第6話 楔は苦手?

 その日の昼休み。

 千里は伊織と蒼に今日はお昼ご飯を一緒に食べないかと誘われていたので二人が待つ隣の教室に弁当を持って訪ねていた。千里が訪ねたときにはすでに二人は食べ始めていて、待たせたなぁと思いつつも千里は二人のいるすぐ近くの席から椅子を借りると二人の間に座るように腰を落ち着けお弁当を開く。

「千里ってさ……もしかして楔のこと嫌い?」

 千里が食べ始めたとき、開口一番に伊織にそう聞かれると、少し面を食らったかのように目を見開いてから若干悩みつつたこさんウィンナーを口へと運ぶ。答えを考えるも、そもそもの話聞かれる理由がわからず、質問を質問で返すのは失礼だと思いつつも思わず聞き返した。

「……なんで?」

「なんというか……千里って楔に対してあんまり仲良くない人とか、苦手だったりする人ととる態度が同じだったり、楔のことだけ名字で呼んでるし……。まぁ、何となくだけど」

「うーん、……縁自体は嫌いじゃないよ、多分。けどなんか……苦手、なのかな……アイツ裏がありそうでさ……。なんか……苦手なんだよなぁ」

「嫌いではないんだ……」

「おぅ……。でもまぁそのうち慣れるよ。……多分」

 伊織は聞き返されるとは思っていなかったのか、聞き返されると少し悩んだように、宙を見上げた後に恐る恐る、といった感じで口を開きながら千里の疑問に対して答えた。千里は態度と言われ、そこまで表面に出てたかと思うと苦笑がこぼれそうになる。それでも千里はその後に、慣れるよ、多分。と言うと、伊織は呟くように千里の言葉に返すとそのあとすぐに顔をくしゃりと綻ばせながら口を開くのだった。

「多分なんだ……」

「楔いい子だし、すぐに千里も馴染めると思うな!それになんとなくだけど、千里と楔って気が合いそう」

「……いい子、ねぇ……。いや、あいつは……。んー、どうだろうねぇ……」

「楔いい子だよ?だからたぶん千里も仲良くなれるよ」

 千里はいい子、と言う言葉に何故か引っかかりを覚えその言葉を少しだけ意味深に呟いた後に、何かを吹っ切るように口を開く。

 理由は至って簡単だ。実を言うと中学の時、一度、伊織と楔、蒼と千里の間でちょっとした諍い事があった。今となっては謝って済むような問題でも無いし、それで住むようなことなら、必要が無い存在だっている。しかし、それで終わってしまった。あっさりと伊織が許したことに。そのことに違和感は覚えた。そのときの彼の雰囲気は普段の彼ザンいても似つかない様子だった。それ以来千里は縁楔の危険性があるかないかについて考え始めていた。蒼に聞いてもいいのだが、あまり仲の良くない蒼のことだ。碌な意見は来ないだろうから、もとより蒼の事は期待はしていない。千里の予想にしか過ぎないが、恐らく縁という男も蒼と同じで、この目の前にいる橘伊織のことを好いていると思っているし、そうとなれば、仲が悪くなるのも頷ける。それに楔のほうは千里には予想になってしまうが蒼も楔もお互いに引くことを覚えない。余計に仲も悪くなるのだって理解ができるのだ。

 そして対する伊織は人を疑うことを知らない純新無垢な性格だ。千里からすれば、伊織という女の子は、将来悪い人に騙されるんではないかとひやひやしながら毎回見守っている。……まぁそれはこの場にいない秋良も同じ話なのだが、騙されたら恐らく千里は総力を挙げてその詐欺グループをあぶりだすだろう。

