第7話
30分後、僕たちは川崎の人気のない喫茶店に到着していた。しかし入れ違いだったらしく、2人の姿はどこにもなかった。
「くそっ!どこ行きやがった!」
「店員さんに聞いてきたけど、出て行ったのはついさっきらしい。だから、別れて探せばまだ間に合うよ!」
「早く行くのです!」
「では、見つけたらご連絡下さい!」
僕たちは一斉に店を飛び出し、バラバラな方向へ走って行った。
僕は古い倉庫街のような場所に来ていた。人を連れ込むなら、ここが一番楽だろうと思い、手当たり次第に探し回った。
「西岡くん!やめて!」
そんな声が聞こえたのが、奥の方に進んで入り組んでおり、もう全く人気のない場所だった。僕は素早く皆に連絡を入れ、声のする方へと急いだ。
「西岡くん!離して!」
「何で?僕はね、ずーっと君だけを見てきたんだ。楽しそうに笑う君、悔しくて泣いてしまった君、ムカついて怒った君…どれも素敵だったよ。僕は嬉しい…そんな君を、今から独り占めできるんだから。」
「怖いよ…やめて、いやっ!」
「怯えることはないよ。今から君は僕しか見れなくなる…。」
声が近づくにつれ、夏海さんの声も高くなってくる。走るスピードを上げ、久々に全力疾走した。
「そこまでだよ!」
僕の声に、2人とも顔をこっちに向かせる。西岡さんは夏海さんの白くて細い腕を強い力で掴んでいる。夏海さんはか細い声で、助けて…と呟いた。
「手を離してください。本当に好きなら、相手が嫌がることはしないはずですよ。」
「う、うるさい!僕と夏海が何をしようと、他人には関係ないだろ⁉︎」
「関係あるんです。彼女は僕たちの依頼人です。貴方からストーカー被害を受けていると。」
「僕がストーカーだって⁉︎とんでもない!僕は彼女を見守ってただけだよ。」
「普通の人なら、四六時中見守るなんてしないんですけどね。」
夏海さんは、西岡さんが僕との会話に気を取られている隙に、西岡さんの手を振りほどいてこっちに駆け込んできた。それと同時に、他の従業員皆がここへ駆け込んできた。
「悪ぃ…遅くなっちまった。」
「よかった、間に合ったんですね!」
「夏海さん大丈夫ですか⁉︎お怪我は?」
「はぁっ…はぁっ…皆、速すぎるのです…。」
「おい、夏海!何でそっち行くんだよ⁉︎ていうか、お前ら誰だよ!」
「申し遅れました、僕たちは何でも屋“STARS”と申します。」
「な、何でも屋?」
西岡さんは僕たちのことを探るようにジロジロと眺めている。
「今回、夏海さんからストーカーを捕まえて欲しいという依頼がありまして。調査を行った結果、貴方がそのストーカーであるという結論に至りました。」
「冗談じゃないね!僕は大事な彼女に悪い虫がつかないか、見張ってただけだよ。」
あくまでも自分がやった事はストーカー行為ではないと言い張る西岡さん。これでは確保は難しい。
「僕は彼女を守るためなら僕は何だってしてきた。1ヶ月間連絡し続けた男の携帯を壊してやって、彼氏に近づかないでと脅した女には脅迫メールで脅してやったよ。」
「ストーカーに加え器物破損に脅迫罪…風上にも置けねえ野郎だな!」
「そろそろ自覚したほうがいいよ、自分のやってる事は最低だって。」
「自首すれば、まだ少し罰は軽くなるのです。」
「まだわからないんですか?貴方のせいで、どれだけ夏海さんが苦しめられたと思っているんですか!」
「僕が夏海を苦しめている?馬鹿な!そんなことないよな、夏海。」
夏海さんはツカツカと西岡さんの方に歩み寄った。僕が危ないですよ、と忠告しても、大丈夫です、と言って西岡さんにどんどん近づいて行く。念のため風也にに目で合図し、夏海さんの護衛を頼んだ。もう夏海さんはほぼ西岡さんの目の前に来ていた。すると、夏海さんがいきなり西岡さんの頬を叩いた。パシンと乾いた音が響く。
「…っ、何すんだよ!」
「貴方とは!…普通に付き合って普通にデートしてって言う関係で良かったのに、こんなことするなんて…。最低、大っ嫌い!」
「夏海…。」
夏海さんに言われた言葉がよほどショックだったのか、西岡さんはその場で膝から崩れ落ちた。夏海さんは僕たちの方へ戻ってくると、頭を下げた。
「彼の事、よろしくお願いします。ちゃんと刑期を終えて、二度とこんなことしないようになって戻ってきたら、もう1度だけ、チャンスを与えようと思います。」
「…それは本当かい?夏海。」
「ええ。だから、せいぜいまともな人間になって戻ってくることね。」
それからは、調査に行き詰まっていたことが嘘のようだった。西岡さんは稜樹が呼んだ警察官に逮捕された。夏海さんはパトカーで久しぶりに自分の家へ送られた。こうして、今回の事件は解決した。
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