教えて、理央先生! 最終回の後の世界って、どうなっているの?

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九限目、原作、二次創作を問わず、『青ブタ』ワールドの可能性は無限大なのよ!

「──なっ、しょうさんたちが、『魔女』ですって⁉」


「うふふふふ♡ あら、知らなかったの? 思春期の女の子は、み〜んな『魔女』なのですよ?」


 そう言って、ほっぺたに人差し指を当てて、パチリとウインクする翔子さんに、思わず腰が砕けそうになる。

「──それで、何で『魔女』だったら、『作者』による『主人公の記憶』の世界間転移を、阻止することができるのですか?」

「あー、それについては、さくらじま先輩が初めてその格好をしてあずさがわの前に現れた時、名乗っていただろうが? ──『思春期症候群』の代行者エージェントにして、人呼んで『時間ときの魔女』って。つまり私も含めてこの三人は『魔女』として、自覚的に自分や他人を集合的無意識にアクセスさせて、『別の可能性の世界パラレルワールド存在ひとびとの記憶』をインストールすることによって、様々な『思春期症候群』としての超常的現象を実現することができるんだよ。それに対して、もしもこの世界が小説だった場合の創造主に当たる『作者』のほうは、ただ単に自分の作品を書いたり書き換えたりしているだけで、小説内で『主人公を複数の世界の間で転移させる』ことが、小説に書かれた世界すらも『本物の可能性のある世界』とする多世界解釈量子論に則れば、本当に複数の世界の間で主人公の『記憶』を転移させていることになるのに、そんな自覚なんてまったくないので、常に自覚を有する私たち魔女には太刀打ちなぞできず、主人公──つまり今回で言えば梓川の『記憶』が、他の世界に転移してしまうのを阻止することなぞ、造作もないってことなんだよ」

「え、その話の流れからすると、ふたも魔女だったわけ?」

「……何を今更、別に伊達に、『論理の魔女ロジカルウィッチ』と呼ばれていたわけじゃないんだぞ?」

「私はご存じのように、『時間ときの魔女』よ」

「うふふ。そうするとさしずめ私は、『癒やしの魔女』ですかあ? それとも夢の中だけ現れるから、『夢の魔女』──略して『夢魔サキュバス♡』ってところでしょうか? ねえ、さく君は、どっちの魔女わたしがお好み?」

 そ、それはもちろん、夢の中だけだけど、『ムフフ♡』なことをしてくれそうな、魔女サキュバスさんのほうですよ!

「──いやいや、そもそも何で皆様方は、『魔女』なんかになってしまわれたのですか?」

「それも以前に言ったじゃないか、ここではない『別の可能性の世界』において、桜島先輩や翔子さんやそしておまけに私自身が、あらゆる世界を夢見ながら眠り続けている可能性だってあるんだと。そうなるとまさに『作者』同様に、世界の創造主そのままの力を誇ることになり、複数の世界を入れ替えることによって、事実上世界の改変を実現したりすることも、十分可能となるんだ」

「なっ、つまりあなた方三人は、先程から名前が出ている、『作者』同然の力を行使できるわけなのか⁉」

 おいおい、小説の世界の中で『作者』の力を持っているなんて、それ以上のチートなぞ、Web小説の中でもお目にかかったことはないぞ⁉

「早とちりするんじゃないよ。この世界をも含むあらゆる世界を自由にできるのは、『作者』同様にあくまでもに存在している、『夢の主体』あるいは『外なる神アウター・ライター』と呼ばれる者だけで、その分身として個々の世界の中に存在している、我々のような『夢の主体の代行者エージェント』は、『内なる神インナー・ライター』と呼ばれていて、その力も大幅に制限されているんだ」

「制限されているって、どんなふうに?」

「この前も言っただろう? 自分自身も世界の中に所属している限りは、その世界を本当の意味で改変することなぞできず、せいぜい人々を集合的無意識に強制的にアクセスさせて記憶を書き換えることによる、『精神的な改変』だけだって。──例えば全人類の記憶を書き換えることによる、『記憶上のみでの戦争の事実の抹消』のようにね」

 あーあー、そういえばこのシリーズの第五弾あたりに、そういったエピソードがあったっけ。

「え、じゃあ、皆さんこそが『夢の主体の代行者エージェント』とやらとして、まさに集合的無意識を介しての記憶操作によってこそ実現している、思春期症候群を引き起こしていたってわけなのか?」

