act.44 フーダニットからの手紙
しばらくしてフィーレ姫が奥の部屋から車いすに乗って出てきた。後ろから押しているのはララだった。
グスタフとシュナイゼルがフィーレに駆け寄る。
「姫様」
「フィーレ様」
「大丈夫よ。また歩けなくなったけど問題はないわ」
気丈に振舞うフィーレにミサキが頷く。
「フィーレ姫。貴方ならその脚を武器にできる。ハンディではないわ」
「そう信じます。体の事なんて考えない。公務に生きると決心しました」
「姫……」
グスタフが目に涙をためている。フィーレの決心に心を打たれたのだろう。
その時、部屋の中に白い動物が突如出現した。
それは白い色のコウモリであった。ゾン子はひらひらと飛び回るそれに飛びついてつかもうとするのだがスルリと逃げてしまう。その逃げ方は瞬間移動を駆使しているようで、ゾン子を翻弄し遊んでいるようでもあった。
「この、何だか旨そうなのに掴めないよ。ララちゃん捕まえられる?」
ララが手を伸ばすとそのコウモリはララの手に触れて紙となった。その紙はひらひらとフィーレ姫の膝の上に落ちていった。
「残念だったなゾン子。こいつは魔法のコウモリで食べられんぞ」
「チッ!」
口惜しそうに舌打ちをするゾン子。その紙を手に取り見つめるフィーレ姫だった。
「それはそうと、これはララさん宛の手紙ですわ」
「誰から?」
「プリンセス・フーダニットからです」
フィーレから手紙を受け取るララ。その手紙を一瞥するとフィーレに手渡しその場を離れていく。
「ララさんどちらへ?」
「花摘みだ。皆に読んでやってくれ」
※※※※※※
ララ姉さまはじめまして。
わたしはこの社長戦争のJ陣営の代表であるフーダニットともうします。
何もできない私に代わって戦ってもらっていることに感謝しています。
私はカンパニーにぜんぶのものを奪われました。
親と兄は殺されました。
家来たちも殺されました。
家も焼かれました。
カンパニーを壊してみんな殺してしまいたいと思っていました。
ついさっき、ララお姉さまの戦いの記録を見せてもらいました。
ララお姉さまは本当に強くて格好いいです。
でも、私は不思議でした。
ララお姉さまは相手を殺さずに勝つんです。
殺してしまいたいカンパニーの手先なのに、殺さないんです。
そして、負かした人たちを味方にしているのです。
私は側近の一人に聞きました。どうして殺さないのかと。
側近はいいました。
ララ姫は大変強く優しい方だからだと。人の上に立つ者は強くて優しい人でなくてはいけないと言っていました。そして、強いだけではダメで優しいだけでもダメだとも言っていました。
私にはわかりません。どうしたら強くて優しい人になれるのでしょうか。
ララお姉さま。どうか私を導いてください。
いつまでもわたしの心の道しるべになってください。
フーダニットはお姉さまのように生きていこうと思います。
いつまでもいつまでも、お姉さまのことを信じて頑張っていきます。
お姉さま、どうかお怪我をされませんように。
お姉さまに光の神様のご加護がありますように。
※※※※※※
「以上です。しっかりとした文章ですわ。ところでララさんは?」
「恥ずかしかったのでは?」
フィーレの問いにミサキが答える。
「ララさんらしいですね。ところで今後はどうされるのでしょうか?」
「今夜はここにお泊りになられてはいかがでしょうか?」
「そうですね。そういたしましょう」
「お部屋はいくつか用意できます。ここは安全ですからご安心してください」
皆が頷く。そこへソフィアがワゴンに積んだ食事を運んできた。
「お食事の用意はできております。皆さまお召し上がりください」
テーブルにオードブルを並べるソフィア。目を輝かせて獲物を狙っているのはゾン子一人だった。
原子炉区画での夜は更けていく。
一行は明朝ここを離れる。
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