永若オソカ

誰を好きになれば正解ですか? 〜 友情贈呈式編 〜

 ──たとえあなたがその人を好きだと思っても、相手がそれを許してくれるとはかぎらない。肝に銘じておくように。



僕「ラッピングされた乙女たちが広場にウジャウジャいるね」


A「友情贈呈式(女子限定)の参加者はドレスを身にまとっていますね。ルールですから」


僕「みんな、ドレスと同じ色のリボンを首や手首に巻いてるね」


A「もう一つのルールとして、友達になりたい子に自分のリボンを渡すんです」


僕「だからあの子はリボンまみれなのか。あれって、誇りだよね。マウントだよね」


A「あのー、なんで良夜さんはカンガルーの仮装をしているんですか?」


僕「女子しか参加できないからね」


A「女装してもいいと思うんですが」


僕「グリーンパークといえばカンガルーと思ってね。どう? 似合ってる?」


A「自分は好きですよ」


僕「へへ。好きって言われちゃった。ところでAさんのドレス姿、似合ってるよね」


A「へーそうなんですか。でもこれ、動きにくいし生地がチクチクしてしんどいですよ」


僕「君は着心地重視だもんね。それにしても、一人で平気なAさんが友達づくりのイベントに参加するなんて珍しいね」


A「母が勝手に申し込みました。自分がいつも一人でいるから心配だそうです」


僕「社交性が試されるね。まあせっかく参加したのなら、気になる女の子に話しかけてみれば?」


A「ほう。良夜さんも友達は必要派ですか。おや、誰かきましたね」


S「あ、あの……こんにちは」


A「……」


僕「Aさんに挨拶してるんだよ」


A「あ、ごめんなさい。あのー、どうしましたか? 困り事ですか?」


S「いや、そうじゃなくて……私、カップケーキを焼いたの。よかったら、どうぞ」


A「はい、わかりました。……あ、美味しいです! これ、バナナが入っていますか!」


S「う、うん! あなたはバナナ好き?」


A「いいえ。昔食べすぎたせいで、今では見るだけで吐きそうになるんです」


S「あ、そうなんだ………嫌いなら無理しなくていいからね」


A「自分は好き嫌いするなと親に言われて育ちました。だから腐っていなければ嫌いでも食べます」


僕「ちょっとー! なんでAさん、『それにしても、なんでいきなり好き嫌いの話?』って首を傾げてんの!」


S「ご、ごめんなさい……」


A「どうして謝るのですか? ……行ってしまいました」


僕「バナナ嫌いの自分でもおいしく食べられましたって言っていれば、あの子は悲しまずにすんだよ」


A「そのつもりで言ったんですよ? 自分、ちゃんと『おいしい』って言いました。嘘はついていないんですよ」


僕「うん。そうだね。悪い方向に食い違ったね」




一同「Aさん。ごきげんよう(笑)」





A「おや、クラスメイトのイさん、ロさん、ハさん。こんにちは」


イ「教室でも友達ができないんだから、こんなところに来たって意味なくない?」


A「同情ですか。ありがとうございます。まさしくその通りです」


ロ「せっかく友達を見つけるチャンスなのに、どうしてカンガルーの置物と喋っているの?」


A「あー……現実逃避? 今のところ、友達はつくらなくてもいいかなーっと思って」


僕「僕がいるからね」


イ「は? この置物喋ったか?」


僕「気のせいだよ」


ロ「せっかくだから、お喋りしましょうよ。わたくし、Aさんに聞きたいことがありまして……」


A「はい、なんでしょう」


ロ「好きな人っていますか?」


A「強いていうなら、カワイイ女の子と友達になりたいです」


イ「ちげーよ! 恋だよ」


A「あ、そういうことでしたか。ごめんなさい。そういうの、よくわからないんです」


ロ「デートしたいとか……その、キスしたいとか」


A「キスといえばですね、口内細菌を接触する行為なので不衛生極まりないのですが、行ってきますのチューは事故予防に繋がるんですよ。面白いですよね」


イ「なんで話を脱線させんだよ」


A「キスの話をしているんですよね?」


ロ「結婚したい人とかいないの?」


A「自分なんかと……可哀想」


イ「自覚はしてんだな」


A「自分、猫が好きです。近所の野良猫を家族にできればなー」


イ「何言ってんだよ。猫と結婚できねーだろ」


A「あ。『結婚』と『家族』を混ぜて考えていました」


ロ「クラスメイトのN君は? 声をかけられているでしょう」


A「なんであの人が一番にでてくるんですか? いつもちょっかいをかけられてうんざりしているのに」


ロ「そうでしたの! もしかして、いじめられていたり……」


A「いいえ。馴れ馴れしく話しかけられるだけでも辛いです。ロさんも、喋りたくない時に近づいてこられたら嫌でしょう?」


イ「Nカワイソー」


