第69話 ダンジョン内

 さて、ダンジョン内に入ったのはいいのだが、よくよく考えたら何の準備もしてなかったな。


 ダンジョン内はどうやら想像していた洞窟ではなく、雲一つない空の広がった森の中だった。



 ……どゆこと?



 どうやらダンジョン内は入るたびに中の様子が変わるらしい。今回は森エリアのようだ。ルカの話では、他にも洞窟エリア、草原エリア、湿原エリア、砂漠エリアなどがあるらしい。ダンジョンのことを調べていた時に、どうも意見がかみ合わない部分が多いと思ったら、人によってエリアが違ったからなのか。そういう意見は信憑性が低いから、除外して調べてたからな。


 罠とかもあるって公式ホームページに書かれてたし、せめて【罠探知】のスキルソードを買ってくるべきだったか。

 ほかにも有用なスキルはあっただろうし、一回スキルソードを見に店に行くべきだったな。


 とりあえず罠などの警戒をしながら進むとしよう。


「【召喚】ナツメ、ラルミィ、フェルス」


 迷宮のレベルがわからないので、とりあえず全員【召喚】して進むことにする。


 しばらく進むと、なんだこれ? なんか草が一部分だけ妙に多いんだけど。ちょっと調べて見るか。


 インベントリからミキ用に作っていた棒の試作品を取り出した。ルカがなぜか驚いているけど無視し、とりあえず突いてみる。反応はなし。次は周りを突いてみたが、これも反応なし。感圧式の罠でも落とし穴でもないようだ。近づいてみるか。


 よく見ると草の先端が結んである。これに足が引っかかれば転んでしまうだろう。思っていたよりも地味だな。この程度の罠ならかかってもさほど脅威にはならないと思う。

 などと考えていたら急に周りにいくつもの気配が現れる。全権撤回だ、戦闘中にこの罠は危険だ。


 戦闘しながら足元にも注意しなきゃいけないとか、厄介すぎる。


「ラルミィ【分裂】して全員のカバーに入ってくれ」


 ラルミィが5体に分裂しそれぞれのカバーに入る。敵の名前はフォレストボア。イノシシ形の魔物で数は3体。俺たちを囲むように現れた。


「前方のは俺がやるから後ろの二体は頼む【クイックチェンジ】タイプハンドガン」


 ハンドガンを装備し、ホルスターを入れ替え、打つ。この弾丸はゴールデンスライムの時にも使った、射程と追尾性能を極端に上げたストーンバレットだ。

 威力は低いが。確実に当たるので5発ほど打ち込み倒した。


 強さはそれほどでもないかな。ルカでも問題なく倒せるレベルだろう。振り返るとちょうどルカがフォレストボアを横から切り付けて倒した所った。エマはどうだろうか? ラルミィがいるから、負けることはないだろうけど。


 エマの方を見ると……エマがモーニングスターを振り回してフォレストボアを圧倒していた。あれなら問題ないだろう。なんか華奢な女の子があああいう鈍器を振り回してるとギャップがあっていいよね。


 よくよく考えたらエマは鍛冶なんかもしてるしDEXやSTRが高いのだろう。武器が重い打撃武器なのも納得だ。


 エマでも問題なく倒せる強さということは、エマは俺たちと大体同じ強さと考えてもいいだろう。

 となるとカバーはラルミィだけで十分だろう。ナツメとフェルスは今回何もしなかったから過剰戦力だな。もう少し的の数が増えてもラルミィがいれば問題なくた倒せるし、必要ならその都度【召喚】すればいい。


 ということでラルミィを残し、他は【送還】した。


 さて次は罠に関してだ。先ほどのフォレストボアは、急に現れた。おそらく罠に触ったことで、スポーンしたと考えていいだろう。

 棒で触った時には反応しなかったんだが、どういう条件下で発動するのだろうか? そこらへんがまだ分からないので、次からは罠は避けていくくことにしよう。


「ちょっと待ってリュー兄。全く分からないんだけど、いったいどこに罠があるの?」


 ルカがそんなことを言ってきた。見れば分かるだろう。一部だけ妙に草が生い茂っている場所だ。さらによく見れば他の草と少し色が違う。


「いやだからそれが分からないんだって。道は一面草が生えてるし、確かに草が多いとこもあるけど、罠以外のところにも似たような場所があるし、見分けかが全くつかないんだけど」


「そんなことと言われてもな。エマだって分かるだろ」


 エマにも分からないと言われた。解せぬ。


 取り敢えず罠を見分けることが出来るのが、俺だけなので、俺を先頭に最後尾をルカにして、罠を見つけたら知らせて避ける、という感じで進んでいった。


 結構進んだと思うが罠の数がかなり多い、地面以外にも皮の色が違う木に、草の中に紛れている糸など、罠と思われるものが多数発見された。


 そしてその代わりモンスターの数は少なかった。


 今のところ出てきたモンスターはフォレストボア、フォレストラビット、フォレストスライム、フォレストゴブリン、トレントといったところだ。


 エマとルカがトレントの擬態に少し苦戦した程度で、かなり簡単に倒すことができた。

そして折る程度進んだところで……


「なあルカ」


「なに?」


「あれってやっぱ宝箱だよな」


「そうだね」


「でもあれってさ」


「うん、私でもわかるよ、罠だと思う」


 そう、道のど真ん中に、いかにも罠ですという感じで、宝箱が置いてあった。


 これ、どうしよう?


