第5話

それからは、夏海さんも交えて作戦会議を始めた。


「まずは調べたことを報告して。じゃ、玲音から。」

「はい。今日は、新庄舞さんの方を調べました。まず、彼女の友人から聞いた性格ですが、言いたいことはハッキリ言うタイプらしく、味方も敵も多いんだそうです。あと、好きな人と嫌いな人に対する態度が全然違うらしくて…。」


夏海さんは恐らく彼女にとって嫌いな人の分類に入れられてしまったのだろう。


「つまり、まだストーカーする動機があるってことだね。」


僕がそう聞くと、玲音は小さく首を振った。


「それが···最近、彼氏の笹野さんととても仲良く過ごしていると自慢をされるそうです。昔の女の事も、もう何も気にしてないと言っていたそうなんです。」

「それなら、新庄さんの線は消えるな。動機も無くなったし。第一、襲ったのは男だったって言ってたからな。」


僕がそれについて話そうとすると、それを悠が代弁してくれた。


「新庄舞が指示してやらせたという説もあるのです。」

「あぁそうか···。でも、動機がないから外れるだろ?」


風也が言ったことはもっともだ。となると、怪しいのは笹野さんだ。


「僕の報告はこれで終わりです。」

「わかった。じゃあ次、悠。お願い。」

「了解したのです。ボクはまず警察の方の許可を得て、2人の携帯の着信履歴を調べたのです。でも、夏海さんに連絡した形跡は無かったのです。」

「他の電話って事は無いの?ほら、公衆電話とかさ。」

「もちろんその事も視野にいれていたのです。最近は公衆電話の近くに防犯カメラが設置されているのです。しかし、その映像を見ても、2人とも何処にも映っていなかったのです。あと、笹野さんの携帯から夏海さんの連絡先は削除されていたのです。さらに言うと、他の人に指示してやらせたという事もなさそうだったのです。ボクの報告はここまでなのです。」


悠の報告のお陰で、2人とも容疑者から外れてしまった。これはまた1から考える必要がありそうだ。


「わかった。次に、風也。夏海さんを襲った人はどんな人だったとか聞いてる?夏海さんはもう思い出したくないだろうから。」

「あぁ。身長は170センチくらいで、ひょろっとした奴だったそうで、お陰で夏海さんでも振り切る事が出来たらしい。だが、厄介なことに、写真の奴とは違う野郎らしいんだ。」


写真と違う男となると、また詳しく調べなきゃいけない。更に、その特徴だけだと、容疑者を絞るのは難しい。その思いを汲み取ったのか、こう続けた。


「ただ1つ、夏海さんが言うには、ブランド物の香水をつけているそうだ。」

「ブランド物の香水?」


稜樹が聞き返すと、夏海さんが答えた。


「ええ。私の好きなブランドで、どこかで嗅いだ覚えがあるので、よく覚えています。」


少し嬉しそうに話してくれた。これで少しは絞れたかな···。


「わかりました。最後に、西岡さんについてなんですか、彼の写真とか持っていたりしませんか?協力してもらうためには、どんな人なのか確認したくて。」

「写真ですか···彼は写真に写ることを嫌うので、持ってないんです。」

「そうですか···。」

「でも、私と会うときはいつも笑顔で、優しくて紳士的な人です。」

「わかりました。ありがとうございます。」


作戦会議が一段落したところで、皆一息ついた。


「で、これからどうすんだ?振り出しに戻っちまったぞ。」

「夏海さんに関わりがある人で、襲った男に合う体型で、同じ香水を使っている人を探す。これしか方法はなくない?」

「それでうまく絞れるといいのです···。」

「確かに、難しそうですよね。」


容疑者がいなくなった事で、いつもより難航してしまったストーカーの確保。


「地道にやってくしかないね。夏海さんは、僕たちがストーカーを捕まえるまでここに泊まっていてください。」

「···ご迷惑じゃありませんか?」

「とんでもありませんよ。むしろ、いつもより会話が増えて賑やかになるので、とても楽しいです。」


その言葉に続いて、従業員全員で笑ってみせると、夏海さんにも笑顔が戻った。


「何から何まですみません。家事全般は出来るのでそれくらいはさせてください。」

「お願いします。」

「よしっ!悠!計画的に考えて、あと何日あれば捕まえられそう?」

「うーん···1週間あれば足りそうなのです。」

「オッケー!期限は1週間。それまでに確保出来るように各々動くこと。その一方で、カフェの仕事も疎かにしないこと。じゃ、今日は解散!」


皆軽く片付けをしてから、自室へと戻っていった。


「·········。」


夏海さんが少し悲しそうな顔をしてたのを知らずに···。

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