ロ「あの、誤解なさらないでくださいまし。N君はあなたに興味があって……」


A「面白がっているんですよね」


ロ「……仲良くなりたいのです。あなたは思い込みで損をしています。今度話し合ってみたらどうでしょう?」


A「どうしてなんですか? 相手が好きだから、私の苦しんでいるこの感情はおざなりにされる」


ロ「わ、わたくしはそんなつもりで言ったわけでは……」


A「『好きだから』って言葉はズルいですよね。私の好きが受け入れられないだけに不平等を感じます」


イ「だったらさ、あたしがNに告っていいよな?」


A「はい、どうぞ。そういえば、好きなタイプはおとなしくてどこか抜けてる子と言っていたんです。うるさくてズゲズケものもうす子は苦手だとのことです」


イ「てめぇ!」


僕「はいそこまで! もうだめだ見過ごせない!」


イ「うわあカンガルーが飛び跳ねた!」


ロ「逃げましょう! きゃー」


僕「Aさん、なんで……いや、待って、考えさせて。Aさんがわざとイヤミを言ったりしないし」


A「イヤミ? どのあたりがなんですか!」


僕「N君の好みを教えたのは、アドバイスのつもりだった? いや、つもりじゃないか。アドバイスを言ったんだ」


A「自分、イさんは『参考にするよ』か『それでもありのままのあたしを好きになってほしい』って言い返すと思ったんです」


僕「なんでN君は好きなタイプをAさんに教えたんだと思う?」


A「あの人は自分の話ばかりしています」


僕「もし、Aさんのことが気になっていたとしたら?」


A「お前のことが気になるから、オレの好きなキャラを演じてくれ……と、いう意味なんですか? それ、おかしくないですか?」


僕「そっか……。あのね、信頼関係を築くためにまずは自分の持っている情報を打ち明けるって心理テクニックがあるんだよ」


A「それ、間違ってますよ。自分のことばかり話していたら嫌われますよ」


僕「なるほどー。Aちゃんはそう思ってるのかー」


A「でもイさんはみんなに愛されています。きっと恋愛は成就します」


僕「へえ、愛されキャラだったんだ」


A「はい。だってイさんがふてくされたら、みんなが気にかけるんです。自分がふてくされたら、空気を悪くするなと怒られるのに」


僕「お?」


A「ワガママができる。これは素質なんです」


僕「……それ、褒めてないよ?」


A「え!」


僕「ワガママができないAさんからしてみれば、羨ましい長所なんだろうけど……言い方がなぁ」


S「きゃあああ!」


A「参加者の乙女がロボットに襲われています! ただちに倒します!」


僕「Aさんがスコップを構えてロボットに突撃したよ! あの子、倫理的ブレーキやためらいがないから、すぐ戦闘態勢をとれるんだよね」


A「スコップは穴を掘る道具。だから肌が硬くても……問題ない!」


僕「ロボットが削られていく! 穴ボコにするとか、Aさんは怪力だなあ」


A「スコップの役割が果たされたんです。ところで、ビームに当たった乙女が可愛いぬいぐるみになりました」


ハ「友達がつくれそうにない乙女はロボットによってぬいぐるみになります」


僕「さっきの三人組の一人」


ハ「この会場は最終審査でもあるんだよ。窮地に立たされても一人を選ぶ協調性のない子は、可愛がられるだけのぬいぐるみに選ばれるんだよ」


A「友達をつくるコミュニケーション能力と協調性はイコールじゃないですよ」


僕「でも、このぬいぐるみにされた女の子って今日のためにケーキを用意していたよ。少なくともこの子は友達をつくる意思はあったのに」


ハ「意欲はあっても三回失敗するとぬいぐるみ化するよ」


A「そんなのおかしいです! 自分、なんか怒ってますよ」


僕「やばい。Aさんの人命救助を違反行為とみなしてロボットが集まってきた」


ハ「そうだよね。おかしいよ。だからあたしはここにいる」


僕「それってどういう……って、機関銃を構えてるよ。え、戦うの?」


ハ「ダダダダダダダ!」


僕「乱射〜!」


A「かっこいーですー!」


ハ「かつてあたしの友達がぬいぐるみにされました。悲しかったけど、もそもあたしは友達認定されてなかったことが、なにより悲しかった!」


A「よくわかります。ちょ、ロボット邪魔。ハさんが喋ってます」


ハ「ロボットを倒してもあの子はぬいぐるみのままだし、友達は戻ってこない。気が済むまで八つ当たりをさせてよね」


A「はい! やってください!」


僕「ハさんが広範囲を一気に攻め、それでも迫ってきたロボットをAさんが討ち取っていく。ナイスコンビネーションだ」


ハ「よし、全滅。お疲れ」


A「あ、あのー。ハさんの友達になりたい人の条件ってなんですか?」


ハ「この人に尽くしたいと思ったら誰でもいいよ。この際、奴隷になっちゃう」


僕「それって対等な関係じゃないよ?」


