第一話 交通事故?そんなの気合いだ!

 私の名前は絶対 正義。少しばかり恥ずかしい名前だが個人的には気に入っている。絶対に正義、この世界ではあり得ない話だと思うが僕の名前はそうであってほしいと言う願いが込められている。正義なんてものは本来人の掲げる思想によって変わってしまうものだから悪だって見方を変えれば正義になってしまうのがこの世界の表裏性だと言ってもいい。その中でも私という存在が絶対的な正義であって欲しいという願いは恐らくこの世界に何か絶望してしまった親の希望だったのだろう。


 私の両親は私がまだ幼かった頃に無理心中をしている。当時の私は大変困り果て、突然親を失った悲しみやこれからどうやって生きていこうかとても悩んだ。

 結果的に言えばたゆまぬ市場調査や思想の交換、世論観察を続ける事で株式をはじめとする信用取引によって一代で莫大な富を獲得した。


 私は自信が働くことで社会に貢献すると言う道もあったのだが、その道を歩むのを辞め、自身の目で世界各地を巡り多くの友人を手に入れた。そしてその友人達を得ると共に貧困に喘ぐかなしき運命を押しつけられた者達に僅かながらの施し、希望を与えた。そして希望を奪われぬようにと彼らの周りに存在する略奪者達にも施しと説得を試みた。もちろん無傷で済むと思っている訳ではない。こんな時のために私はたゆまぬ修練を積み続けて居るのだ。その甲斐もあって私は非情にマッチョだ。


 世界各地を巡って世界の平和のために少しずつ自分の出来る事をする。それはとても気持ちの良いことだ。



 今私は日本に居る。旅をしても生活の拠点はやはり生まれ育った土地に愛着がある為か日本から移住を考えた事も無い。


 これから今週分の食事のために買い出しに出掛けようとしたところで、私は人生の終わりを悟った。



 トラックが、猛スピードで突進してきたのだ。瞬間私は自分の過去からの記憶を見返すように映画を見ている気持ちになった。これが所謂走馬灯というものだろうか。まさか本当に見ることになるとは思いもしなかったが、此処で私は死ぬのだな、と思うと何ともやるせない気持ちに包まれる。



 「はは。そういえばこの後異世界転生とかするのがお決まりだったな……」



 思えば、人に尽くしてばかりの人生だったな。もちろんその事を悪く思ったりはしない。我ながらお人好しが過ぎるとも思うが、今この瞬間私を引くことによって運転手は罪を科せられ不幸な道を歩むのかも知れないなと思うと何とも申し訳ない気持ちになってしまった。




 いや、諦めるのか? このまま諦めて彼を犯罪者にしても良いのか?


 私は考える。自身の肉体は一体何のために鍛えていたのかを。


 私は考える。これからも私が生きることによって助けられる命のことを。


 私は考える。この世界から罪を無くす方法を!





「う、ぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!異世界転生なんて、クソクラエだぁああああああああああ!!!!」



 私はトラックを受け止める。例えこの身体が吹き飛ぼうとも、決して譲れぬものが私にはある!それは平和!愛!正義!


 私によって悪に染まる者が居るならば、その者を悪に染めぬように正義に導くのが私の役目だ!!!私は諦めない!このまま諦めてしまえば彼が悪になってしまう。


 そして今にして気付く。私が諦めていたなら私だけで無く多くの被害者が出るという事を。私はなんて愚かだったのだ!この状況をどうにか出来る者が居るとしたら私の他にいないだろう!



 私はトラックに向かって歩みを進める。丁度トラックの動力となる前体部を持ち上げるように下に潜り込むとトラックは段々と力を弱め、遂にタイヤの回転が停止した事を確認するとトラックを地面に降ろした。



 「……異世界なんて行く前に、まずこの世界を平和にしないとな!」



 死ぬかと思った。だが、人間やれば出来るもんだとも思った。そういえば聞いたことがある。人間は有する力の僅か数%しか使っていないのだと。たしかに今の体験を思えば今まで私が扱ってきた力など僅か数%だと頷ける。



 ともあれ、生きることが出来たのを神に感謝しよう。




 神よ!!今日も素晴らしい一日を、命を感謝します!!



 その後私はトラックの運転手に自分が扱う物の危険さを説教し、平和に努めるように説法を説いた。町行く人達はいつの間にか円陣を組んで私を讃えていたが、どうにも恥ずかしくて、頭を下げてその場をそそくさと逃げ出した。


 まさか自分が交通事故に遭うなんて思いもしなかった。とてもビックリしてしまって異世界転生なんて夢物語を口にしてしまったのが今になって恥ずかしくなってくる。まぁ、今日は少しばかり疲れた。家に帰って休むとしよう。


 私は買い物を早々に済ませると身長174cm、体重312kgの巨体を揺らして家に帰るのだった。
























 …………なんじゃあれは。普通トラックに轢かれたら死ぬだろうが!まさか異世界転生の適合者がここまで強靱な者だとは思いもせんかったわ。だがしかし、手段はまだ一つある。ふふ、ちとまぁ奴らの手を借りんといかんのは癪だが仕方なかろう!



 神の不遜な笑みと笑い声が神界を包み込む。正義は彼の目論見から逃れることは出来るのだろうか……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

現実的な異世界召喚 真白な雪 @nicola0727

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