第1闇 我の華麗なる魔法によっt
「ん...?」
「ふっ....」
「何百年待ったか...とうとう来たのだな、異世界に...」
実際に待った年月は、厨二病を拗らせた小学5年生の10歳から今に至る高校3年の20歳までである。2回留年しているのは、儀式という手法を取り始めたせいで学校に行かなくなったからである。
それまでは普通に学校に通っていれば、いきなり異世界召喚されたりすると考えていたので、割と真面目に通っていた。
「なんだ...実際に来てみると反応に困るものだな...」
「うーん...笑ってみるか...」
そういうと、飽人は右手でマントを払いたなびかせる。そしてその流れで顔を右手で覆うポーズをとる。
「私は
「...なんか違う気がすんだよなぁ。来たときのリアクションをちゃんと考えておけばよかったな...」
一人でいると、たまに素に戻ることがある。本人はこれをただの気まぐれと言っている。
そんなこんなで、草原のど真ん中でいろいろなポージングと共に奇声を発していると、前方から何やら土煙のようなものがこちらに近づいて来るのが見える。
「ふっ...この俺を試すイベントか何かか?何がこようとも、我が漆黒の魔法を以って全てを蹂躙しよう」
堂々たる恰好で待ち構えていると、近づいてくるものの全容が見えてくる。
ガチョウのような生き物に何者かが乗って走っている。それを後ろからムカデのようなものが追っているようだ。もちろん普通のムカデではない。トラックよりもでかいムカデである。
「きもっ!!!」
飽人は多足生物が苦手である。ダンゴムシを可愛いというやつはどうかしている。あんなおぞましい生物は神話生物の仲間に違いない。見たらSAN値が減るぞ。
それよりも、まずは目の前のムカデである。みた感じガチョウライダー(飽人命名)は追われて困っているみたいだ。凡人を助けるほど俺は優しいやつではないが、俺の力を試す丁度いい機会だ。ムカデを葬ってやろう。
何やらガチョウライダーがこちらに向かって叫んでいるようにも見えるが気のせいだろう。
「この右手に集めるは闇より滲み出る混沌。
飽人は右手を突き出して、得意の厨二病な魔法詠唱を開始する。しかし、その途中ガチョウライダーがすれ違いざまに飽人の服を掴んでガチョウに乗せる。
「何をする貴様!殺す気か!!」
「お前こそあんなところで何やってる!!逃げろと言っただろ!死にたいのか!!」
声からしてこいつ女か?いや、俺は騙されんぞ。最近は女声を出す男が増えている。ましてやこいつに胸があるようには見えん。ゴーグルとマスクで隠しているが、その下は男だ。俺のこの
「クソッ...これ一人乗りなんだよ!スピードが出ない!このままじゃ追い付かれる!お前のせいだぞ!」
「何を言うか!貴様が勝手に乗せたんだろ!首が千切れるかと思ったわ!」
「うるせー!!どうにかしろー!」
はぁ。これだから凡人は。自分勝手な意見やら思考を押し付けてくる。そもそもなぜみな従順に
「いいだろう。俺がお前を助けてやる。だがな、世の中そんなに甘くないんだよ。分かるか?等価交換だ。世の真理はそこにある。だかr」
「ごちゃごちゃ言ってないで早くしろ!もう追い付かれるぞ!」
「俺の話は最後まで聞けと悪神に習わなかったのかお前」
「早く!!!」
「はぁ...いいだろう。詠唱破棄という高等技を見せてやろう」
そういうと、飽人はムカデに右手を向ける。
「
そう飽人が唱えると、ムカデの体が一瞬のうちに黒い炎に包まれる。ムカデは炎を消そうと体を地面にこすりつけるが、効果はない。そして、不思議なことに炎は草には燃え移らずにムカデだけを燃やし続ける。
「ふっ...無駄だ。その炎は対象が燃え尽きるまでは消えん。俺に出会ったことを後悔するんだな」
格好良く決めていると、ムカデが最後の力と言わんばかりに身体を振り回す。
「なっ...!!」
その巨体が飽人達を捉え、ガチョウもろとも数メートル吹き飛ばされる。
「ぐはっ」
「がぁっ」
「ゴォー!!」
ガチョウってゴォー!!って鳴くのか...と思いながら宙を舞い、地面に叩きつけられる。
「ぶへぁっ」
ゴロゴロと転がり、やっと止まる。全身が痛む。こんなに痛い目に合ったのは、自動車を片手で止められると思い、実践した中学校2年の時以来だ。
「クソいてぇ...」
運が良かったのかどこも折れてはいないようだ。筋トレをしていた効果だろうか。体が弱くては強い魔法が繰り出せない。というのが飽人がこれまでの実験で得た持論だ。
当たりを見回してみる。ムカデはようやく力尽きたらしく、丸焦げになって倒れている。問題はガチョウライダーだ。ちょっとしくじったが、ムカデは殺った。なにか報酬をもらわなくては。
探すと、飽人よりも遠くに転がっていた。飽人よりも軽いからだろう、結構飛ばされたらしい。しかしそれにしてはよく俺を持ち上げたもんだと思った。中身はチンパンジーかもしれん。
近づいて声をかける。
「おい!...おい!」
どうやら気絶しているようだ。なんだこいつ貧弱なと思いつつ、気になったのでゴーグルとマスクを外す。
「な...!?」
その下から出てきたのは、人形かと見まがう...ほどでもないが、ほどほどに可愛い顔だった。
「女...だと...」
「いや、髪は短い。焦るな。男に決まっている」
飽人はこれまでの人生で女性と話したことは数えるほどである。しかも内容はというと『黒板けしといて』や『ゴミ捨てておいて』と言われたことぐらいだ。思い出したらムカついてきた。あいつらも燃やし尽くしてやろうか。
「そうだ、いやはや俺としたことが。胸を触れば分かるではないか。きっと男だからな、硬いはずだ」
そう言いながら、ガチョウライダーの胸に手を伸ばす。その手は微かだが震えている。
「この俺が震えている...だと...。あり得ん、断じてあり得ん...」
目を見開く。
「我が名は
そう叫ぶと、ガチョウライダーの胸があるであろう位置に手を押し付ける。
「...なんだ、やはり男ではないか」
ふぅっ、と一仕事終えたと手を放そうとする。
「...だ」
ん?どうやらガチョウライダー♂は目が覚めたようだ。
「なんだ、起きたのなら早くそう言え、さっきのムカデだg」
「私は女だ!!!!!」
飽人が喋っていると、顎に見事な右ストレートがお見舞いされる。
こいつ、また俺が喋っているのに...と思考が続いたのはここまでで、飽人は意識を手放した。
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