act.38 vs五千合体ツブツブオー(前篇)
実体化したのは86式多脚戦車が十五両。一行は目前に迫っていたスラップスティックに気を取られていた為、完全に虚をつかれた格好だった。一番先に被害に遭ったのが不死身なゾンビであるゾン子であったことは幸いだった。
「幸いぢゃねえよ。ゴルアアアア」
即復活したゾン子が多脚戦車の脚を掴んで投げ飛ばす。それに向かってグスタフが赤い魔力の光球を放つ。見事な連携だった。
上空からアカンサス・シンのビーム砲が多脚戦車を貫く。付近で姿を隠していたアカンサス・クロウは実体化し、光剣で多脚戦車を切り裂いていった。
旭の放つ炎の竜が戦車を焼き尽くし、ララが稲妻を帯びた蹴りで一両破壊した時には正面に一両だけが残っていた。
「ぴよよ!!」
ヒナ子の嘴より発射されたビーム砲は、正面にいた最後の86式の頭を貫通してその遥か後方に積みあがっていたスクラップに命中し、大爆発が起き火災が発生した。
「片付きましたか?」
旭の問いにララは手を出して制止する。
頭部を失った86式最後の一両は痙攣しながらも起き上がった。しかも痙攣は続いている。
「いや、まだだ。こいつだけは特別仕様のようだな」
その86式は二本の腕を四本の脚、そして長い尻尾をパージして浮き上がる。そのボディは光を帯び、次第に輝きは強くなっていく。
ララはその光景に見入っていた。
「ララさん。あれは何かおかしい。叩くなら今のうちです」
「いや、事の推移を見守る」
正面にあるスクラップの山から大型のトレーラーと小型のレーシングバギー、そしてRV車が二台と4ドアセダンが二台走ってきた。光り輝く86式のボディは
大型トレーラーの運転席の上に浮遊したまま制止し、その光はさらに強くなっていく。
「こ、これは……合体するぞ」
「ララさんそれなら合体する前に叩かないと」
「構わん。合体させろ。こんな名シーンにお目にかかれるとは思わなかった」
ララは両手を握り締め、両目を好奇心の光で輝かせていた。
その期待に応えるように大型トレーラーが光に包まれて細かいパーツに分解されていく。そして、周囲に控えていたRV車とセダン、バギーも細かいパーツに分解されていく。その分解されたパーツは86式のボディを中心として巨大な人型に組みあがっていく。
「合体はいいのですが、こんなに時間がかかっていては出来上がる前ににやられちゃいますよね」
「いや構わん。合体こそが正義なのだ」
「ぴよ!」
全身を震わせて興奮しているララにつられたのかヒナ子もブルブル震えて興奮していた。
そのロボットは次第に姿をはっきりとさせていき、全長23m程度の巨大な人型として完成されたようだ。
そこへそのロボットからノリの良いBGM流れ始め自前のアナウンスが開始された。
『五千の魂一つに束ね、灯すは異世界新たな光、勇者合体ツブツブオー、ここに見参!』
自動で流れる自己紹介にララは体を震わせて感激していた。
「合体終了マデ待ッテイタダイテ感謝スル」
「私はララ・アルマ・バーンスタインだ。プリンセス・フーダニットの代理として参戦している。いざ勝負せん!」
「ワタシハソリティア陣営ノ代理、五千体合体ツブツブオーダ。イザ尋常にショウブ!」
「デュエル承認されました。プリンセス・フーダニット陣営の代理、ララ・アルマ・バーンスタイン様とソリティア・ウィード陣営の代理、五千体合体ツブツブオー様のデュエルを開始します。5……4……3……2……1……開始です」
その顔は白く表情がある。頭部にはV字型のアンテナがついて、肩当や膝当ての付いているスタイルは正統派勇者系合体ロボそのものであった。
「こんなの相手にしたら私が悪役みたいだな」
「正義ハソレゾレノ心ノナカニアルモノデス」
「そうだな。はあああ」
ララはジャンプしてツブツブオーの顔面に痛烈なパンチをお見舞いする。果たしてその顔面は……見事に崩壊した。しかし、バラバラになったパーツはすぐさま元通りに組みあがっていく。
「サスガデス。データ通リノ強サデス」
痛みにゆがんだ表情をしながらララの健闘を称えるツブツブオー。巨大な拳をララに向かって振り下ろして来た。ララはその拳を前に出てかわし、右脚に回し蹴りを加える。ツブツブオーの右脚は見事に崩壊し、その巨体は地面に倒れてしまった。その衝撃でさらにツブツブオーはバラバラに分解してしまう。しかし、その中心部である86式のボディが浮き上がり、それを中心として再び巨大ロボットが組みあがった。
「コノ程度ハ何ナントモアリマセン。ツブツブガン発射!」
ツブツブオーの右人差し指から何か弾体が発射された。初速が遅く、常人の眼にもその軌道が読めるほどであった。ネジや歯車、プラグやらの小さい部品による射撃だったがララに命中するはずもない。
ララは再びツブツブオーに回し蹴りをかました。今度はツブツブオーの左脚が砕けてしまいツブツブオーは仰向けに倒れ、その衝撃で再び分解してしまうツブツブオーだった。
その部品の山から再び浮き上がって来る86式のボディ。
それを狙っていたのだろう。ララは全身に雷をまとい、ツブツブオーの中心である86式のボディに体当りをする。それは雷に包まれながらすっ飛んでいき爆発してしまった。
「終わりましたか」
「まだ終了のアナウンスが無い。アレにはベルが無かったんだ」
旭の問いにララが答える。それが合図になったのか、遠方で積みあがっていたスクラップが動き始めた。自動車やオートバイ。各種アンドロイドや工事用車両。ブルドーザーやショベルカー等の重機に冷蔵庫や洗濯機といった家電製品ラジカセやノートパソコンといった小型のものまでがララ達一行に向かって押し寄せて来た。
「マズイ。全力後退だ」
ララの一声で一行は即座に後退を始める。
スクラップの津波はツブツブオーの部品を飲みこんで巨大な山となっていた。
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