第58話 従魔参戦
上を向くとそこには巨大な岩が二つ落ちてくる所だった。
「【参ノ太刀・流水】」
【参ノ太刀・流水】を使って二つの岩を何とか避ける。
一体なぜ岩が上から落ちてきたんだ? ん? この岩どっかで見たことがあるような気が……
その時、突然岩が動き出した。この光景は見覚えがある。北の洞窟一層のボス、ロックゴーレムだ。
「おいおい、もしかしてお前ラルミィか?」
ロックゴーレムがこんな所にいるわけがない。可能性としては他の召喚士がロックゴーレムを2体引き当てたか、ラルミィの【擬態】のどちらかだろう。他の召喚士のスライムと言う可能性もあるが、召喚士の人口はかなり少ないらしく、2桁いかないくらいの人数しか居ないそうだ。しかもその人達はナツメほどではないがみんなレアモンスターを引き当てたらしい。2体目にスライムが居るとしても、恐らくレベル30には届いていないだろうから、ビックスライムだろう。ビックスライムの大きさでは、ロックゴーレム二体分の体積は無い。
ラルミィの乱入に驚いていたところにナツメの【エクスプロージョン】が飛んでくる。
【ウインドボム】【空歩】【ハイジャンプ】の重ね掛けでよける。だがよけたところにもう一個【エクスプロージョン】が飛んできた。完全に動きを読まれてる。直撃コースだな。メイスを【エクスプロージョン】めがけて投げる。【エクスプロージョン】がメイスに当たって爆発する。
爆発の隙を使ってラルミィに接近する。ラルミィは今ロックゴーレムだ。この巨体なら壁に出来る。ナツメの魔法もよけられるだろう。
と思っていたらまた何かの気配を感じた。アルミには劣るが中々速いこの速度。
まあ、ラルミィが来たあたりで何となく予感はしていたが、と言うかラルミィが来て予感がしたからこそ気配を感じ取れたと言うべきか。方向は……右斜め上。
すぐさま左に飛んだ。
さっきまで立っていた場所に氷塊が落ちた。
いや、氷塊ではない。氷をまとった白銀の狼だ。
「やっぱ来たか、フェルス」
白銀の狼、フェルス。
フェルスは全身に氷の鎧をまとっていた。
フェルスは【氷属性魔法】と【人化】の種族スキルを持っていた。
【氷属性魔法】は【雷属性魔法】と同じく、スキルソードを使うか、特定の属性魔法を極めることで発現するらしい。ちなみにこれもエマが教えてくれた。
【人化】はナツメの【龍化】と違い、制限時間などは無い。狼の時はAGIとSTRが上がり、INTとDEXが下がる。人の時はその逆だ。
フェルスは【人化】すると、あらかじめ装備しておいた物を再装備することが出来る。フェルスはロンに作って貰った服と俺が作った小太刀を装備している。本来は刀でも良かったのだが、何分幼女なので刀だと大きすぎて小太刀にしたのだ。
人状態の時に小太刀を手離して狼になると、小太刀は消えないでそのまま残るのだが。人になると【クイックチェンジ】のように手元に戻る。
フェルスは【人化】を巧みに使い、敵を翻弄するバトルスタイルなので、気配で場所を掴めても油断は出来ない。
にしてももの凄く戦い辛いな。ナツメは良いのだが、ラルミィとフェルスは喋れないからな。【コネクト】は大会中は使えないし二人と喋れないのはなんか変だ。
まあ喋っている暇に攻撃されて終わりそうな気もするが。
……って言うか俺の従魔、なんか俺に対する殺意が高くない? ナツメなんか簡単に倒せるアルミのことなんか放っておいて俺に攻撃してきたし、ラルミィもフェルスもHPが満タンの俺が食らっても瀕死に追い込めるレベルの攻撃を初撃でしてきたし。
これはそういうふうに設定されているのか、もしくは従魔達が俺に不満を持っているかのどっちかだよな。
……クソッ、従魔達の俺への好感度を知りたい! 好感度を可視化出来るようにならないかな。
まあそれは後で運営に申請してみよう。今は従魔達だ。
取りあえず今はHPを回復したい。どうにかしてMPを回復させて【ヒール】を使いたいけど、【ウインドボム】で消費してしまうからMPが溜まらない。
逃げるのも手としてはありだが、ナツメに背を向けられないし、恐らくフェルスを振り切ることが出来ない。
ゴーレム……いや、ラルミィが動いた。【擬態】を解いて更に【分裂】する。そしてもう一度【擬態】を使い姿を変える。
その姿は……人? 女性だ。
何で人に? プレイヤーは死ぬとその場で消える。そうなると【捕食】は出来ない。状態異常などで動けなくしても、生きている状態で【捕食】は出来ない。