 【罠解除】のスキルがあれば、解除して漁ることが出来たかもしれないが、生憎そんなスキルは持っていないので、今回はスルーするしかないだろうか。


 「開ける手段もないし、今回はスルーしようか。いいタイミングだし、休憩しよう。そろそろ何か食べないと、空腹度がそろそろ危ない」


 という訳で、ナツメやフェルスも【召喚】して食事を取ることにした。


 エマも【料理】スキルを持っていたので手伝ってもらってご飯を作る。

 最近ナツメも幼女の姿になることが減ってきたし(減っただけ)毎回作るのは少し面倒だけど、インベントリに作り置きしておいたものより、今作った出来立てのほうがおいしい気がするんだよな。

 まあこれに関しては気がするってだけだからただ単に気分の問題だと思うけど。


 ナツメもラルミィもルカもよく食べるので食材の消費量がえげつない。ナツメやフェルスに関しては【召喚】してないのでお腹はすいていないはずだが、そんなもん知らんとばかりによく食べる。フェルスもそれなりに食べてるし、従魔にとって食事は娯楽の一種なのかもしれないな。


 ここまで消費量が多いと【解体】スキルを取っておいてよかったな。これがなかったらすぐに枯渇してたぞ……っていうかおかしいな? いつもより消費量が多いんだけど? コウとミキがいた時よりも多いってどういうことだ? このままだと下準備した食材がなくなるんだけど、どういうことだ?


 いつものメンバーだと俺、ナツメ、ラルミィ、フェルス、ルカ、コウ、ミキの7

人。この場にはコウとミキがいないから5人、エマを入れて6人。この状態から導きだせる解は、エマが2人コウとミキ以上に食べるということか。

 いやちょっと待て、それはおかしい。エマは最初から俺を手伝っているじゃないか。確かに今は手伝いを抜けてご飯を食べてはいるが。そのペースは普通だ。この消費スピードはおかしい。いったどうなってるんだ?


 もう一度考えを整理しよう。一回深呼吸して周りを見よう。


 まず目の前にはいつの間に出したのか机が置いてある。これはまあいい。インベントリとかにしまってあったんだろう。そして席についているナツメ、フェルス、ラルミィ。ここまでも問題ない。そして立食しているエマとルカ。これも問題ない。最後に足元で肉を食っているウルフが5頭……ウルフ?


「お前らかー!」


 いやいつからいたお前ら! 全く気が付かんかったぞ。っていうか誰? ラルミィの分裂体じゃないよな!

 いつの間にか野生のウルフが食卓に混ざってるんだけど、どゆこと?


 モンスターって基本的に人を襲うはずなんだけど、そんな気配ないな。ノンアクティブなのかな? 名前はフォレストウルフ。初めて会うモンスターだな。

 こういう場合どうするべきなんだろう。追い払えばいいのか。でも害はないよな。ナツメやラルミィも反応してないし、食べ終わったら敵になる、なんてこともなさそうだ。


「リュー兄こういう時って大体新しいスキルが生えてるんじゃない?」


 なるほど、そういえばスキルってスキルソード使う以外にも入手できるんだったな。思いっきり忘れてた。

 スキル欄をのぞいてみる。うんなんよく分からんスキルがいろいろ生えてるな。

【ブレイカー】とか【デストロイヤー】とか物騒なものが多いのが気になるがそれは後だ。

 えっとこれかな? 【餌付け】スキル。効果は餌付けしたモンスターと同じモンスターがノンアクティブになる。料理の完成度合いでプレイヤーを助けることもある。同じモンスターのテイムの成功確率が上がる。

 取得条件は一度も倒したことのないモンスターに料理を与え満足させること。


 そんなに難しい条件じゃないな、一度も倒したことがないってところが少し厄介だけど、この条件ならほかにも持っている人がいそうだな。


 問題があるとすれば、『満足させること』の部分か。これは量に関してなのか、質に関してなのかが分からないな。後でコウたちも交えて話すことにしよう。


 とりあえずフォレストウルフに関しては問題ないことが分かったし。進むとしよう。

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