが先輩らしい。


「とりあえずこれは返すぞ。ありがとう。さて、それじゃあ私はダンジョンにでも潜って【魔力操作】を手に入れるために頑張るとしようかな」


 手に入れたところでエマから魔方陣を教わらないとマジックリングは作れないのだけど……この情報って公開した方がいいのか? いや魔方陣の情報だけ公開すればいいか。

 相変わらずこの辺りはまだわからないな。後で相談するとしよう。


「サヤさんもいなくなったことだし、今度は私の新スキルの試運転してもいいかしら」


「ミキも新スキル手に入れたのか。いいぞ」


 ミキが詠唱を開始する。あれ? なんかいつもよりも長いな。新スキルの影響か?        詠唱が終わると魔方陣が二つ展開された。その魔法からそれぞれ魔法が飛んでいき2発ともモンスターに着弾、モンスターがポリゴンとなって消えた。


「これってナツメがイベントで使っていた」


「あれは【魔力操作】の応用でしょ。これは【並列詠唱】効果は同じ魔法を複数個、同時に放つことができるわ」


「でもそれって【魔力操作】とあんまり変わってないんじゃないか?」


「【並列詠唱】は最初に使う魔法と個数を指定して、その魔法の合計分の詠唱時間が必要になるわ。これは確かに【魔力操作】と同じね。違うのはMPの消費量よ。魔法の個数を一つ増やすごとに元の魔法の一割のMPを使うわ」


「つまりMP消費が10の魔法を2つ使おうとすると2倍の詠唱時間と11のMPが必要になると……強くないか? それ」


 詠唱時間はかかるが合計時間は変わらないし、MPに関しては二つ目以降は9割減だ。かなりのブッ壊れスキルじゃないだろうか。


「確かに性能面で見れば強いけどデメリットもあるわ。まず指定した個数分の詠唱が終わらないと魔法の発動ができない。先に一つだけ放つ、みたいなことはできないわ。ターゲットも複数になるかからマニュアルだと大変ね。オートターゲットにすると、全部のターゲットか一つに集中しちゃうからマニュアルの方がいいのよね。あと詠唱中に移動ができない。移動すると強制的に詠唱失敗になるわ。ノックバック系のスキルやアーツとかは天敵ね」


 移動ができないのはつらいな。となると基本的にはパーティープレイ時の運用になるのかな。前衛が足止めして後衛から範囲魔法の同時砲撃っで感じで。


 これは俺もうかうかしてられないな、新しいスキルをとるか武器でも作ろうかな。

 そういえば最近スキルソードの店に行ってなかったな。アップデートで新しいスキルが入荷してるだろうし、今度行ってみよう。


 エマの方をどうするかも考えないとな。クランハウスが完成していない今、ルカがエマと一緒にいる間は大丈夫だろうけど、店の方が少し心配だな。NPCの店は店主がいなくても店の中に居ればメニューから売り買いが可能だ。つまり店の中はいつでも出入りが可能ということ。店の商品を見られて張り込みでもされると厄介だ。何か対策を考えないとな。

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