14話:口伝、闇の種族

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 裏切り者プリェーダチェリ――

 他人ひとはそう、俺を呼ぶ。

 勿論もちろんかまわない。


 せざるをなかった。

 だけ、さ。


 言い訳をするつもりはない。

 抑々そもそも、意味がない。

 意味もないし、意義もなかった。


 後悔しているかって?

 ――……。

 ああ――

 ずかしながら、な。


 我ながら、クール、じゃなかった。

 無論、冷たくも。

 だからと云って、くさっちゃいない。

 が届いた、って事は事だ。


 ――ああ。

 やってやるさ。

 見ているがいい。

 そして――

 待っていろ!

 必ず、俺がッ!



―――――



 闇の民は大きく二つに分けられる。

 一つは、俺達、人間種。

 もう一つは、太古からの生き残る黒暗淵やみわだ種。


 黒暗淵やみわだ種を我々は畏敬いけいの念を込め、バトゥーカ、と呼ぶ。

 所謂いわゆる亜人種デミヒューマンだ。


 あらかじめ、断っておく。

 バトゥーカは、化物ばけもの、だ。

 ここを勘違いしてはいけない。

 亜人の一種、とたかくくって接触を図れば、それは重大な不幸を招く事になる。

 渾沌種ではないが、渾沌種同様、十分警戒する必要がある。


 地下に棲息せいそくし、極端きょくたんに陽光を嫌う。

 嫌う、という言葉には語弊ごへいがあるかも知れない。

 恐らく、彼らの唯一の弱点、それくらい嫌っている。

 簡単にいえば、生命の危機におちいる、そういう嫌い方。

 アレルギーどころの騒ぎじゃない、そういうもの

 というのは、俺自身がバトゥーカではないので、そうとしか認識できないからだ。


 彼らの姿は、一見すると人間種とあまり変わらない。

 だが、その体躯たいくは、人間のを大きく上回り、筋骨隆々きんこつりゅうりゅう。勿論、めすもだ。それどころか、めすの方がおすよりでかい。


 彼らは体を自由に鉱化こうかさせる事ができ、完全に鉱物と化す。この状態であれば、ほぼ永久に存在し続ける事ができるが、石ころ同様どうよう動けず、一箇所いっかしょとどまる。

 鉱化こうかとは逆に、肉化にくかした時は、通常の生命体のように振る舞うが、この状態であっても寿命が尽きる事はないように思われる。

 たんに長寿なのか、論者ろんじゃどものように不死なのかは分からない。


 見た目、あくまでも風俗の話だが、大凡おおよそ、原始人のように見える。

 我々のあらゆる部族や氏族と照らし合わせて見ても、田舎者と片付かたづけるには無理がある程、原始的な生活を送っている。

 とは云え、彼らには十分な知性があり、我々のとは全く違うものの、宗教や文化、教養、それどころか独自の言葉や魔術すら持ち合わせている。

 ひょっとしたら、彼らの方が我々よりも賢いかも知れない。

 原始的、と云うのは、我々の感覚とは違うというだけに過ぎず、彼らには彼らなりの生活様式があり、それに従っているからだ。

 あくまでも、人間のと比べた時、未開に思える、そう判断しての事だ。


 なぞ多き種族ゆえ不確ふたしかではあるが、恐らく、数ある亜人種デミヒューマンの中でも、その生命力の高さは最強クラスと云えるだろう。

 その皮膚はゴムのようにやわらかく、並大抵の武器では歯が立たない。

 人間とあまり変わらない風体ふうていだが、関節かんせつはあってないようなもの。人間であれば曲がってはいけない方向に自由にひん曲がり、傷付いても驚異的なスピードで再生する。

 力は強く、跳躍力も抜群ばつぐんあごも丈夫で何でもみ砕く。

 知性も十分あり、その多くは我々の感性としてみれば、ずるがしこい部類に属するが、いずれにせよ、種としての強靱きょうじんさはずば抜けている。

 半神だの、英雄だのってのを抜きにすれば、これ程、高スペックな生き物も珍しい。

 それだけに、不自由、なんだろうが。


 彼らはいつも、、だ。

 極端な話、知性を持つ生命体の中で、最も本能的とも云える。そういう意味でも原始的に思える。

 かくう。いつでもどこでも喰う。何でも喰う。

 その巨体を維持する為、矢鱈滅法やたらめっぽう鱈腹たらふく喰う。

 驚異的きょういてきな雑食性で、植物や生肉は勿論、毒草から毒蟲、ては岩や土他、無機物でさえ、喰う。

 それどころか、渾沌種の肉ですら喰らってしまう。しかも、美味うまそうに。

 驚くだろ?

 彼らの胃袋と食欲については、頑強がんきょうという言葉だけでは、まぁ、足らない。

 その代わり、喰わないと自然に鉱化こうかしてしまう。

 空腹で鉱化こうかしたバトゥーカは、やがて思考力も鈍化どんか、完全にただの鉱物と化してしまう。

 もし、彼らをかたどった彫像があったとしたら、迂闊うかつに近付かない事だ。

 それは活動停止しているだけの彼らで、喰われてしまうかもしれないぞ。


 ――ん?


 何故なぜ、バトゥーカの説明をしたのかって?

 闇の民以外の余所者よそものでバトゥーカを知っている者達が少ないからさ。

 傭兵ようへいか何かで人間の町に出入りしているバトゥーカを見聞きした者もいるだろうが、そこで見せている彼らは、その特性の一面。

 ある意味賢いんで、一部しか見せていない、そんなところ。

 もっとも、闇の民である俺でさえ、彼らを理解していなかったのだから、至極しごく当然。


 これは、俺のつたなさ故の、さ。


 ――ん?


 では何故、彼女との話をこばんだのかって?

 ははっ――

 痛いところをくね~、あんた?

 クールだね~?

 スマートだよ、いや、本当に。

 うらやましい限り、さ。


 まぁ、だからこそ、俺は後悔しているのかもな。

 後悔はしているが――


 ――そう、悪くもない、さ。

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