第6話 初のPVP

 ギルドから出た俺とナツメは武器屋を探すべく町の捜索をしはじめた。


「どっちに行こうか?」


「あっちからいい匂いがするのじゃ」


 それじゃあ、あっちからにするか。

 ナツメの指差した、西に向かう事にする。


 進んで行くとだんだん屋台などが多くなる。


「これ、美味しそうなのじゃ〜」


 ナツメが焼き鳥の匂いにつられて屋台の方へ歩いて行く。

 しょうがない、買ってやるか。


「おじさん、これ二つ」


 あいよ! と屋台のおじさんから焼き鳥を二つもらう。一つをナツメに渡して自分も食べる。


 なかなか美味い。料理を作るなら【料理】のスキルが必要になるが、これなら取るのもいいかもしれないな。


 焼き鳥を見てみると表示が出た。



 チキンの焼き鳥

 チキンで作った焼き鳥

 状態:食べ掛け



 "チキンの焼き鳥"ってチキンっていう鳥がいるのか。まんまだな。


 なかなか美味かったし、こいつの肉を手に入れたら取っておこう。


「ん?メールだ」


 このVRギアは最新式なので登録しておけば起動中に中でメールを見たり送ったりすることができる。



『お兄ちゃん。もうログインした?

 キャラメイクが終わったなら連絡して、噴水広場まで来て。

 コウ兄とミズ姉もいるから』



 と言う内容だった。

 噴水広場とはこの世界に来て最初に種族を確認した場所だ。光輝と美月もいるらしい。

 俺はすぐに行くと連絡を返しナツメと一緒に噴水広場まで戻ることにした。



 ◇



『着いたぞ。どこにいる?』


 とメールを送るとすぐに


『東にある木の下。青髪短髪と金髪ツインテ。

 それと赤髪』


 なんか最後説明がおざなりだな。

 すぐに東の木に向かおうとするが……


「多ッ」


 まあそりゃ最初にログインする場所はここだし目印って言ったら噴水と東西南北に生えてる木しか無いからって、流石に多すぎだろ。一体何人待ち合わせてるんだ。


 とはいえ探さないわけにも行かず。何とかそれっぽい三人を見つけたが、ごった返していてたどり着けそうに無い。

 どうするかと考えた時そういえば羽があるじゃないかと思い立ちナツメに一言言ってから送還して、翼を広げて飛び三人の目の前に降りったった。


 三人のプレイヤーネームは事前に聞いておいた。


「えっとルカにミキとコウであってるか?」


「え、は、はい、そうですけど……ってお兄ちゃん!?」


 青髪が答える。お兄ちゃんと俺を呼ぶのは春香だけなので青髪短髪のこの子がルカか、つまり金髪ツインテが美月ことミキであり残ったおざなり赤髪が光輝ことコウか。


 というかルカ少し驚きすぎじゃ無いか? いやそりゃいきなり人が飛んできたら驚くだろうけど、さらにそれが自分の兄だったら……あれ? そんなおかしくないか。


「とりあえずここから抜けようぜ。話しにくい」


「そうしたいのは山々なんだけど、思ったより人が多くて抜け出せなくて」


 恐らくβの時と同じ感覚だったのだろう。そりゃβの時よりも人数は増えるから今かることも想像できただろうに。この三人はこういう所が抜けている。


「う~ん、さっきの感覚だと二人くらいなら乗せて飛べると思うけど……」


「ホント!! じゃあ私とミズね……ゴホン。私とミキ姉を乗せて!」


「良いけどコウはどうする。よければ簡単に抜ける方法があるけど試すか?」


「そんな方法あるのか? じゃあ頼むぜ」


「よし、じゃあ舌噛まないように、歯食いしばれよ」


「え、舌噛むってなウガアアアアアアアァァァァグボッ!!」


「うん、良く跳んだな」


 俺がやったことは簡単。メイスを振るようにコウの手をつかんで振り投げただけである。あ、顔が地面に食い込んでる。


