24話:その戦士、容赦無し

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 デビドに連れられバトゥーカの氏族にむかえられた。

 デビドは、青き空鏡そらかがみの高原の黒暗淵やみわだ種にとって、英雄としてまつられた伝説的な戦士であった。


 反撃の狼煙のろしは上がった。

 俺とメイサは殺しの双重奏デュエットとして、時にデビドを加えた三人組で、デビドの信奉者達もまた、マフィア狩りにせいを出した。

 バトゥーカ達の破壊力は凄まじく、小さな組織ンドラーナであればたった一日で壊滅した。

 帝国当局も犯罪組織ギャングの弱体化には歓迎ムードで、マフィア狩りを公然と批判する事はしなかった。

 普段、犯罪組織ギャングに苦しめられていた者達も自発的にこのマフィア狩りに参加し、マフィア排斥はいせき運動は激化していった。


 犯罪結社マフィアどもの報復は苛烈かれつ

 捕らえたバトゥーカやその協力者を血祭りに上げては、切り取った指やいた眼球を、將亦はたまた塩漬しおづけの首を敵対者に送り付けてきた。

 自発的に参加したマフィア狩りの人間や協力者のいくばくかは、そのおどしにくっした。

 だが、怖いもの知らずのバトゥーカ達にとってマフィアの脅しは何の抑止力も発揮せず、むしろ、同族殺しへの復讐心も相俟あいまって益々ますます、勢い付き、抗争は激化した。


 ダラスタ、スタンカピア、オールノール、ファビアン、ソルノート、ピエッタ、ニブル、アサハモーソの町々からマフィアが一層された時、事態じたい一変いっぺんした。

 動きようはずもない、動くわれもない、魔女教団ジャラールレイラの大司教悪食あくじき”アマンドラ・ラ・ユーゾーダが介入してきたのだ。

 ユーゾーダの仲裁案は実にシンプルだった。

 罪咎教団ダンダイヴ・ダールーンのマフィアと青き空鏡そらかがみの高原のバトゥーカの和睦わぼく。和睦の条件は、双方から抗争の首謀者、乃至ないいしは責任者の死。

 この提案を受け入れられなかった場合、双方への信仰的な助力の引き上げ、即ち、断交する、と。一方が受け入れなかった場合、受け入れた他方に協力する、と。


 魔女教団からの提案には、ほぼ逆らう事は出来ない、それ程に用意周到よういしゅうとう

 理由は至極しごく単純。

 罪咎ざいきゅう教団は魔女教団と同じく七聖典神セブン・シミターズの一柱であり、その抗争ともなれば帝国の根底に関わる大事。抑々そもそも、罪咎教団は悪人の更生、救済を信条としており、マフィアそのものを容認、下支したざさえしているものではないため、魔女教団からの提案を断るはずもない。

 また、バトゥーカと魔女教団は切っても切れない関係にある。バトゥーカにとって魔女教団の神“魔女”ジャラールレイラは、バトゥーカ族出身とされており、その繋がりは信仰だけに留まらず、種族的にも強い。つまり、断る理由がない。


 ユーゾーダの仲介に対し、いち早く動いたのはマフィア達であった。

 ンドランガリアの末端組織の幹部カポ複数人の首に加え、謀殺株式会社マーダー・インクの実行部隊のリーダーの首を大都市アルズ・エストにさらした。

 処刑理由は、更生の余地が見られない大悪党の誅殺ちゅうさつ、と。そこには、罪咎ざいきゅう教団と魔女教団、バトゥーカ族、そして、帝国臣民に対してのび状が添えられていた。


 機先を制された青き空鏡そらかがみの高原のバトゥーカ達は、普段決して見せない程、色めき立った。

 首謀者の処刑、つまり、人族のグインとメイサの処刑に異論はない。

 しかし、青き空鏡そらかがみの高原のバトゥーカ達にとって伝説的な英雄であるデビドを差し出す訳にはいかない。

 しかも、当のデビドはグインとメイサの処刑も許さない、と云う立場を取った。


われは人族の二人を助ける、と約束した。矮小わいしょう脆弱ぜいじゃく、愚鈍な人族と、普段あなどっているにも関わらず、我々が貧弱で浅はか、愚かな判断、選択をしようと云うのかッ!」


 女族長フンボド・ワ・ゴグはいさめる。

彼奴きゃつらを差し出せば収まるやも知れぬのだ。安い命で救われる、誰も損はせぬ、良き決断、だ」


 族長のフンボドは神祖種しんそしゅ。最上位種にあり、尚且なおかつ、母系社会のバトゥーカにとって女族長の意思決定権は信仰のぐ。

 如何いかにデビドが伝説的な戦士であろうとも、純血種じゅんけつしゅおすでは、その決定権をくつがえすのは容易たやすくはない。


「ならば、よじどもを差し出すが良かろう。マフィア共の手打ちにしょされた連中と釣り合うのは、その程度で十分だッ」


「そうう話ではない。わしらとしてはぬしに、人族なぞに入れ込み過ぎじゃ、とうとるのだ。彼奴きゃつらが闇の影氏族の重鎮じゅうちんでもあれば使いみちの一つや二つあろうが、氏族に見放みはなされ、儂らに面倒事めんどうごとを招き入れるやからに何の価値もない、と云う事だ」


「今ある価値が、そう見えている見掛みかけの姿が、その真実とは、全てとは限らんッ!

 かつて、我らは余所よその種を見縊みくびり、多くのあやまちを犯した。月の女神も正に。あのあやまちから何一つ、学び得ておらんのかッ!そのあやまちをまた、繰り返すのかッ!!」


ぎるぞ、デビド!おのれっ、如何いか戦働いくさばたらきで名を上げようとも、戦士風情ふぜいうて良い事と悪い事の匙加減さじかげんも分からぬのか!」


「命をッ!命をけて戦い抜いて来たわれのッ、我の言葉を吟味ぎんみさえ出来ぬおさに、血脈けつみゃく以外の資質等ししつなどるものかッ!

 我が認め、約束した者とに、しゅの違い、血の違い、してかくの違いなど関係ないッ!

 我はグインとメイサを助けるッ!それ以外の選択肢等、例え種母神しゅぼしんが反対してもりはせぬ!」


おのれっ、デビド!よううたわ!!

 ならば、其方そちはたった今より戦士を除籍、儂ら部族の、種族のっ、裏切り者。己ら全て、誅滅ちゅうめつす!

 せめてもの情けだ。一日。丸一日の猶予ゆうよを与えようぞ。その一日の間、精々せいぜい、遠くにのがれるが良いわっ」


「いいだろう。このデビド!容赦ようしゃせんッ!!!」

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血みどろ勇者教育振興機構における奨励制度の実施状況報告 武論斗 @marianoel

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