第56話 アルミ

「気配の消し方は流石に分からないな~」


 振り返ると。そこにはダガーを逆手に2本持った少年がいた。


「アルミ!!」


 コウが名を呼ぶ、アルミ。確かコウとルカに続いて3位だった奴か、そういえばスライムキングの初回討伐時のアナウンスにも名前があったな。


 種族は……虎の獣人か? 猫人の種族進化だったか。となるとAGIが高いのだろう……と言うか高いな、もう少し反応が遅かったらやられていただろう。


 しかも先ほどの攻撃、かなり重かった。STRにも振ってる可能性がある。武器は見たところミスリルっぽいな。


 とにかくAGIが高い相手にメイスは相性が悪い、武器は変えるべきだろう。


「【クイックチェンジ】タイプ刀」


 刀を手に取る。


「刀か~。それ早いよね~。でも~」


 アルミの姿がぶれるようにして消えた。


「まだこっちのはうが速いし~。懐に入ればこっちのもんだよね~」


 背筋に寒気が走る。慌ててしゃがみそのまま後ろに蹴りを入れる。

 アルミは軽くジャンプして蹴りを躱す。そこで刀を振るう。


 ギャリィィ!!


 ダガーで受け流される。

 一度距離とるために後方へジャンプする。


 早い。確実にAGIでは負けている。だがなぜあの速さを持っていて、あそこまでの攻撃力が出せるんだ?


 初撃の時のパワーはかなりのものだった。いくら種族によるAGI補正があったとしても、あのスピードを出すには極振りレベルでステータスを振る必要があるだろう。なのにあの攻撃力はおかしい。


 確かに虎の獣人はAGI以外にSTRにも補正が掛かりやすいはずだが、いくらなんでもあそこまで攻撃力が強化されるとは思えない。


 となるとスキルを発動しているとか、もしくは装備の補正が実はものすごく高いかのどちらかだろうけど……装備はNPCの店で売っているもののように見える。

 プレイヤーメイドは店売りのものより効果は高くなりやすいが、そこまで差が出るものではない。(一部例外があるが)


 ダガーはミスリル製だし装備の線は薄いな。

 となるとスキルの可能性が高いか。


 とはいえスキルだという確証もなければ、それがAGIに補正をかけているのかSTRに補正をかけているのかすらわからない現状では、対抗策も立てられない。


「はあ……あんまりやりたくなかったんだが、やるしかないよな。あんたに追いつくとしたらこれくらいしないと無理だし」


 これは使いたくなかったんだがな。


「【クイックチェンジ】アーマーチェンジ」


 アーマーチェンジ、【クイックチェンジ】はここ最近でかなりスキルレベルが上がり複数のスキルが増えた。その一つである。


【クイックチェンジ】では装備・武器の両方をいれかえていたが、アーマーチェンジを習得したことによって装備のみを変えることが可能になった。

 とはいえ変わったところと言えばブーツの部分のみだが。


「【クイックチェンジ】ウエポンチェンジ」


 ウエポンチェンジはアーマーチェンジと同様に武器のみを変えることが出来る。


 刀が消え、代わりに右手に赤色のガントレット左手に青白いガントレットが装備される。


 ……そこ、ガントレットって防具じゃなかったっけとか言わない。


 こいつは攻撃用に作ったガントレットだ。できればこのガントレットと現在履いているブーツは使いたくなかったが、使わないとアルミに勝つのは難しいだろう。


 このブーツを使いたくない理由は2つある。


 一つ目は威力だ。

 このブーツにも【ウインドボム】の魔法陣がついている。だが、先ほど履いていたものとは全く別物と言っていい。


 このブーツの【ウインドボム】は攻撃力を持っている。使うと自分にもダメージが入るのだ。ブーツの底を厚くしてダメージを軽減してはいるがそれでもダメージが入ってしまう。

 もちろんこれを使うことに対するメリットは大きい。

 移動スピードはさっきまでの比ではないし、ふくらはぎの部分に魔法陣をつけて蹴り技にブーストをかけられる。


 二つ目は単純に俺のAGI不足だ。

 このブーツはかなりの速度が出せる。【空歩】と【ハイジャンプ】を入れればアルミのAGIすら勝るだろう。

 しかし俺のAGIが低いせいで動体視力が追い付かない。AGIは移動スピード以外にも動体視力にも補正をかけてくれるのだが、俺はAGIをあまり上げていないので上がりすぎたスピードに目が追い付かないのだ。


 このブーツを使うときは3割ほどは勘に頼ることになる。


 ガントレットを使いたくない理由は、まあブーツと同じだ。

 ブーストをかけられるように魔法陣がついているがほとんどが自決ものなのだ。

 アルミはAGIとSTRだ相当高い。ならばVITは相当低いはずだ。それなら一撃でも当てることが出来れば勝つことは可能だろう。だが速すぎて攻撃が当たらない上に、相手も手数が多いので下手するとカウンターでやられかねない。

