第2闇 我が仲間になってやr

 それは幼き頃の夢だった。あの出来事が起きる前までは。確かに俺には世界が輝いて見えていたんだ。


 ☆★☆★


 「っ...!」


 顎が凄く痛い。転んだのか?それにしても最悪な夢を見ていた気がする。気分は絶不調だ。


 「やっと起きたわね」


 「!?...誰だ貴様!」


 「ちょっと、いきなり大声ださないでよ...びっくりするじゃない...」


 「ん、あぁ...悪い。ではなく!貴様は誰だと言って...ん?」


 視界の隅に丸焦げになったムカデが転がっているのが見える。


 「あぁ...そうか。異世界に来れたんだったな...」


 それで目の前にいるのが、助けてやったというのにいきなり右ストレートを放ってきた不届き者か。


 「ねぇなに言って、」


 「おい、ガチョウライダー。思い出したぞ。貴様俺を殴ったな?」


 「あ、あれはしょうがないじゃない!あんたが...その...私の...」


 「喋るときははっきりと喋れ!聞こえんぞ!」


 「っ!!!あんたが私の胸を揉んだからじゃない!ほんっとありえない!これだから男は...」


 「胸?まな板の間違いではないk」


 ズドンッ!!!飽人の足の間の地面が抉れる。いつの間にかガチョウライダーは銃のようなものを手にしている。


 「冗談だ、その物騒なものを仕舞えガチョウライダー...」


 声が少し震えているのは決して怖いからではない。勘違いしてもらっては困る。


 「はぁ...もういいわ。それよりもガチョウライダーって私のこと?私はそんな名前じゃないわよ。私の名前はアリス。アリス・P・イシュタリアよ」


 「アリス?その容姿でか?」


 ズドンッ!ズドンッ!今度は両脇の地面に穴が開く。


 「ん˝ん˝っ...俺の名は闇より出ずる執行者ダークマター!夜を支配し世界を支配するものだ。覚えておけ」


 「ダークマター?ずいぶんと変わった名前ね。まぁいいわ、さっきは有難う。助かったわ。それにさっきの魔法...よね?見たことがないわあんな魔法」


 後半をスルーされたのが気に食わないが、まぁいい。凡人には理解できなかったのだろう。礼を忘れていないことだけは評価してやろう。


 「ふんっ、俺の魔法をそこらの魔法と一緒にするな。次元が違うのだ」


 「ふーん...あんたって見た目に寄らず結構凄い魔法使いなのね...あなたならもしかしたら...」


 「何をごちゃごちゃ言っている。それよりも等価交換という話をしたことは覚えているか?俺はお前の命を救ってやった。見返りとしてお前は俺に何を寄越す?」


 「悪魔みたいなこと言うのね...。そうね...分かったわ。あなたの仲間になってあげてもいいわよ。特別に」


 何を言っているんだこのアリス♂は。性別詐称だけでは飽き足らず、妄言を吐き始めたぞ。


 「あんたいま物凄く失礼なこと考えてない?」


 銃口をこちらに向けるな!これだから短気なやつは...


 「ん˝ん˝っ...なにを言い出すかと思えば...その提案は俺になんの得があるというのだ」


 「えっ?えっと...クリュトがついてくるわよ!私と来れば!」


 「クリュト?」


 「さっき乗ってたじゃない」


 あのガチョウのようなやつはクリュトというのか。アリスの少し後ろで座っているのが見える。


 「いや別にいらんが」


 「なっ!結構高いのに...」


 「他にないのか?」


 「うぐっ...そ、そうよ!こんな美少女とパーティーが組めるのよ?それだけで十分得でしょ!」


 「はぁ...」


 はぁ...でたでた。少し顔立ちが整っているからと言って、こんなこと言っちゃうやつ。勘違いにもほどがある。美少女とは二次元にのみ存在するんだ。俺の嫁には足元にも及ばん。


 「なによぉ...」

 

 ちょっと涙目になっている。やりすぎたか?...いや、騙されんぞ。現実の女が本当に泣くときは嘘をつくときと...大切な人が死んだときだ。


 「分かったわよ...その...少しだけならいいわよ...」


 「何がだ?」


 「だからっ!その...えっちなこと...しても...」


 でたでたでたでた。潤んだ瞳+上目遣い+えっちなことしてもいいよセリフ。それが許されるのは二次元だけだ。現実の女がやったって...意外と悪くはな...いや!ないな!ない!


 それにしてもそこまでして俺を仲間にしたいのかこの女は。なにか訳ありか?頼られるというのは悪くない気分だが。

 まぁ正直言うと、ここがどこなのかすら分からんからな。仲間になっておくのも悪くないか。野郎よりは全然いいからな。決して下心があるからというわけではないからな。


 「はぁ...分かった。仲間になってやろう」


 その答えを聞いた瞬間、アリスの表情は明るくなる。しかし、先ほど出した条件を思い出したのだろう。瞬時に顔を赤く染めて俯く。


 「勘違いするなよ。その...えっちなことなど必要ない!俺の気まぐれだ。気が変わらんうちに早く行くぞ」


 そう言って、クリュトとやらに向かって歩く。


 「...ありがと」


 「何か言ったか?」


 「何でもない!!」


 アリスが駆け寄ってくる。


  

 3次元の女も言うほど悪くないかもしれないと思った。少しだけな?

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