第17話 フォレストウルフ

「コウ兄後ろ」


 後ろからフォレストウルフが口を開けて襲ってくる


「アブねえ! 助かったルカ」


「別に良いよ」


 ルカの頬をかすめて魔法が飛んでいく。

 魔法は今にもルカに襲いかかろうとしていたフォレストウルフに直撃してHPを削り取る。


「ルカも気を抜かないの、どんどん来るわよ(やっぱりナツメちゃんの様には行かないわね)ボソッ」


「ねえ、もしかして今の私で実験したの? わざわざ直撃させなくても十分倒せる威力だったのに。私の頬をかすめたのはそういうこと?」


「ちょっと運営鬼畜すぎないかこれ」


「まあ元々6人で挑む物だしね」


「それでも今5人なんだけどな」


「まだレベルが足りなかったのかもね」


「ねえコウ兄、ミキ姉、私のことはスルーなの、ねえってば」


「大丈夫だろ。掠っただけじゃんか」


 コウの頬を掠り魔法が飛んでいく。

 魔法はウルフに直撃して……



 周りにいたウルフをまとめて吹き飛ばした。


「………………」


「………………」


「………………」


「ん? 今の流れだと私も掠らせた方が良いと思ったんじゃが」


「う、うんナツメちゃん、次からもう少し魔法の威力を小さめにしてあげて。あれ当たったらコウ死んじゃうから」


「あの程度、主なら簡単に躱すぞ?」


「ア~ソウダネ~リューヤナラカンタン二カワスダロウネ~」


「オニイチャンナラヨユウデカワスダロウネ~」


「アイツナラカミヒトエデヨケタリスルダロウナ~」


 むしろリューヤなら後ろからメイスで叩いて加速させるくらいはしそうだな。


「とりあえずリューヤは出来るだろうけどコウは出来ないの。だからお願いね」


「うむ、次は弱めのを掠らせるのじゃ」


「掠らせるのをやめてくれ!」


コウの心からの声は華麗に無視されこの後5回ほどコウに魔法が掠ることになる。




 ◇




 時は少しさかのぼる。


「よーしボス戦だ」


「ココのボスって何なんだ?」


「βの時は大っきな狼だったよ」


「まあ今のレベルだと不安だけどなんとかなるでしょ」


 大きな狼か。狼というと速いのだろうか?

 速すぎるとメイスが当たらなくなるかもしれない。

 刀を使うこともあるかもしてないな。でも刀だと威力が低いのでボス戦には向かないんだよな。


 お! あれがボス……かな?


 ……うん刀は使わなくて良いかな。


「大きすぎないか?」


「うん、βの時より大きいかな」


 ゴーレムより大きいんだけど。これは狙わなくても当たりそうだな。魔法組の良い的じゃないか?


「UOOOOOOOOOONNNNN!!!」


 ゴーレムの時といい、ボスって戦闘前に吠えないと行けない呪いにでも掛かってるのかな。

 なんて考えていると……


「おいおいマジかよ」


「しょっぱなからそれ使うの」


「冗談でしょ」


 3人の様子が変だ、どうしたのだろうか?

 ん? 何か来るな……数が多い。この数は不味いな、ナツメとミキは魔法職だ。本来ヘイトは俺とコウが稼ぐ予定だったがこの数になると回収しきれない。2人に攻撃が向く可能性が高い。


