第57話 攻撃力の正体

 この状況で笑うってこいつかなりの戦闘狂バトルジャンキーだな~。


 さてどうしようかな~。うわさには聞いてたけど~、これはちょっと予想外だな~。

 ステータスがかなり高いってのは例のクエストのレベルアップのせいだとしても~、あの良く分からない魔法は、かなり危険だな~。それに見合うプレイヤースキルも持ってるみたいだし。攻撃を防いだのも偶然じゃないみたいだしね~。


 何度も攻撃を繰り出してはいるが、全てガントレットで防がれてしまう。

 右と左で色が違うのは使っている素材の違いか? それともこちらをだますため?   いやそれは違うな。もし同じ魔法なら、当てられそうな場面はいくらでもあった、なら違う魔法が使えると考えるべき。


 空中に足場を作るスキルと【体術】のアーツを重ねがけされるとこっちよりも一瞬速くなる瞬間がある。しかもその速さでの3次元移動。だが、それを十分に生かせていないのはおそらく自分の速さに目が追いついていないのだろう。


 結構勘で動いてる部分があるように見えるな~。でもその割に結構鋭いな~。的確にこっちの防ぎにくいところを狙ってくるし~。ここまで戦いにくい相手は~……モルドくらいだな~。


 アルミもモルドと戦ったことはある。結果は負けだ。モルドの強さはプレイヤーのレベルによって変わるが、実際にはプレイヤーのステータスによって変わるのだ。それも全てのステータスがプレイヤーよりも上に設定される。プレイヤーがモルドに勝つにはモルドを超えるプレイヤースキル、もしくはモルドとのステータス差を埋めるスキルそのどちらか、もしくはどちらとも持っていないといけない。

 いくらAGIを上げてもモルドはそれを超えてしまうのである。自慢のAGIもモルドに超えられてしまえば、あの狭いフィールドの中では意味が無い。これがアルミがモルドに勝てない理由だ。


 リューヤはモルドに勝ったと言われるだけのプレイヤースキルはあるが、ここまでAGIに特化している敵と戦ったことは無いのだろう。現在登場しているモンスターで一番早いのはフライビルフィッシュだ。だがボスとも言えど所詮モンスター。パターンさえ覚えてしまえば勝つのは簡単だ。

 だがアルミはモンスターではない。決まったパターンの攻撃なんて物はないのだ。そしてこの高速戦闘、普通だったら1分も行えばミスを犯してもおかしくないが、二人ともミスはない。

 アルミは十分自分の目で見えているうえに、ボスと戦う時はいつもこの高速戦闘なのだから、まあ簡単に言えば慣れである。


 リューヤの方は抜群の索敵能力と勘の良さで、追いつかない目をカバーしている。普通は勘でミス一つ無く動くなんてのは到底無理なのだが、リアルラックが高いリューヤならではといったところだろう。




 ◇




 楽しいな。


 ギリギリの戦いとはこんなに楽しいものだったのか。アルミが速すぎて見失うこともあるがそこは気配を探ったり勘で何とかしている。

 モルドの時はプレイヤースキルが求められた。駆け引きや、意表をついての攻撃。だが今回は違う。今回求められるのは速さのみである。後はただ全力で攻撃を振るうだけ。駆け引きなんて物はない。そんなことをしていたら相手に攻撃を叩き込まれるだけだ。と言うかそんなこと考えてる暇なんて無い。必要なのは速さ、それだけである。


 やはりアルミの動きには不自然さが目立つ。何故なら攻撃を弾くのは良いんだが、たまに受け流したりしているのだ。弾くことの出来る攻撃と出来ない攻撃の違いは何だ?


 ああ、速すぎて思考する時間すらもらえない。

 AGIが上がったら思考時間なんかも速くなるのだろうか?

