俺は中二病なんだが、異世界に行くことに成功したので得意の妄想で好き勝手やる

めのおび

プロローグ

 暗闇で声が響く。


 「我の高貴なる血において命ずる。我をこの忌まわしき世界より開放し、悠久の命と究極の力を与えよ」


 血が滴り落ちる。続けて声が流れる。


 「今こそ開かん!異世界への門よ!!!」


 その瞬間、地面から眩い光が放たれる。言葉に従うように重厚な門が突如と現れる。



 などということはなく。


 「うるさいよ飽人あきと!今何時だと思ってんだい!!」


 ただ聞き飽きた怒声が聞こえるだけだ。


 「また失敗か...一体何が足りないというのだ...」


 訂正しておくが、俺の名前は飽人あきとなどという凡弱な名前ではない。闇より出ずる執行者ダークマターと言う真名がある。何度言ったら分かるというのだ。


 俺は時間を見つけては、異世界へと行くための儀式を行っている。先ほどのは第665回目の儀式であった。


 「俺は諦めんぞ...俺は異世界ヴァルハラへ必ず行って見せる。こんな魔法を使うことが出来ない世界なんぞにいられるか」


 ちなみに今の時刻は深夜2時。丑三つ時という特別な時間に行えば何か起こるのではないかと第136回目以降はこの時間に行っていたが、特に儀式に変化はなかった。


 「そんな元気なら明日は学校行くんでしょうね!!」


 「俺は今インフルエンザだと言っただろう!無理だ!」


 「元気じゃないかい!」


 「心のインフルエンザだ!!」


 言っておくが引きこもりではないぞ。俺には儀式を成功させるという重要な使命があるのだ。勘違いするな。




 ☆★☆★



 今の時刻は18時頃。第1回から第68回まではこの逢魔が時と呼ばれる昼と夜のはざま。魔が歩くとされるこの時間帯に儀式を行っていた。初心に戻ってみようということで、この時間を選んだ。しかも今回は第666回目の儀式だ。悪魔の数字と言われる666。逢魔が時と相性がいいに決まっている。魔法陣もそれっぽいシンプルなものに直した。今回こそいける気がする。


 「ふぅ...今夜は満月だというじゃないか。天候も快晴。すべてが俺に味方している。いけるぞ...ふふふふははははは!!!」


 「何回言ったら分かるんだい!近所迷惑だよ!」


 今はこの怒声すら俺への応援に聞こえる。魔力が高まっていくのを感じるぞ...


 外を見ると、綺麗に夕日で照らされた赤い空と暗い夜空が分かれている様子が見える。


 「そろそろか...」


 飽人は魔法陣の中心に立つ。黒いマントを翻し右腕を前に突き出しながら、詠唱を開始する。


 「俺を異世界へと飛ばせ!最強にしてな!!!」


 そう。シンプルに。今回はシンプルにいく。


 今度こそ、地面から眩い光が放たれる。


 ようなことはなかった。


 「...なぜだ」


 諦めかけたその時、魔法陣が書いてあった床は抜け、深淵をのぞかせる。つまり穴がいきなり開いた。


 「!?!?!?!?」


 飽人は声にならない叫び声をあげながら、その穴に吸い込まれていくのであった。

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