「まぁ……いいか。にしてもそういや姉妹校に双子の姉弟……居るらしいな。確か、天城……ってやつだっけ?俺なぁんかきいたことあるんだよねー」

「うんー、そうだよ。僕の幼馴染みなんだー」

「へー……じゃあこの周辺に住んでんだ。その割なんで遠い高校通ってんだろ……」

「うんとね、確か桜才駅の東口?の方だったはずだよ~」

「へぇ、如一の家の近くか~」

 千里は話題を変えるべく姉妹校に天城のことを話題に出す。それも大して興味もなさげに話を振ると伊織はその人たちと幼馴染みらしい。千里も頭の片隅ぐらいにいる二人のことを思い出そうとしながらも思い出せないことにもやもやとしながらもそれを隠すように口を開く。

「この周辺なら、この学校でも通えたんじゃないか?せっかく幼馴染みなのに……。学力か?……あ、でも向こうも同じぐらいか……ううん、余計に分からん……」

「うん、なんかこの学校に死にたいくらい嫌いな人が居るからここには通いたくないんだって。正直言って僕は千里の呟いてる事の方が頭良すぎてよく分からないけどね」

「……え?俺一応このしゅ……いや、学園の部活と姉妹校の偏差値と部活ぐらいなら把握してるから」

「え、それちょっと怖いかも」

「千里ちゃんって変なところ頭いいよねー、元ヤンのくせに」

「うるせぇなぁ、元ヤンとかそれは関係ねぇだろー。つか、ふざっけんなよ、俺は昔の名残で文武両道なんですぅー」

「いひゃひょひゃんのかあひぇおいふぃ(千里ちゃんのから揚げおいしい)」

 千里は”死にたいくらい嫌いなやつ”その言葉に聞き覚えがあり、はて?と首を傾げるも、思い出すことはできなかった。そもそも日常的いつ買う言葉なんて誰でも言う。特定する方が難しいのだ。頭良すぎてわかんない、と言う言葉に対しては千里は一度、この周辺の高校、と言いかけて口を紡ぐ。すぐに自分の高校と姉妹校の部活と学力は把握してる、と口にすると伊織は怖い、というと蒼が、変なところ頭いいよね、とニコニコとしながらいった。伊織は千里の記憶力の良さに若干引いていた。

 その事をほんの少し不快に思った千里は、お弁当箱に残っていた最後の唐揚げを蒼の口に無理やり突っ込むと手早く片付けた。蒼はあまり反省したそぶりはなく“千里ちゃんの唐揚げおいしい”と告げる。それに追い打ちをかけるように千里は顔を露骨に顰めながら「ふざっけんな」と口をひらく。その顔を見て蒼はニヤニヤと笑いながら、幼馴染みだからこそ知っている、そして家が近所にあるからこそ知っている特権を話し始めた。

「うん、知ってる。夜中の3時ぐらいまで勉強してる事もあったよね。。たまに寝落ちて風邪ひいて死にかけてたり、寝坊してたら意味無いけどね」

「なっ……!!そればらすなアホ蒼!!蒼のバカ!!蒼パパなんてはげろ!」

「うん、どっちも同じ意味だよね。というか僕まだ若いからはげないからね。と言うより将来的に男も女もはげるからね、不吉なこと言わない。と言うより千里ちゃんの方がはげやすいんじゃない?夜更かししてるし、ストレスたまりっぱなしだし」

「ほんっと何でそればらすの?!てかなんで知ってんの?!」

「だって千里ちゃんの部屋、僕のいる部屋から丸見えなんだもん。カーテンは閉めてあるけど、電気ついてる時は大抵勉強でしょ?」

「うるせえなぁ……蒼、お前後で覚えておけよ」

 伊織は千里と蒼の話題についていけずに呆然としながら、二人の会話に耳を傾ける。千里は特に勉強などしていないがこの場には千里の大きな秘密を知らない彼女がいる。下手なことをいえずに困っていると蒼は相変わらずにやにやとしながらこっちを見ていた。内心こいつ後で覚えてろよ、千里はそう思いながらあの書類を今日中に片付けなくちゃ。そう思いながら、ふたたび会話を開始するのだった。

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