 その後、ルカを背中に、ミキをお姫様だっこで抱えてコウの所まで飛んだ。


「良し、じゃあ落ち着けるとこ行こうぜ」


「全然良くねえよ!」


 地面に食い込んだ顔を引っこ抜いたコウが突っかかってきた。


「いきなり思いっきりぶん投げやがって」


「簡単だったろ」


「圏内じゃ無ければHP削れてたぞ!」


「圏外じゃ無くて良かったな」


「そういう意味で言ったんじゃねえよ!」


 荒れてるな。カルシウム取った方が良いんじゃないか? 牛乳飲め牛乳。


「くそこうなったら決闘だ決闘。リアルじゃお前の方が上だけど(主にラックのせい)ゲームじゃこっちの方が上なんだって事を教えてやる! 武器は持ってるか?」


「初期装備なら」


「それで十分だ。と言うか俺も初期装備だしな」


 コウがそう言うと何か操作し始めた。


『プレイヤー"コウ"からPVPの申請が来ました。

 受けますか?』


 俺はチラリとルカとミキを見る。

 ルカは目をキラキラと輝かせ頑張れという感じの目を、ミキは呆れてとっとと終わらせろという目を向けてきた。


 俺はしょうがないかと申請を受ける。


『申請が受理されました

 これより特設フィールドへ移ります』


 俺とコウの身体が光り次の瞬間先ほどのギルドにあった闘技場と同じような場所に立っていた。

 ここがPVPのステージかモルドさんと戦かった時とあんま変わらないな。


「ここがPVPのステージだ。武器を取れ。1対1サシの一発勝負だ」


 俺はメイスをインベントリから取り出し構える。

 コウは背中に刺していた大剣を抜く。


 カウントダウンが始まる。…10…9………5…4…3…2…1…0


 始まった瞬間コウはダッシュでこちらに走ってくるが……

 遅い。さっきのモルドさんに比べたら雲泥の差だ。まあベテラン冒険者と先ほどゲームを始めたばかりの

 ヒヨッコのどちらが速いのかと言えば明白だがいきなり突進って……あ、さっき俺やったな。

 このままモルド戦の時のように避けて背中をぶったたいても良いのだがそれでは面白く無い。ここは真っ向から迎え撃つ。


「【インパクトシュート】」


「【スラッシュ】」


 俺のメイスとコウの大剣がぶつかり合うそして……

 メイスと大剣が両方とも吹っ飛んだ。


 ……いや吹っ飛んだというかもの凄い衝撃に二人とも武器を手放してしまっただけなんだけど。


 モルドさんを見習わなきゃな、なんて思いながらその光景を見ていた。コウの大剣は真上に俺のメイスは真後ろに吹っ飛んだ。武器を失ったこの状況。先に武器を手に取った方が勝つだろう。だが俺のメイスは遙か後方へ飛んでいったのに対しコウの大剣は真上に飛んだ。とっちが先に武器を手に取れるかは明白だ。このままでは負ける。……そう、このままなら。


「【クイックチェンジ】タイプメイス」


 そう言うと俺の手に先ほど吹っ飛んだはずのメイスが現れる。


 俺はメイスをインベントリから取り出して構えただけだった。

 つまりメイスは装備してないのである。

 このゲームは他人の武器を使うことは可能であるが装備は出来ない。

 ちゃんとメニューから"装備する"を選ばないと装備した事にならない。(他人の所有物の武器はそもそも装備できない)

 つまり先ほどまで持っていたメイスはずっと控えにあったメイスなのである。

 控えにあるのなら【クイックチェンジ】で呼び出して装備することが出来る。

 コウの大剣はまだ上でクルクル回りながら飛んでいる。今からジャンプしても間に合わないだろう。

 そして俺は……


「【パワークラッシュ】」


 そんなコウに新しく覚えたアーツをぶち込んだ。

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