 だったら宿題とかも速く終わるな……そういえば今ですら四倍の速さだったな。ハッ、と言うことは夏休みの宿題も4倍の速さで終わるって事じゃ……


「隙あり~」


「アブネッ!!」


 いけないいけない、今は戦闘中だった。

 宿題のことは後にして今は戦いを目一杯楽しもうじゃないか。


 とは言えどうにかして攻勢に出たいな、どうにかして仕切り直すか……そういえば俺、空に逃げれば普通に仕切り直し出来たな。


 と言うわけで一旦空に避難。と言っても【空歩】は数秒しか持たないので休憩が取れるほどではないが。まあでも仕切り直すには十分だ。


 アルミは少し離れて警戒してるな。【アースブレイク】を警戒しているのか。まああれは威力が高いけど対処が簡単だからな。ここで撃ったとしても確実に避けられるから撃たないけど。


 ……威力が高い? 理由は? 高い所から落ちるエネルギーを攻撃力に変えているから。……もしかして。


 俺はブーツに魔力を流し【空歩】と【ハイジャンプ】を使ってアルミに攻撃を仕掛ける。


 アルミに向けて右のガントレットを打ち込む。今回は魔力を流していないので【エクスプロージョン】は発生しない。

 アルミはダガーでそれを受け流す。

 俺はすかさず左のガントレットを打ち出す。

 アルミはこれも受け流す。

 ふくらはぎの魔方陣に魔力を流し、蹴りを打ち込む。

 アルミはこれをダガーでガードし、そのまま勢いを殺すように後ろに飛ぶ。

 後ろに跳んだアルミは助走をつけるとそのままのスピードで突っ込んでくる。

 俺も同じ用に走ってもう一度先ほどのように右手を打ち込む。

 アルミはその攻撃を弾き返した。


 ……なるほどな。


「そう言うことか。ようやく分かったぞ」


「なんだって~!!」


 アルミは驚いたように言う。


「……いやまだ何にも言ってないんだけど」


「で、結局何が分かったのかな~」


「お前の攻撃力だよ。俺は今まで勘違いしていたみたいだな。俺はお前がスキルを使ってSTRをブーストしているんじゃないかと思っていたんだが、違ったみたいだな。お前の攻撃力は俺の【アースブレイク】と同じように助走落下をつけることによって攻撃力を出していたんだな」


 先ほどの攻撃、俺からアルミに向かって行った場合ではアルミは攻撃を受け流していたが、アルミから突っ込んできた場合は受け流さず弾いた。

 これでようやく分かった。


「まあ攻撃力の正体が分かったからといって~、対処出来なきゃ意味ないけどね~」


 その通りだ。カラクリが分かれば対処はしやすい。ただ、しやすいだけであって出来るかどうかとは関係ない。


 取りあえずアルミを加速させないようにしなければあの驚異的な攻撃力は出せないので。張り付くように移動しながら攻撃すれば良いのだが、当然アルミもそれは分かっている。そう易々と張り付かせてはくれないだろう。


【エクスプロージョン】を入れられればこちらの勝ちなのだが……まあ当てる方法はいくつかある。その内のどれかに引っかかってくれると良いが……


 もう一度アルミとの戦闘を開始する。コウ達の戦闘もそろそろ片付きそうだし戦闘に乱入される前に決着を付けておきたいな。


 アルミの攻撃を【空歩】と【ハイジャンプ】と【ウインドボム】重ね掛けの立体機動で躱す。


 不意にアルミの足下が崩れた。

 それを見て俺はガントレットに魔力を流す。


 もちろん足下が崩れたのは偶然ではない。この地帯は最初の戦闘中に俺が【エクスプロージョン】で壊しまくったのだ。そんな場所で走り回ったらつまずくか崩れるかくらいしても何もおかしくない。


 右手をアルミに向かって打ち込む。アルミは寸前の所でダガーで反らし直撃を避けた。……ところで左手の存在に気づく。アルミはもう一本のダガーで左手のガントレットを弾く、だが問題ない、この魔法は触れてさえしまえば効果が出る。


 右手の警戒はしていたのだろう。右手を打ち込んで弾いたところで左手の・・・ガントレットの魔法陣か発動する。左手のガントレットには【雷属性魔法】の魔法陣が付いている。