「少なくとも、梓川の周辺で起こった分についてはね」

 こ、こいつ、そのくせ事件が起こるたびに解説役を買って出ていたわけだから、これぞ文字通りの自作自演マッチポンプそのものじゃんか⁉

「……どうして、わざわざそんな、七面倒なことを」

「そりゃあ何よりも、『主人公』である君を絡め取るためだよ。うかつに君の『記憶』だけが、集合的無意識を介して別の世界に転移されないように、まず『夢の主体の代行者エージェント』として大本の集合的無意識を我々の手で管理して、そしてその上で『魔女』として思春期症候群を引き起こして、いろいろな騒動を通じて、君に私たちとの深い関係を結ばせて、けして逃げられないようにしたって次第なのさ」

「そ、そこまで徹底的に仕組んでいたのかよ? ──いやでも、それもこれもこの世界のためなんだろ? でも、『かえで』が実のところは『別の世界パラレルワールド花楓かえで』のようなものであったように、現在魔法少女の格好をしている翔子ちゃんを乗っ取っている『翔子さんの記憶』も、こことは別の世界からやって来ているのだからして、別にこの世界のために協力する必要なんてないのでは? それにこんなこと言っては何だけど、本来の女子高生の麻衣さん自身も近いうちにお亡くなりになるそうだから、今ここにいる妹さんも本来の自分に戻って、もう二度と『魔女』として振る舞うことはなくなるんじゃないのか?」


「……そうかあ、そこら辺のことについては、まだちゃんと説明していなかったっけ。──あのね、梓川。集合的無意識を介して刷り込まれる『記憶』は、別にSF小説や漫画あたりに出てくる『寄生精神体』のようなものではなく、翔子ちゃんや麻衣さんの妹さんも、別に意識や人格を乗っ取られているわけではなく、極論すれば、ちゃんと『自らの意思』でもって振る舞っているんだよ」


 ………………へ?

「おいっ、今更何を言い出すんだ⁉ それってこれまでの前提を、すべてひっくり返すようなものじゃないか!」

「説明が足りなかったことは謝るけど、別にこれまでの話と、完全に矛盾しているわけじゃないよ。集合的無意識を介して『別の可能性の世界の自分の記憶』をインストールすると言っても、いわゆる『パラレルワールドの自分の記憶』そのものを刷り込んで、精神も身体も乗っ取られるわけではなく、あくまでも『データ』としての記憶をインストールするだけで、それを材料にしてどう言動していくかは、徹頭徹尾この世界の肉体の持ち主サイドに委ねられていて、例えば完全に麻衣さんの『記憶』に基づいて言動しているから、今ここにいる妹さんはまるっきり麻衣さん自身であるかのようにも見えるけど、あくまでも麻衣さんの妹さん以外の何物でもなく、現在における言動のすべてに対して、ちゃんと自覚を持っているんだ。もちろんこれは、翔子さんと翔子ちゃんの関係においても同様だよ。──すなわち、ここにいる二人はあくまでも、この世界を守護するために生み出された『魔女』なのであり、この世界のために『思春期症候群』を引き起こすことによって、『主人公』である君を絡め取ろうとするのも、極めて当然の仕儀に過ぎないのさ」

 う〜ん、つまり集合的無意識からインストールされる『記憶』って、完成された一個の人格なんかじゃなく、言わばパソコンにおけるOSみたいなものに過ぎなくて、どのように使いこなすかは、個々のパソコンにおける使用者次第であるようなものなのか。

「……まあ、いまいち釈然としないところもあるものの、一応納得したことにして、これまた肝心な話になるんだけど、そもそも『主人公』としての僕の『記憶』が他の世界へ転移するのを、阻止するのに成功したら、一体どういうことが起こるんだ?」

「本来転移するべきだった、いわゆる『改変後の世界』においては、肝心のその世界の君には、桜島先輩が君を庇って意識不明の重体となるという記憶がなくなるから、本来の『世界の改変者』としての適切な行動がとれず、それ以降うまく物語ストーリーが運んでいかなくなって、『青ブタ』世界的には行き詰まってしまうんじゃないかな?」

 駄目じゃん!

