第38話 裏ボス

 MPがなくなった。


 それと同時に三本の足が俺に向かってくる。


「ハァアアアアアアア!!」


 こちらに向かってくる足を輪切りにする。

 だが足は三本、刀は二本。一本の足は防げずに俺のHPを削った。


 俺のHPがみるみる減っていく。あと少しだったがまだ届かないか。

 俺が諦めかけたそのとき……


『【ヒール】』


 HPが回復する。【ヒール】なんて一体誰が? いや、今の声はもしかして。


「……ラルミィか!」


『そう。主、あとちょっと。頑張って』


「ああ、ありがとうラルミィ」


 そういえばラルミィはスキルソードを使って【光属性魔法】を覚えさせたんだったな。つまりラルミィも回復が出来る訳か。あれ? じゃあナツメにポーションっていらなかったんじゃ……まあそれは後で良いか。


 取りあえず今はクラーケンを倒してしまおう。


「【弐ノ太刀・五月雨】」


 俺のアーツを食らい、クラーケンのHPがなくなった。


 《プレイヤー「リューヤ」によって南の裏ボス、クラーケンが討伐されました。以後南の裏ボスは弱体化かそうでないかを選ぶことが可能です。以後南のフィールドに新しいモンスターが出現します。以後町に新しい物が売られます》


 おいちょっと色々待て。情報が一気に来すぎだ。まず、裏ボスって何だ? もしかして表のボスが、フライビルフィッシュなのか? ていうか南以外にも裏ボスっているのかな? 南ってほとんど人がいないのにモンスターに種類増やしても分かる奴βテスター以外でいるのか? あ、でも新しい物って何だろう? 少し興味あるな。


『今回の戦いの動画を公開しますか?』


 YESを押す。


 《動画が公開されました》


『リューヤはレベルが上がった』

『ナツメはレベルが上がった』

『ラルミィはレベルが上がった』


 お、レベルが上がったな。流石にレベル20の奴を倒せば上がるか。


 あ、速く【解体】しないとな。

 解体ナイフを刺して【解体】する。


 インベントリ内を見ると魔インクと言うインクがあった。恐らくこれがエマの言っていたインクだろう。


 ん? また岩が出てきた。岩の上には魔方陣がある。あれが転移陣か。

 始まりの町に戻ろう。


 さて、そろそろ良い時間だしログアウトするか。エマのクエストは明日にしよう。三人にあれだけ言って俺が夜更かしするわけにも行かないしな。

 念のため0時に1回ログインしてフレンドリストからログインしてるかたしかめるか。釘を刺したから大丈夫だろうけど。


 少し情報でも漁ってみるか。


 ……やっぱ裏ボスの情報は無いな。クラーケンのことはかなり話題になってるな。出現条件とかの予想も飛び交ってるみたいだし。

 出現条件か。俺はエマに頼まれたから海に行ったし更に言えばエマの要望のモンスターがクラーケンだったな。と言うことは出現条件は特定のNPCからSQを受けることか?

 そういえばどこを探しても釣り竿って無かったんだよな。それが今回クラーケンを倒したことで売られるようになったらしい。道理で釣りをしてる奴がいないわけだ。釣り竿がないんだから釣りなんて出来ないわな。釣り竿でしかクラーケンが釣れない場合、釣り竿はキーアイテムだったというわけだ。やっぱクラーケンと戦うにはエマに会う必要がありそうだな。

 あとインクも売られる用になったらしい。クラーケン周回してインクを集める必要がなくてよかった。まあでもラルミィに【捕食】させるからもう一回行くだろうけど。


 そういえばラルミィに素材【捕食】させるの忘れてたな。と言ってもフォレストウルフとかの毛皮は全部売っちゃったから【擬態】が出来たとしてもゾンビみたいな感じになりそうだけど。


 まあその辺はまた今度だな。


 そろそろ0時だなログインしよう。


 フレンドリストでルカは……まだログインしてるな。時間的には大丈夫だがこの感じだとギリギリまでやる気なんだろう。


 まあ0時まで5分もない、少し待つくらいはしようか。


 結局ルカ達がログアウトしたのは0時になる15秒前だった。

 ……俺も寝るか。




 ◇




 翌日、目覚ましの音で起きた俺は30分ランニングをして、シャワーを浴びて、朝ご飯を作って、一応春香に声を掛け、結局起きてこない春香を待ちながら(待ってない)朝食を食べ。もう一度春香を起こしに行き。その後、春香が朝食を食べてる間に光輝と美月を起こしにそれぞれの家にお邪魔して、そして家に戻り登校の準備を春香として家を出る。


 ランニングの部分以外はいつものことである。ちょうど俺たちが家を出ると光輝と美月も出てくる。この二人はちゃんと朝食を食べているのだろうか? 何で俺たちと家を出るタイミングが同じなんだ?