 なので此方も手数が多く、なおかつ確実に一撃で仕留められる武器で相手をする。


 先ほどの説明からわかる通り、俺は移動、そして攻撃のたびにHPが削れていく。【ヒール】を使うこともできるが、【魔力操作】を使った魔法陣での魔法はMP消費が激しいので、なるべく使いたくはない。


 つまり短期決戦。


 今はコウ達が残っているプレイヤーと戦っているから邪魔は入らないだろう。他にもプレイヤーはいるが、遠巻きにこっちを見てたり、仲間割れでもしたのか内部崩壊を始めているようなので放っておいて良いだろう。

 というかむしろ俺らがあっちの邪魔をする展開になるだろう。


 ブーツに魔力を込める。魔法が発動すると同時にアルミも動き出す。

 初速のみで言えば俺のほうが早い。アルミは加速でだんだん早くなり俺の速さを超えてくる。さすがに速い。右手のガントレットに魔力を込める。

 アルミは俺の拳をよけるためにスピードをさらに上げ、逃げるように動く。

 ガントレットを警戒してのことだろう。


 そしてその判断は正解だ。赤いガントレットには【火属性魔法】の【エクスプロージョン】の魔法陣がついている。当たればもちろん大ダメージだ。もちろん此方にもダメージは来るが、ガントレットは火に耐性のあるモンスターの素材で作ったのでこちらのダメージは少ない。ちなみに素材はアーデさんから買い取りました。


 俺の攻撃は外れてそのまま地面にぶつかり【エクスプロージョン】が発動する。

 地面が爆発する。粉塵が舞い上がり俺とアルミの視界を奪う。アルミはそのままの速度で粉塵のある地帯を抜ける。そして振り返るとそこには俺の拳が映っていた。俺は目が見えていなくても気配を感じ取れればアルミがどこに行ったかはわかる。その方向にブーツを使って飛んだだけである。


 アルミは俺の拳をダガーを使って受け流し、そのまま俺に回し蹴りを叩き込もうとする。俺はその蹴りを左手のガントレットで受け止めるようとするが、アルミの蹴りが早く間に合わない。回し蹴りは俺自身を狙ったわけではなく、右のガントレットを狙ったもののようで、鉄同士がぶつかった音が鳴った直後に【エクスプロージョン】が発動し、その音は爆発音で塗りつぶされる。


 蹴られたせいで爆発の範囲内からアルミが外れてしまった。


 もう少し早く発動すればよかったな。


「恐ろしいもん使ってくるな~。まあ自決技みたいだからこその威力かもしれないけど~」


「いやお前速すぎだろ。今ので決める気だったんだけど」


 実際先ほどの回し蹴りをガード出来たら勝てていた。


 にしても疑問がある。今の攻撃、なぜ回し蹴りで弾いたんだ? あの時のパワーがあれば弾くことなんて簡単にできるはずなんだが。あの高いSTRは、なんか発動条件でもあるのか?


 まあ俺のやることは変わらない。アルミを一撃で倒すだけだ。


【魔力操作】を使い魔法陣に魔力を流し始めた所で、アルミが動いた。

 残像が見えるほどの速さでの移動。ギリギリ目で追える程度だ。魔法陣の発動は間に合わない。そこで俺は腕をクロスさせてダガーの一撃を受けながら後ろに跳ぶ。


 攻撃が重い。ガードしてなかったら確実にやられていた。一体発動条件は何なんだ? と言うか発動条件がどうこう言ってるけど実際発動条件なんてあるのか? 攻撃を弾かないで受け流したのはブラフという可能性もある。


 後方に飛んでいる途中で魔法陣が完成した。後ろへ飛び【空歩】と【ハイジャンプ】も使い。高速戦闘に入る。床が砕けたり生き残っているプレイヤーが巻き込まれてやられたりしているがそんなことは些細なことだ。


 今回は先ほどとは違い、俺は守勢に回っている。最初の一撃で後ろに引いたせいではあるが、その後もアルミの攻撃が重いのだ。

 一体どうすればそんな攻撃力が出るのだろうか?


 スピードでは勝っているが、俺がまだ使いこなせていないせいで攻勢に出られない。


 こういうギリギリの戦闘はモルドさん以来かもしれないな。

 クラーケンとの戦闘時は多対一だったし、ラルミィの【ヒール】があったので結構余裕があった。


 どうやら俺はこのゲームにかなりはまってしまっているらしい。

 自然に口角が上がってしまっている。こんなに戦闘好きだったかな? 戦闘なんてあんまりしたことないからな。やったことと言えば、小学生の時に年上をフルボッコにした時と、後はじいちゃん家でいろいろあったくらいか。

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