【雷属性魔法】はエマに教えてもらった。なんでも【風属性魔法】のスキルレベルを上げると使えるようになるらしい。【雷属性魔法】は、金属などに触れた場合にそれを伝って攻撃が届く特性がある。防ぐには雷耐性のある装備をするか。絶縁体を透けた装備が必要になってくる。もうちょっと詳しく言うと攻撃魔法の場合、かなり威力が減衰するとかいろいろあるのだが、今回は割愛する。

 まあ現時点で【雷属性魔法】を覚えているプレイヤーが何人いるか分からないが、【雷属性魔法】は、最も対処が簡単な魔法といえるだろう。極論ゴム手袋で防げるのだから。今回言えることは、ナイフで受けた場合は魔法が当たるという事だ。


「! この魔法は~? 身体が上手く動かない~!!」


 この魔法はダメージをあたえることこそ無いが、相手を一定時間、麻痺状態にさせる事が出来る。状態異常麻痺になると一定時間身体の一部が場所と箇所はランダムだが動かなくなる。今回の魔法でアルミは右足が動かなくなっているようだ。


 片足が動かないのであれば右手を打ち込むことも簡単だ。俺は右手を後ろに引き魔力を流し始めた。


 それをアルミに振り下ろそうとした瞬間背後から何かが跳んできた。俺は腰をひねり、跳んできたそれをガントレットで吹き飛ばそうと拳を突きつけると爆発音とともに吹き飛んだ。


 ……俺が。


 そのまま壁にぶち当たりようやく止まる。


 今のは……【ファイアーボール】だったよな。それが【エクスプロージョン】に勝るなんてそんなことが。


 いや、そんなこと出来るやつが居たな。


「見つけたのじゃッ!、主」


 そう、ナツメである。

【魔力操作】で過剰に魔力を込めることで威力を上げることが可能になる。


 現在ナツメは【ファイアーボール】を五つ周りに展開させて自分の身体の周りを回らせている。

【魔力操作】の応用か。そんなことまで出来るのか、周りに展開している所から察するに、展開出来る範囲は1メートルあるかないかくらいなのだろう。


 無詠唱と同じくらい質悪いな。しかも威力が自由とかこりゃ本気で相手しないとやられかねない。ナツメの命中精度もバカに出来ないからな。

 アルミの麻痺もそろそろ解ける頃だ、追撃は諦めてナツメに集中しよう。


「【クイックチェンジ】タイプ刀、サブウエポン・タイプメイス」


 右手に刀、左手にメイスを持って臨戦態勢に入る。


 サブウエポンはアーマーチェンジ、ウエポンチェンジよりも速く覚えたアーツだ。何で今まで使わなかったのか? 【抜刀術】の時とか別に使う必要なかったし、隠し球は多い方が良いだろ。

 ちなみに【クイックチェンジ】を使ったことによりブーツも元に戻っている。そろそろHPもMPも不味かったんだよね。アルミの攻撃は避けるくらいなら何とかなるだろうし取りあえず元に戻しといた。


 ナツメから【ファイアーボール】が飛んでくる。


「【ハイスマッシュ】ウゥゥッッ!!!」


【ファイヤーボール】をメイスで叩きはじき返す。魔法って武器ではじき返せるのか、知らなかった。

 取りあえず殴ってしまったけど今乗って弾き返せなかったら結構まずかったな。他の【ファイヤーボール】も全部ナツメに向かってはじき返す。試しに刀でもやってみたが弾き返すことはなく真っ二つに切れた。


 少し手元か狂って戦っているコウ達の所にも飛んでいったが。そんなのを気にする余裕はない。


 ナツメの詠唱、あの詠唱は【エクスプロージョン】だ。爆発系の魔法をメイスなんかで思いっきり叩いたら……確実にその場でドカンだろう。


 ナツメの魔法は下手に動くと追尾するように追ってくる。なので魔法の軌道はよく見ないと避け続けるのは無理だろう。


 さて、どう避けようか。

 考えを巡らせているといきなり真上に何かが現れた様で頭上に影が差した。


 上を向くとそこには巨大な岩が二つ落ちてくる所だった。

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