 ……毎度のことなのでスルーする。


「なあ龍也、結局あの裏ボスって何なんだ?」


 光輝が登校中に聞いてくる。


「何なんだと言われてもな、今のところ分かってることっていったら、たぶんNPCからのSQで出現するんじゃないかって事くらいだ」


「昨日言ってたクエストか。詳細聞いて良いか?」


 光輝達にクエストの内容を話す。


「なるほどな、インクの納品クエストか。で、釣り竿がキーアイテムだったと。こればっかりは完全に運だな。まずどのNPCが裏ボスにつながるSQを持ってるかが分からないんじゃな、どうしようもないな。この情報後で掲示板に乗せておくけど良いか」


「ああいいぞ、でもエマが困るだろうから、クエストの内容とか錬金術に関する所は伏せておいてくれ」


 エマの性格だと、いきなりたくさんの人が来て。質問攻めになんて遭ったら、人間不信になってもおかしくない。


「まあそのくらいなら。でも伏せなくてもこの情報だけでそのエマって名前のNPCにたどり着くのは難しいと思うぞ」


 まあ確かに、でも錬金術って普通は取ることの出来ないスキルだからな。徹底的に調べられたらどうなるか分からないしな。


「そうかも知れないけど、もし誰かが突き止めて拡散したら大変だろ」


「確かにな、情報源が俺だって知られたら好感度が下がる可能性もあるしな」




 ◇




「なあなあ龍也、OLFWって知ってるか?」


 現在は昼休みである。作っておいた弁当を取り出した所でクラスメートから声を掛けられた。


「OLFWなら知ってるけど……っていうかプレイしてるけど」


「おマジ! じゃあさ撲殺天使のことは知ってるよな」


 撲殺天使? なんだその物騒な名前は。魔法の擬音でも唱えてる奴がいるのだろうか?

 知らないと答えるとうしろから……


「俺知ってるぜ、リューヤのことだろ」


 と光輝が話しに入ってくる。


 …………おいまて今何て言った。


 何でもその撲殺天使なる物は、ロックゴーレムを初回ソロ討伐し、PKグループを壊滅させ、エルダーウルフをほぼソロで討伐した上に裏ボスであるクラーケンを倒した天使族の男の娘であるらしい。


 うん俺だな。おい光輝笑いを必死にこらえてるのバレバレだぞ。


 ……うんあの顔、なぜか殴りたい。


 その後、俺はクラスメイトにその撲殺天使とやらの凄い所などを、動画を交えながら教えられた。うんまあ全部知ってる内容なんだけどな。


 おい美月、お前も聞き耳立てて笑うんじゃありません。




 ◇




 何か今日の学校は精神的につかれたな。

 まさか俺が撲殺天使と呼ばれているだなんてな。知らんかった。


 まあでもどうせゲーム内だし、しょうが無いか。こういうのは諦めて忘れるに限る。現実逃避とも言う。


 さてと今日もログインするか。エマにインクを届けないと行けないしな。


「こんにちは、エマいるか? インク持ってきたぞ」


 最近ここに来るのもなれたな。もう地図見なくてもこれるかもしれないな。


「こんにちは、リューヤ、インク持ってきたの? 思ってたよりも、速い」


 確かに、クラーケンは強かった。でもあんなモンスターと戦うことになるなら、事前に教えてくれても良かったと思うのだがな。


 ――――――――――――――――――

 SQ:錬金術師の手伝い


 内容:錬金術で使うインクの材料を持ってこよう


 報酬:魔法道具アーティファクトの作り方


 クエストクリア

 ――――――――――――――――――


「ああ、クラーケンは強かったよ。でも【錬金術】面白そうだしな。これでようやく始められるな」


「でも、錬金術は、他の、スキルと、合わせて、使うことが、多い。今回は、【鍛冶】スキル、使う」


 そういえばミキに送る用の杖? のような物を作ってたんだよな。今回はミキはβテスターの腕輪を持ってるから指輪にしようかな。

 そのことを伝えると……


「まず、【鍛冶】で、物、今回は、指輪を作る。そしてそこに、私が、転写して、魔法道具アーティファクトに、する。その後は、指輪の宝石に、その人が、得意な、属性に、合った、石を、はめる。これで、完成する」


 ん? 属性に合った石? なんだそれ。


「属性に合った石? そんな石があるのか?」


「正しくは、宝石。水なら、サファイア。火なら、ルビー。風なら、エメラルド。土なら、トパーズ。それぞれ、威力を、高める効果が、ある。ちなみに、全属性、使うなら、ダイヤモンドが、おすすめ。」


 宝石か。ギルドに行けば売ってるかな。後でミキに得意な魔法聞かなきゃな。


「他に何か気をつける事ってあるか?」


「指輪に使う素材はなるべく魔力の通りが良い物が良い」


 俺が知ってる中で一番魔力の通りが良い物と言ったら、ミスリルだな。

 とは言え、今は手持ちにない。洞窟に行く必要があるな。


「鉱石を、取りに、行くなら、取った後、指輪を、作る前に、ここに来て」


「? 分かった。じゃあ行ってくる」


よく分からないがエマが言うんだきっと何かあるんだろう。まあミスリルがどれくらい取れるかは分からないけど、2層を一回りすればある程度取れるだろう。問題は俺の【鍛冶】スキルのレベルだな。ミスリルを扱えれば良いけど。


「ん、いってらしゃい」


エマの声を聞きながら店を出た。

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