「おい、本当にそんなことになってしまっても、いいのかよ⁉」


「知るかよ、他の世界のことなんて。もしも『作者』の思惑ストーリー通りに君の『記憶』を転移させてしまったら、もはや実質上『主人公』無きこの世界は朽ち果てるしかないんだぞ? そうなるくらいだったら、自分たちには関係ない『本筋』のほうこそを、犠牲にしてしまおうってわけなんだよ。──つまり私たちは『原作』であることをやめて、自ら『二次創作』となる道を選んだようなものなのさ」


「ちょっ⁉」

 おいおい、またしても、メタっぽい言葉を並べ立てやがってからに。

「だって、そうじゃないか。メインヒロインを死ぬに任せて、しかも勝手に瓜二つのJSに、その後を継がせたりして、挙げ句の果ては彼女を含めて、本来世界の黒子であるはずの私たち『魔女』が、全員その本性を現したりして。後はもう二次創作──つまりは、『何でもアリ』の世界を押し進めるしかないだろうが?」

「……何でも、アリって」


「実はまさにそれこそが、二次創作ならではの醍醐味なんだ。『ちょっと不思議な学園青春ラブコメ』である原作ではとてもできないような、ガチの異能バトルを繰り広げたり、異世界に転移して魔王を倒したり、巨大ロボットを操って宇宙人と闘ったり、戦国時代にタイムスリップしたり、遠未来にタイムトラベルしたり等々といったふうに、やりたい放題やろうが、別に構いやしないんだ。何せすでに私たちは、原作とは完全に袂を分かったのだからね。──それに『青ブタ』の二次創作は、別に今回のアニメ化記念企画期間内だけでなく、これからだってどんどん生み出されていくことだろうよ。だって『青ブタ』の──すなわち『思春期症候群』の可能性は、無限大なのだからね」


 ──‼

 原作、二次創作を問わず、『青ブタ』ワールドの可能性は無限大、だと?

「だから梓川も、すでに筋書きが決まり切った物語の操り人形なんかにならずに、これからは二次創作の世界で、私たちと一緒に好き放題やっていこうよ。そっちのほうが、断然面白いと思うし。何せあくまでも記憶操作によるものとはいえ、世界そのものを自由自在に誘導できる『魔女』が、三人もついているんだ。できないことなんて、何もないさ。──もっとも、今更君には、拒否権なんてないんだけどね♡」

「な、何だよ、僕に拒否権がないって?」

 なぜか僕のほうをニヤニヤと見つめている、JSとJCの二人の魔女っ子さん。

「例えば今ここで、桜島と翔子の『記憶』を取っ払ってしまって、彼女たち本来の意識を取り戻させたら、どうなるだろうね? こんな遅い時間にこんなところに、いたいけな小学生と中学生を連れ込んで、梓川は一体何をやっているのかねえ。警察の事情聴取の際に、きちんと真っ当な答えを返すことができるかな?」

 咄嗟に窓のほうへ振り向けば、すでに外は真っ暗になっていた。

「別にわざわざ、意識を切り替える必要はないわ。一応私もかつては、『天才子役』と呼ばれていたのですからね、そんな思春期『まっただ中』症候群のブタ野郎なんか、演技力だけでいくらでも陥れることができるわよ」

 そう言って防犯ブザーを取り出したのは、JS魔女っ子さん。

 ……もしかして、今の僕って、社会的な生命の危機にあったりして。

「わ、わかった、全面的に言うことを聞く! こうなりゃヤケだ! 『主人公』でも『二次創作』でも、やってやろうじゃないか!」

「うんうん、そう来なくっちゃ。それでこそ、我らが『主人公』。──まあ、とにかく、これからもよろしくね」

 そう言うや、右手を差し出す、『論理の魔女ロジカルウィッチ』。

 その上に当然のように、同じく右手を重ねる、『時間ときの魔女』と『癒やしの魔女』。


 ……そう、だよな。


 たとえ原作の本筋から外れようが、あくまでもこの世界こそが、僕にとって唯一の、物語じんせいの舞台なんだ。


 ちょっと不都合があったからって、自分だけ逃げ出して、他のすべてを見捨てるわけにはいかないだろうよ。


 ……まあ、せいぜい、仲良くやっていくことにいたしますか。


 ──目の前の、この世のことわりから外れた、『論理の魔女ロジカルウィッチ』たちと。


 そして僕は彼女たちの手の上に、自分の右手を重ねたのであった。

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