第4話

風也が出ていった1時間後、作戦会議の事もあり、早めにカフェを閉めた。けれども、風也はまだ帰ってこない。心なしか、風が強くなっているように思えた。


「風也遅いのです···。」

「きっと、大丈夫だよ!風也の事だし、どっかのヤンキーにでも絡まれてるんじゃない?」

「でもさぁ稜樹。“ちょっくらあいつらのとこ行ってくるわ”って言って出てった時、風也は大体30分程度で帰ってくるでしょ?でも、今日は1時間経っても帰ってこない。」

「しかも、風也さんは遅れるとき必ず連絡をいれてくださいます。心配ですね···。」


そんなことを話していたら、バタンといきなりドアが開いた。そこにいたのは風也と、被害者である夏海さんだった。


「夏海さん!?どうしたんですか?」

「話は後だ!とりあえず、カーテンやらシャッターやら全部閉めてくれ!それと悠!もしかしたら、夏海さんの荷物に盗聴機かなんか取り付けられてるかもしらねーから調べてくれ!」

「了解なのです!」


みんな一大事だと心得たのか、すぐに指示に従い始めた。このカフェは、元々大きな一軒家をリフォームしたものだから、シャッターを閉めて看板を外すと普通の住宅と見分けがつかない。だから、夜中にここを見つけるのはとても難しい。まさに、隠れるにはうってつけの場所なのだ。

 僕たちがドタバタと動いている間、稜樹は夏海さんを落ち着かせていた。


「大丈夫ですか?一旦落ち着きましょう。僕に合わせて深呼吸してください。」

「はぃ···すぅ···はぁ···すぅ···はぁ。」

「震えも大分止まってきましたね。お怪我などはされていませんか?

「大丈夫です···。」

「よかった。今、冷たい飲み物をお持ちしますね。」

「あ、ありがとうございます···。」


しばらくして、夏海さんにも風也にも話を聞ける状態になった。僕はなるべく言葉を選びながら、夏海さんに話を聞いた。


「落ち着かれたようなので、少しお話を聞きたいのですが、よろしいですか?話したくなければ、無理に話してくださらなくても結構です。」

「···西岡くんに送ってもらったあと、夕食の材料が足りなかったことに気がついて、人が多い道や場所なら大丈夫だろうと思って、歩いて3分程のスーパーまで買いに行ったんです。その帰り道、急に後ろから誰かに襲われて···。それで近くにいた人に助けていただいたんですが、あまりに怖くて気を失ってしまって···。目が覚めたら、助けていただいた方々に加えて櫻田さんがいらっしゃって。」

「夏海さんを助けたのがあいつらで、俺んとこにかかってきた電話は、こういうときの対処法を聞きたかったんだってよ。その後、俺たちのうちの1人が怪しい奴がいるって気付いて、そいつを撒きながらこっちのほうが近いって事でここに駆け込んだのさ。そのお陰で結構回り道しちまったけどな。」

「え、つまり···まだこの辺をうろついてるかもしれないってこと?」


僕が思わず素で言ってしまった言葉に、夏海さんは不安げな表情を見せた。


「安心するのです。今さっき、外の監視カメラと赤外線センサーをオンにしてきたのです。朝のうちに写真をデータに取り込み分析しておいたので、それらしき男が引っ掛かれば警報が鳴り響く仕掛けにしてあるのです。」

「なら、今日は安全であるここに泊まっていただくというのはいかがでしょう?」

「それいいかも!夏海さんさえ良ければですけど。」

「え!?···いいんですか?」

「ええ。今1人で自宅に戻るより、防犯装置がついていて人がいる方が安心できるでしょう。」


僕の返事に夏海さんはお願いします、と頭を下げた。


「なら、着替えは玲音のやつを貸すことでいいよね。」


玲音は5人の中で一番小柄だし、物の扱いとか丁寧だから、こういうときに人に貸しやすい。特に衣服類は、種類別に洗濯の仕方からアイロンがけまで、みっちり幼少期に教え込まれたらしい。


「晩御飯はどうするのです?夏海さんの好きなものにしようと思っているのですけど···。」

「んなもん本人に聞いた方が手っ取り早いだろ。っつー訳で夏海さん、あなたの好きな料理は?」

「子供っぽいですけど、オムライスが好きです。」

「オムライスだな、任しとけ!」

「デザートにはデコレーション用のフルーツと生クリームが余っているから、それを使ってパンケーキでも作るのです!」


そう意気込んだ風也と悠は、すぐに料理に取り組み始めた。玲音はその間に夏海さんと服を選びにいった。残った2人で夏海さんが使う部屋を掃除した。でも、いつも掃除はすべての部屋をやるようにしているから、簡単に終わった。リビングに戻る途中で、稜樹が西岡さんについて話始めた。


「そういえば、西岡さんってどんな人なんだろ?話を聞いただけで、顔も姿も見たことないよ。」

「夏海さんにまた聞いてみよっか。協力してくれる人の事は知っといた方がいいもんね。」


リビングに入ると、コンソメスープのいい香りが部屋中に漂っていた。カウンターを見ると、綺麗な形をしたオムライスが並んでいた。


「お疲れさまなのです。」

「ちょうど全員分出来上がったところだ。この辺のやつ運んでくれ。」


それからは、夏海さんが元気になるように賑やかにご飯を食べ、順にお風呂に入った。

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