人型モンスターって言うと今のところゴブリンしか出てきていないし【擬態】は多少なら姿を変えられるって言うけど。流石にゴブリンとは似ても似つかないし……
そこで俺の目に入ったのは先ほどアルミとの戦いに巻き込んでHPがなくなったプレイヤーだった。
そうだ、このイベント内ではプレイヤーはHPがなくなっても1分間その場に残る。倒したプレイヤーを一分以内に【捕食】したとしたら、擬態することは可能になる。
恐らく俺たちと会う前に【捕食】をプレイヤーに使ったんだろう。
……【捕食】されたプレイヤーは自分の身体がスライムに包み込まれて消えていくというショッキングな映像を見ることになったのだろう。
心の中で合掌しておく。
人型のラルミィはその後【縮小】を行い小さくなった。
あの、ラルミィさん。人型のまま【縮小】されると俺のロリコン疑惑がまた浮上するのでやめていだけないかなと……
「お姉ちゃん達と同じになった」
うん、俺は何も言っていない。そうだよな、ナツメもフェルスも人になれるのにラルミィだけ今までなれなかったんだもんな。しかも人に【擬態】するとしゃべれるようになるんだな。
俺はもう諦めることにするよ。ってアブナッ!!
忘れてた。現在戦闘中だったな。しかもゴーレムのラルミィがいなくなったからナツメから丸見えだ。
俺はナツメの魔法をくぐり抜けながら走る。そして先ほど見た、巻きこんでしまったプレイヤーが持っていたであろう武器を魔法に向けて投げる。
散らばっている武器をナツメの放った魔法に次々と投げていく。ちなみに片手は刀で埋まっている。流石にメインウエポンを投げるようなことはしない。
いつの間にか狼から人に戻ったフェルスが氷のクナイを投げてくる。そのクナイに拾った武器を投げることで撃ち落とし、【分裂】したラルミィの【光属性魔法】が四方から飛んでくるが【ハイジャンプ】で避けるところにナツメの魔法が飛んでくる。空歩を使い何とかその魔法を避ける。
やばい、ウチの従魔が強すぎる。
ナツメの魔法の精度もかなりやばいが、フェルスの魔法は速いので躱すのが難しいし、ラルミィは【分裂】して色んなところから攻撃してくる。
しかも俺だけじゃなく
俺を攻撃しながらよくそんな攻防が出来るな。
コウ達やアルミはいつの間にかいなくなっている。まあこんなとこにいたら確実に巻き込まれるからな。恐らく戻ってくることはないだろう。と言うかナツメさんラルミィさんさっきっからチラッと見える他のプレイヤーを瞬殺しながらこっちに攻撃を加えるってどんだけ余裕なんですか。
フェルスは遠距離攻撃をあまり持ってないからそういうことはしてないがラルミィが何体かやられてる。
俺? 避けるので精一杯だよ。
いきなりナツメの気配が大きくなった。
振り返るとそこには【龍化】したナツメが。
そういえばここでも【龍化】使えたな……うん、戦線離脱!
こんな所で【龍化】状態の【龍魔法】のブレスなんて撃たれたら逃げ場が上しかないじゃん。上なんか逃げたら蜂の巣にされる。
【飛行】スキルが使えないだけマシか。【飛行】スキルが使えないせいで逃げる羽目になってるんだけど。
あれフェルスさん、あなたいつの間に壁なんて走れるようになったの? あ、なんか氷がスパイクみたいになってる。
ラルミィについては逃げてすらいない。本体は既に逃げたんですかそうですか。
ナツメが滑空してきた。まあ俺が使えるんだからナツメも使えるよね。
俺もすかさず滑空に入る。滑空って言ってるけど地面すれすれを飛んでるんだよね。途中ですれ違うプレイヤーにはご愁傷様と言うしかない。うん、後ろで悲鳴が聞こえるね。無視していこう。
うお! 横から氷が。フェルスか何気に付いてきてるな。なるほど屋根を伝ってきているのか。ナツメの時のように刀で返そうとするけど切れちゃうな。
どわ! 今後は反対から魔法か。うん、この魔法はラルミィだな。どうやら一体がエルダーウルフ、他がフォレストウルフに【擬態】して、フェルスと同じように屋根を伝って走ってきてるのか。
この状況は不味いな。結局さっきと一緒で防戦一方だ。
このままじゃ何時か追い詰められてやられるな。逃げられないならどっかで迎え撃たないといけないな。
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