第68話 錬金板

「なるほど。それでクランに加入したわけか、できれば事前に連絡してほしかったぜ」


「いや悪い、忘れてた」


 エマのクラン加入だが、『天使の翼』のクランの加入には、クランマスターとサブマスター1人の了承、もしくはサブマスター全員の了承のどちらかが必要になる。この加入条件に関してはギルドに行けば変えることが可能らしい。

 ちなみに『天使の翼』のサブマスターはコウとミキ、ルカの3人である。


 俺の了承だけでは、加入にならなかった。幸いすぐにコウが気づき、加入を了承してくれたので、加入はできたが、気づかなかったら。エマを待たせることになってたな。


「それはそうとクランハウスを買いたいんだが、リューヤは何か要望とかあるか?」


「クランハウス? 必要なのか?」


「ああ、拠点にもなるし、内緒話もしやすい。おまけにエマさんの避難場所にもなる」


 なるほど、確かに今のエマには簡易ポータルがあるとはいえ、逃げられる場所は限られる。俺が店の奥に行けたことからも、ほかのプレイヤーが店の奥に行くことは可能だろうし、その場合連絡を取れるプレイヤーが、噴水広場に先回りすることもあるだろう。エマがクランに入れられることはないとしても、アーティファクトを作ることのできる貴重なキャラだ。何が起こるかわからないし、避難場所は多いほうがいい。それにクランハウスなら、クランメンバー以外は入ってこれないし、避難場所としては最適だ。


 人見知りなところはすでにパーティーメンバーにも話しているらしいし、顔合わせした後に、少しずつ慣れていってもらえばいいだろう。


「わかった、それじゃあ鍛冶場が欲しい。後は、錬金術が使える部屋も、なるべく鍛冶場の近くに」


 鍛冶場があれば一々部屋を借りなくていいから楽だし、錬金術が使える部屋が近くにあれば移動の手間が減るからな。


 「分かった。とりあえず店の噂が広まる前に、購入できるように急ぐけど、少し時間が掛かるかもしれないから、なるべく傍にいてやってくれ」


 そう言ってコウは冒険者ギルドに入っていった。とりあえず手持ちの金はクランハウスの購入用に、ほぼ全額預けたので、今はすっからかんだ。コウに言われた通りエマの傍にいることにしようと思っていたら。後ろから声をかけられた。


「リュー兄、こんなとこで何してるの? もしかしてダンジョンに挑むの?」


 ルカだった。そういえば新しくダンジョンができたとかいう話だけど、エマのことで全く情報収集をしてなかったな。でもなんで今ダンジョンの話になるんだ? ここは噴水広場だから、東西南北どのエリアからも離れてる場所だし、ダンジョンの前までワープできるようになったとか? いや、エマの店に行くときにそれっぽいものは見てないし、そもそも一回行ってアクティベートしないと解放されないだろう。なぜルカはこの場所でダンジョンに挑むなんて話になったんだ?


 ルカに詳しく聞くと、なんとダンジョンができたのは街の真ん中。冒険者ギルドの真横らしい。あれ? あそこって武器屋じゃなかったっけ?

 店舗は冒険者ギルド内に移ったそうな。まあそれなら納得か。確かに今のタイミングでここにいたらダンジョンに挑もうとしてるって思われても仕方ないな。


 今はエマの傍にいた方がいいだろうから、ダンジョンに挑むという点は否定しておく。


「にしても、こんなところにあったんだな。町中にあって大丈夫なのか?」


「うん、結構厳重に管理されてるみたいだよ。NPCの冒険者が交代で見張ってるみたい。それと【錬金】に関してだけど、エマちゃんの重要度は少し下がったみたいだよ」


「重要度が下がった? どういうことだ?」


 ルカはインベントリを操作して一枚の板を取り出す。これってもしかして……


「このアイテム、錬金板って【錬金】で使うものでしょ。お店に売ってたよ。【魔力操作】と錬金板の二つがあれば【錬金】スキルは覚えられるんでしょ。後はダンジョンから【魔力操作】のスキルソードが出てくれば、あとは重要なのは魔方陣くらいじゃないかな?」


 なんと、錬金板はエマのところでしか売ってないのかと思っていたが、ほかのところでも売り出したのか。まあ、俺も少ししたら、アーデさんのところにでも売りに行こうかな、とか考えてたし、このままだとエマを見つけない限り【魔力操作】のスキルがあっても【錬金】には繋がらないしな。エマのところに行くには魔石の用途をNPCに聞くか、町の中のすべての扉を調べる必要がある。ただ大体の人は魔石を換金アイテムか、召喚士の専用アイテムみたいに思っているので、わざわざNPCにそんなことを聞く人はそうそう居ないだろう。扉に関しても、エマの店に行くまでに、最短で動いても数十枚はあったから、しらみつぶしに探すとしても相当時間がかかることになるだろう。


 エマがどこかのクランに加入したら、錬金板をそのクランが独占して【錬金】スキルが広まらない可能性もあるし、それに対する対策の可能性もあるか。

 まあ、錬金板のこととかあって、エマの重要性が低くなったといっても、危険性があるのは変わらない。どちらにしてもエマのところに行くのは変わらんな。


「ねえ、エマちゃんって戦闘はできないの?」


「いや、冒険者ギルドには加入しているらしいし、ある程度の戦闘はできるらしいぞ」


「じゃあさエマちゃんも一緒にダンジョン探索しない?」


 エマと一緒にダンジョンか。その発想はなかったな。確かにそれなら一緒にいれるし、ダンジョン内はインスタンス系なので他の人と会う心配もない。

 ただ……エマがどれだけ戦えるかもわからないし、ダンジョンがどの程度のレベルなのかも分からない。とりあえずダンジョンの情報が欲しいな。

 というわけでネットで検索。ふむ、いろいろ情報が出てるが、どうやらダンジョンに潜るパーティーのレベルで、ダンジョンの難易度が変わるらしい。パーティー内の平均レベルか最低レベルによって難易度が変わるのではないか、という意見が多いようだ。

 これ大丈夫か? 平均レベルの難易度だったら、エマのレベルが高くても低くても結構危ないと思うのだが。


「リューヤ、来たよ。ダンジョン行こ!」


「ん? エマ! どうしてここに」


 気づいたら、フル装備のエマが隣にいた。


「私が呼びました! よろしくね!」


 ルカが呼んだのか。いつの間に、って俺がネットで調べてる時か。クランチャットを使ったな。ちゃっかりフレンド登録してるし。エマも適応力高くないか? 俺の時と反応違うよな? もしかして人見知りというより男が苦手なのか? いや、クランメンバーだから最初から好感度が高いのか?


 まあ、来てしまったのだからしょうがない。フル装備で来てやっぱやめようというのも問題あるだろうし、行ってみるとしようか、ダンジョン。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る