第71話 エルダートレント

 リューヤとナツメは同時に空を飛び、枝を引き付ける。


 一人の場合は避けきれないだろうが、ナツメも飛んでいることによって追ってくる枝が減っている。この数なら何とか避けきれそうだ。


 リューヤとナツメに枝が集まったことによりほかのメンバーへ攻撃する枝がかなり減った。この量ならタンクがいなくても問題ない。


 ラルミィは分裂して一体をエマの護衛に残し、散開する。そのまま魔法の詠唱を始める。最初の段階では散開しても、枝が多くて魔法の詠唱中にダメージを負ってしまって、うかつに分裂できなかった。ラルミィに関しては幹に直接攻撃するより、散開して、魔法で攻撃する方がダメージが通りやすい。


 そういうのは他の二人に任せればいい。


「行くよ、フェルちゃん」


「了解【人化】解除」


 ルカと狼になったフェルスが駆け出す。そんな彼女らを止めようと枝が迫るが、その枝はラルミィが放った魔法により落とされる。


「【ウインドブースト】【ウインドアーマー】【ハイスラッシュ】って思ったより硬いんだけど。リュー兄どんな攻撃力してんの?」


『【氷鎧】【氷刃】むう、硬い』


 硬いと言っているがやはり弱点だったらしくHPの減りが早い。ラルミィの魔法の波状攻撃もかなり効いているし、エマのグレネードランチャーも多くの枝を巻き込みダメージを与えている。







  一方リューヤとナツメは空中で弾幕ゲームを行っていた。


「まったく、切りがないな。長引けば長引くほど逃げ場がなくなるぞこれ」


「まったくじゃ。切ってもすぐに再生するし二人じゃいずれ限界が来るぞ」


 下と違い上の戦況はかなり悪い。いくらでも伸びる枝。切ってもすぐに再生するのでどんどん逃げるスペースがなくなっていく。


 下からエマがグレネードランチャーで援護しているが、それでも追いつかないレベルでかなり厄介だ。


【飛行】スキル持ちならラルミィもいるが、ビックバットはそこまで軌道能力が高くないのですぐに捕まってやられてしまうだろう。


「【クイックチェンジ】タイプ納刀【抜刀ノ太刀・雪華】」


 近くに迫ってきている枝をすべて切り落とし、すぐにその場を離脱する。


「【抜刀ノ太刀・雪華】は使わない方がいいな。下からの攻撃に対処できないし、隙が大きい」


 リューヤ達からも幹に攻撃できればいいのだが、そんな贅沢を言ってられないくらい枝が多い。


『ナツメ、いったん【飛行】を切るぞ、8秒頼む』


『了解じゃ』


リューヤが【飛行】スキルを切って、枝に飛び乗り、手に持った刀で邪魔な枝を切り落としながら、幹に向かって走る。リューヤに向かっていた枝たちは、いきなり攻撃対象を失って、一瞬だけピタッと止まり。すぐにナツメの方へ向きを変えて動き出す。


「【肆ノ太刀・燕返し】【クイックチェンジ】タイプメイス【ハイスマッシュ】」


【肆ノ太刀・燕返し】は一息で三つの斬撃を繰り出すアーツだ。とりあえず手数が欲しい今の状態ではありがたいアーツだろう。手数であれば【弐ノ太刀・五月雨】もあるが、あの技は刺突系の技なので枝を切るという用途には合わない。

【肆ノ太刀・燕返し】で幹に近づきメイスでアーツを放ち、すぐに離脱し【飛行】を使う。


 ナツメの方へ向かってた枝が半分ほど向きを変えて襲い掛かってくる。


 続いて【ナツメ】が飛行スキルを切り、魔法を放っている。

 ナツメを追っていた枝が一斉にリューヤに向かう。


 これならまだ持ちそうだ。







 リューヤ達が激しい弾幕戦を繰り広げる中、ルカの声が響いた。


「HP半分切るよ!行動の変化に気を付けて」


 それと同時に枝の動きに変化があった。


 すべての枝が幹の近くに集まったと思ったら、まっすぐ上に伸び、一定の高さのところで角度を変え、リューヤ達の上を飛び越え、弧を描くようにそのまま地面に突き刺さった。


「これは、鳥かごかな」


「囲まれたようじゃの」


「行動範囲も減ったな」


「でも攻撃してくる枝がなくなったよ」


 エマ、ナツメ、リューヤ、ルカがそれぞれ言う。

 確かに移動範囲が減って逃げ場も減ったが肝心の攻撃してくる枝が一本も残っていない。これでは弱点の幹に攻撃してくださいと言っているようなものだ。


 そして、それを一番最初に感知したのはルカだった。


「【索敵】スキルに反応あり。場所は……下」


 最初に狙われたのは大量に分裂していたラルミィだった。

 地中から出てきたエルダートレントの根がラルミィの分裂体を吹き飛ばす。


 分裂体はそれだけでHPがなくなった。


『耐えられないなら回収する』


 エマの護衛をしていた一体をのぞいてラルミィが分裂体を回収する。【索敵】スキルを持っていないラルミィだと避けられないと判断したんだろう。


 エマを護衛していた分裂体もエルダーウルフに擬態してエマを乗せながら走ることで根の攻撃を回避している。


「【肆ノ太刀・燕返し】っとやっぱ切れないか。こっちは空中に居る分さっきよりは量が減って楽なんだが」


 リューヤは根をよけながら、全員を覆っている枝を切れないかと、アーツを使ったが、切れることはなかった。


 空中に居るリューヤとナツメは、根の攻撃が二人以外も狙うようになって、ずいぶん楽になっていた。といっても逃げられる範囲が狭くなったので。そこそこ楽になった程度ではあるが。


 「ラルミィが攻撃できない分、俺たちも攻撃した方がよさそうだな。根に関しては【飛行】スキルを切っても追ってくるだろうから、使いっぱなしでいいか」


 リューヤとナツメも攻撃を開始する。

 ラルミィの大量の魔法攻撃はなくなったが。リューヤとナツメが攻撃に加わったこと、そして下で根をよけながら攻撃しているエマ、ルカ、フェリスの三人の攻撃によって、大体鳥かごでできる前と同じくらいのダメージ量になっている。これなら時間の問題だろう。システムによって動いているモンスターはこういう時は弱い。


 そしてそのプレイヤー達にモンスターが対抗できるように作られたのが行動パターンの変化だが、これも見切られてしまえば、意味がない。では、モンスターが勝つにはどうしたらいいか。


 見切られても、問題ない攻撃をすればいい。


「残り体力一割切ったよ」


 鳥かごの役目をしていた枝が動き最初のようにうねり始める。


「なるほど、つまり最後は枝と根の同時攻撃ってわけか」


 リューヤの言葉とともに、戦いは最終局面に入った。

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