ハ「あたしは空気が読めないから、好きな人のそばにいさせていただくだけで充分幸せなんだよ」


A「なるほど」


ハ「見返りなんて求めない。文句を言われても怒らない。見捨てられても悲しまない。だって、友達だから」


僕「友情ってのは育むものだよ」


ハ「友達関係が続かない人に、一般的友情論を諭されても……。困るよ?」


A「イさんとロさんといるとき、窮屈そうですが……」


ハ「友達になりたい人に出会うまで、ロさんの人柄を勉強します」


A「ハさんの考え方は素晴らしいです。共感することばかりです」


ハ「たぶんあたしは似たもの同士だと思う。その証拠に、私はAさんを嫌な奴じゃなくてウソがつかない正直者だと思っているから」


僕「よかったね。理解してくれる人がいたよ」


ハ「人を陥れたりしないところはいいと思うよ」


A「ありがとうございます。……あのー、社交辞令でいいんで、リボンを受け取ってもらっても……」


イ・ロ「ハちゃーん」


イ「呼ばれたから行くね。さよなら。いや、ごきげんよう」


A「は、はい。ごきげんよう……」


僕「……。受け取るだけ受け取ればいいのに」


A「ハさんの選択は間違っていません。二人は友達だから」


僕「でもさ……」


A「私が友情に敗北したのは今日が初めてではありません。泣くものか」


僕「僕が泣きそうだよー」


猟「いたぞ! 侵入したカンガルーを捕まえるぞ!」


僕「やばっ! 逃げるよAさん!」


A「は、はい」






A「あのー良夜さん。リボンを隠してもらっても良いですか? またお母さんに文句を言われます」


僕「任せとけ。何はともあれリボンを受け取ったってことは、僕はAさんのオ・ト・モ・ダ・チ?」


A「…………」


僕「ちょ、黙らないでよ。ボケなんだよ。気まずくならないで」


A「良夜さんがいれば、無理して友達をつくらなくてもいいと思ったんです」


僕「えっ!」


A「その反論を考えていたんです」


僕「いやいや! 考えなくていいよ! いやいや、嬉しいなー」


A「嬉しい? ど、どうして──」


母「きゃあ! 娘がカンガルーと一緒に歩いてる!」


僕「はじめましてお母さん。娘さんとは仲良くしています」


母「きゃあ! カンガルーの中から少年が出てきた!」


A「カンガルーの正体がこの少年です」


母「まあ! この子に彼氏がいたなんて! 迷惑かけていない?」


僕「一緒にいて楽しいですよ」


母「ありがとうね。あの子、人付き合いが苦手だから、不安だったの」


僕「僕はAさんが好きです」


母「仲良くしてくれる人がいてくれてよかったわ。いつも一人だから、心配だったの」


A「…………なんなんですか?」


母「え? 何か言った?」


A「あのー、お母さん。私が孤独であることを一番嘆いていたのは貴方でしょう?」


僕「Aさん? なんで泣きそうなの?」


A「なんで、『友達がいたんだね』と言ってくれないのですか……?」


母「え、だって……」


A「私は女だから、女子としか友達になっちゃダメなんですか? どうせのけ者にされるのに、友達を作らなくちゃならないんですか?」


僕「Aさん……」


A「悪口を言ってこない猫は友達に選んじゃダメなんですか? なんなんですか、バカにしやがって、笑いやがって。ふざけるな……じゃあ、誰を好きになれば正解なんですか!」


母「え? なにを怒っているの?」


A「だいたい、この人は友達でも恋人でもないんですけど!」


僕「えええ!」


A「自分のような間違った奴は、普通がわかる皆様方の温情で生かされていることくらいわかっているんです!」


僕「Aさん……僕は、可哀想だから君に話しかけているわけじゃないよ」


A「良夜さんからも言ってください! 『こんな変人が友達なわけない』って! 『こいつに限って恋人はありえない』と言ってやってくださいよ!」


僕「いやだよ……そんなこと、言いたくない」


A「この偽善者! あなたがはっきり言わないから誤解されるんですよ」


僕「なんだよ……。Aさんの友達でいることはいけないのかよ」


A「あなたは私なんかにも話しかけてくれる良い人だと理解しています。そこまでは許します。しかしそれ以上、落ちぶれなくていいんです」


僕「落ちぶれる? Aさんと友達になることが?」


A「とにかく、この街でも私は適合できませんでした」


母「どうして手榴弾なんて持っているの!」


A「抜け穴を探します。えい」


母「きゃあ! 空中に穴があいた!」


A「それではさようなら。良夜さん、あなたに気にかけてもらえて光栄でした。ありがとうございます。では」


母「どこに行くのよ!」


僕「なんだよそれ……なんだよそれー!」

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