第73話 クランハウス

「強かったな、あのボス」


「そーだね、道中がリュー兄のおかげで難易度が下がってたとはいえ、ボスはかなり強かったね。他の人たちってどーやって倒すんだろ?」


 確かにそうだな。ラルミィがやられるってことは、並のタンクなら一撃もあり得る。他の人たちはどうやって対応してるのだろうか?


 まあそれは今じゃなくていいか、ボスと戦ってる間にコウから連絡が来ていた。

 クランハウスの候補をいくつか見つけてくれたらしい。他のメンバーの意見はすでに集めてくれたらしく、後は俺たちの意見を聞くだけらしい。


 というわけで見学することになった。


 一軒目は冒険者ギルド近くの建物。この辺りは多くの建物があるため、範囲を拡張して建物を大きくしたり、庭にしたりなどは出来ないらしい。


 二軒目は冒険者ギルドから少し離れた場所、この辺りは周りの土地を買い足す事で拡張が可能らしい。


 三件目はさらに離れて町の外周の近く、周辺に土地も多くさらに先ほどよりも安い。


 うん、どれも悪くない。交通の便に関しては、クランハウスにはポータルの設置が可能らしいからあまり考えなくてもいい。

 となると別にギルドの近くじゃなくてもいいな。


「二人はどこがいいとかある?」


「うーん、やっぱり後から広くできるのがいいな、庭とか作れそうだし」


「私はもうちょっと施設が欲しいから拡張できるほうが嬉しいな」


 二人ともギルドの近くの一軒目はあんまりお気に召さなかったようだ。となると二件目か三件目になるが、その前に一つ提案したいことがあった。


「なあエマ、クランハウスの方で店やらないか」


「クランハウスで?」


 簡単に言えばお店の移転である。

 こちらの方が人通りも多いし魔法道具アーティファクトも広がりやすい。現在のエマの店はプレイヤーに見つかっている状態だ。店の場所は遅かれ早かれ広まってしまうだろう。

 それなら逆ににこちらから晒してしまう方がいい。エマの店に即行けるのは俺だけだし、クランハウスならクランメンバーの誰かしら助けに入れるだろう。


 店をやるということであれば立地的には二件目の方がいいだろう。やらないなら土地の値段も安い三件目かな。


 エマは少し悩んだ後に……通りでお店やってみたい、と言った。







「それでここに決まったわけね」


「そういうこと」


 現在はクランハウスの前のカフェでミキとティータイム中だ。ちなみに現在クランハウスはリフォーム中で入ることができない。お店を出す影響で一階の一部を店舗として使うことにした。もちろんクランメンバー全員にも話し、許可はもらっている。今回のリフォームに関しては、俺のエゴなので、クランハウスを買う用とは別で、俺の金で行っている。もちろんこのことはエマには内緒だ。知られたら自分も出すとか言いかねない。


「そういえば運営から不具合報告来てたけど、リューヤも対象じゃないの?」


 不具合報告? 俺か対象ってことは、何かやらかした覚えは……多分ないので大丈夫だと思うのだが、確認しておこう。


 以前PVPの時にいろいろお騒がせしたからな、今回は違うといいのだが。


 ふむ、調教師テイマー召喚士サモナーの職業の人に関する不具合か。内容は要約すればダンジョン内での宝場の中身や、ボス討伐の報酬に従魔の分が入っていないというところか。

 やっぱりあれ不具合だったのか。よく考えたらエルダートレントの強さってあれ6人パーティーで挑む前提だったもんな、さすがにあれを3人で攻略するのは無理がある。

 で、不具合中にダンジョンに入った人へのお詫びがあるみたいだな。中身は、いろいろあるな。でもこれ全部見おぼえあるぞ。確かダンジョン内出で手に入れたアイテムだ。すべて三つずつあるってことは従魔たちの分の報酬をまとめて送ってきたわけか。あとでルカとエマにも話して分け前の相談をしないとだな。まあ、あの二人なら従魔たちの分だからいらないとか言いそうだが。

 とりあえず手は付けないでおこう。


「錬金術に関してはどうなってるかわかるか?」


「ええ、錬金板なんていかにもな物が出てるからね。みんなそれの使い方を必死で探ってるわ。まあ、【魔力操作】が必須だろうってのは分かってるからそれを狙ってダンジョンに何度も潜ってるっ人もいるし、すでに手に入れた人はさっそく取得してレベル上げを頑張ってるみたいよ」


「なるほど、それで撃沈してるやつが何人か出ていると」


 掲示板は阿鼻叫喚だそうだ。もともと扱いの難しいスキルらしいからな。まともに動かすのに、一週間くらいかかるとかいう話もあるらしいし、俺って実はすごかったんだな。


 まあ中にはさっそくコツを掴んだ人もいるみたいなので、少しずつ広まっていくことに期待しよう。


「それと、【クイックチェンジ】のスキルソードも見つかったらしいわよ」


 ああ、ついに見つかったのか。まあモルドさんに勝つのは難易度高いし、俺だけ持ってるっていうのも問題だろうしな、仕方ないか。


「ちなみにだけど【クイックチェンジ】はどちらかというとハズレだからね。そんなにポンポン武器を変える人なんていないのよ。リューヤが例外なだけ」


 聞いたところによると、大体の人は一種類か二種類しか武器を持たないそうだ。まれに三種類持っている人もいるらしいが、そういう場合でも事前に敵の弱点タイプの予想をして、挑むため武器を変えるので戦闘中に変えることはほとんどないそうだ。

 確かに、メイスに刀、銃三種にガントレット。これだけたくさん使ってるのは俺くらいだ。理由としてはスキルレベルの問題だろう。俺がこんなに多種の武器を使えているのは、モルドさんとの勝負で、スキルレベルがものすごい速さで上がること、そして銃に関しては杖スキルを一切使わないからだ。

 これに関してはミキも同じだな。俺の銃とミキの指輪は武器のカテゴリとしては杖に当たるが、杖によるアーツは基本的に使われることはない。杖のアーツにもいろいろあるが、使えそうなのは……


【マインドスイング】MPを消費して相手を杖で殴る。MPの消費量によってダメージ量は変化する。


【マジックブレイク】杖で殴ることで相手の魔法をキャンセルさせる。詠唱中の敵などを殴らないと失敗する。


 とこんな感じである。どちらも相手に近づかなくてはいけないので、基本的に使われることはないし、使おうとしても避けられるか使う前にやられるので意味がない。

 ルカなら辛うじて使えるかもしれない、ってレベルの物だ。それなら別の武器のスキルレベルを上げて、近づかれないように立ち回る方がいい。

 という感じで杖は基本的に性能面で選ばれることが多く、耐久値なんてほとんどの人は見ない。


 ただ、もちろんこれにも例外はいる。


「ん? お前リューヤか、思ったより早く会えたな」


 そう言って近づいてくる人物が一人。うん俺もそれ思った。いつかは顔合わせるだろうなと思ってたけどここまで早いとは。


「この前ぶりですね、先輩」


 そこには先日リアルで会った神無月咲夜先輩がいた。


 ……人のこと言えないけど、もうちょっと顔変えた方がいいんじゃないか?

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