「おい! βの時はどうしてたんだこの数」


「βの時はボスのHPが一割切った時に発動してた動きだから無視してゴリ押ししてたんだ」


「βの時とは違うって事か」


「そういうこった。ちなみに無限に出てくる」


「マジ?」


「マジ」


「分かった、コウとルカは雑魚の処理を頼む。ミキとナツメに近づかせるな。ボスは俺がなんとかするからそっちは頼んだぞ」


「お、おいいくらお前でもここのボスをソロでなんて……」


「おら! こっち向けや【パワークラッシュ】」


 狼の鼻っ面にアーツをぶち込んだ。


「……何とかなりそうだな」


 こうして冒頭のシーンに戻る。



「それにしても何でアイツはあの速さのボスについて行けるんだ?」


「まあお兄ちゃんだからね」


 現在もリューヤとボスの高速のバトルが続いている。

 はっきり言って入る隙がない。とは言っても雑魚の処理があるので隙があっても入れないが。

 コウがやっても十秒続かないだろう。


「多分だけど大きいからよく狙わなくても当たるとか思ってるんじゃない?」


 あり得る、リューヤの基準は昔から少しおかしい。


「でもいくらアイツでもHP半分切ったら追いつけないだろ」


「確かに、HP半分切ったらあのボス異様に速くなるよね、流石にあれは追いつけなさそう」


「でもなぜか負ける姿が想像できないのよね」


「何でだろうね」


「リューヤだからね」


「なるほど」


 そう、俺たちの決まり文句。大体のことはリューヤだからと言う言葉で納得できてしまう。リューヤは毎度毎度的外れなことをして結局良い成果を持ってくる。

 昔から一緒にいる3人は既になれてしまった。一種のあきらめと呆れが含まれている。


 まあそんなリューヤだからこそレベルが高い今回のボス戦にもつれてきたのだが。

 不測の事態が起きてもリューヤなら何とかしてくれるだろうと。

 実際リューヤは先ほど【潜伏】スキルで隠れていた3人のPKの存在に気づき倒してくれた。


 リューヤはこの3人に関しては誰にも負けないほどの信頼を得ている。


 だからこちらの仕事はこちらでちゃんとやる必要がある。

 今の仕事は魔法組を守ること。

 とは言えどんどん増えて囲んでくる狼に対しこちらは2人。流石にカバーしきれない。


 そしてついに何匹かの狼が抜けてしまう。


「しまった」


 その狼たちはそのままの勢いでミキに襲いかかった……


 がその前に小さな拳で吹き飛ばされた。


「ナツメちゃん? あなたなんで」


「こう見えて【体術】スキルも持っているのじゃ」


「あ、そういえば」


 見せてもらったステータスで2番目に高いのがSTRとMIDだっだはず。種族スキルの方に気を取られてすっかり忘れていた。


 ナツメは両刀アタッカーだったのか。


「とは言え魔法の方が得意なのじゃ。引き続き頼むのじゃ」


「おう」


「あ、あと次合図したら全力で右に飛んで避けて欲しいのじゃ」


「よく分からんが右に飛べば良いんだな」


「うむ」


 それからははっきり言って圧倒的だった。

 ナツメが龍魔法を使ったのだ。ナツメの指示通り右に飛んだので確かに当たりはしなかったが余波だけでHPが減った。ちなみに魔法はブレスだった。いや文字通り一掃だったよ。


 その後、ルカ側のフォレストウルフもブレスによって一掃されたが、フォレストウルフは無限に出てくるので結局元の状態に戻る。


「あーもうキリがないよ」


「流石にMPが切れそうじゃ」


「こっちもよ、どうにかしないと詰むわよ」


「リューヤの方はどんなんだ」


「4分の1ほど削ってるわ」


「ホントアイツ非常識だな」


 一体どうやったらボス相手にソロで4分の1も削れるのだろう。普通そこまで行く前に死に戻るのだが。


「でもあの調子だとこっちを助けるのは無理そうだよ」


「そうだな。おいリューヤこっちそろそろ限界だ。1回死に戻って作戦を練り直そう」


「え、なんだって? おわ! 凄い量だな。あ、そうだ。全員3秒後に飛べ。3・2・1・今」


 そう言いながら空高くから落ちてくるリューヤ。


「え、ちょ、お前」


「【アースブレイク】」


 瞬間、フォレストウルフがボスエリアからいなくなった。


「うん、これで話しやすいな。あ、でも地形ダメージ食らったな。っておわ9割も減った。魔法教えてもらっといてよかったな【ヒール】」


「……なあミキ【アースブレイク】ってどういうアーツだっけ?」


「確か威力に比例して攻撃範囲が広がる広範囲攻撃のアーツで、攻撃範囲内にいる敵の数が多いほど一体に与えるダメージが減るアーツだったと思うわ」


「だよな、記憶がおかしくなったわけじゃないんだよな」


【アースブレイク】の本来の攻撃範囲は良いとこ半径5メートルだ。そして敵が多いほどダメージが減る。今回のウルフはHPこそ低いものの、数が多かった。それにもかかわらず一撃でHPを吹き飛ばしたのだ。


「多分上空からの落下で威力が大幅に上がったんだろうね」


「リューヤのHPで9割持ってくってどんだけ高いとこから落ちてきたんだアイツ」


「さて、回復したところでさっきなんて言ったんだ? よく聞こえなかったんだが」


 リューヤの非常識っぷりにため息を吐く3人であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る