act.37 再戦☆vs86式多脚戦車(海賊版)

 ララ達は早めの夕食を済ませ、ソリティア陣営の本拠地である工業地帯へ向かおうとしていた。先ほどまで東側と南東側で爆発や火災が発生し、ソリティア陣営、ビンイン陣営の双方が何者かによって襲撃されているようだった。さあ出発しようという時になってグスタフが泣き言を言い始めた。

「ララさん。この鋼鉄人形ですけど……フレームが歪んでいるのかまともに動かせないです。それに異音が凄まじい。今にも分解しそうです」

「グスタフ。鋼鉄人形は気合いだ。気合で何とかしろ」

「そんな~無理言わないでくださいよ」

 頭部が破壊されたランディスの前ではシュナイゼルが腕組みをしていた。

「これをどうするか。このまま放置していくには忍びないが……しかし、私がここについているわけにもいかない」

 そこへ巨大な光球が出現しその中から黒猫の乗るアカンサス・シンが実体化した。

「あら、コウ少尉。私がいるから貴方は不要ですよ」

「そんな連れない事言わないでくださいよ。あれ。色が変わってるね。ミハル姉さん」

「ララ様のご所望でNinjaカラーになりました」

「忍者カラーってライムグリーンなの? 黒っぽいイメージなんだけど」

「余計な突っ込みはしない。ララ様がご所望されたカラーだからこれでいいの」

「まあ、俺には関係ないけどな」

「おい、黒猫。お前はNinjaのNinjaたる所以を知らんな。正統派のカワサキ原理主義者はライムグリーンと決まっておるのだ」

「忍者とカワサキ原理主義ってどうつながってるのさ」

「馬鹿もん。口答えをするな。お前の機体もライムグリーンにしてやろうか?」

「今、整備の連中は鋼鉄人形の修理で天手古舞てんてこまいですよ。これの色塗りなんて命令したらブチ切れますよ」

「じゃあ貴様にはこのキャップをやろう。私が愛用しているNinjaキャップ(紺色)だ。喜べ」

「姫様。ありがとうございます。って喜んでる場合じゃないですよ。混乱している今が潜入のチャンスですからね」

「わかっている。だがな。グスタフがごねておるのだ。鋼鉄人形が動かせんとな」

「あ。まさか、ララ様、そのインスパイアを全力で動かしたんですか? それ、フレームがガタガタになってませんか? 多分修理不能ですよ」

「うるさい。そこの白いのと一緒に回収してもらう。マユ姉様、聞こえてますか?」

『ええ聞こえているわ』

「このインスパイアとそこの白いのを回収してもらえますか?」

『いいわよ。ネーゼ姉様に連絡しておくわね』

「お願いします」

 程なく黒いインスパイアと白いランディスは光に包まれて消えた。

 アカンサス・シンの黒猫とヴィオレット・ツァオバラーのフィーレ姫ははるか上空から哨戒している。アカンサス・クロウは光学障壁を展開し姿が見えなくなった。

 ララ達はソリティア陣営の本拠地であろう工業地帯へ向かって歩き始めた。ララが先頭でその脇にシュナイゼルが歩いている。その後方にソフィアと旭とヒナ子が歩く。最後方がグスタフとゾン子である。

「なあシュナイゼル。フィーレ姫の、その、本当の体のある場所は知っているのか」

「はい、ララ様。これから向かう工業地帯の地下に原子炉があるのですが、その原子炉施設内になります。安全性という面ではこの上ないものであると思います」

「地上で少々ドンパチやっても平気って事か?」

「そうですね。ただ、問題なのはその入り口のセキュリティが異常に高いのです。ソリティア陣営の幹部でないと入ることができません」

「お前は幹部ではないのか」

「はい。残念ながら。フィーレ姫も同様です」

「ならばどうするのだ」

「実は秘密の入り口があるのです。私は、万一の時の為に侵入出来る入り口を探しておりました。発見したのですが、その場所が厄介なのです」

「どういう事だ」

「そこは『ガラクタ置き場』スラップスティックと呼ばれる場所を通る必要があります。そこは様々なスクラップが山積みになっており、その中の有用なものを求めてならず者が集まってきているのです。さらにその中の機械やサイボーグが自律稼働していて、それが人を襲うのです。ソリティア陣営としてはそのよく分からない自律稼働する機械達を敵にぶつけようとしていたようなのですが、上手くコントロールできずにいます」

「数は多いのか?」

「200~300いると思います。とにかく多い」

「動くスクラップか。厄介だな」

「ええ。そうですね」

 一方、一行の後方ではグスタフとゾン子が何やらひそひそとと話をしている。

「ねえ、ゴスタル君。あのハンサム様の好きなタイプって知ってる? あの姫様かな?」

「僕はグスタフです。シュナイゼル様は女性に興味はないと言っておられました。妻をめとる事はないと」

「さっきフィーレ姫一筋って言ってたじゃない」

「あれは姫を主君として仰いでいる事であって、恋愛や結婚とは関係ないと思います。それに、姫様はまだ10歳ですから恋愛対象ではありませんよ。やっちゃったら法的にヤバイらしいです。師匠がそういってました」

「えへへ。そうなんだ。私なら大丈夫だよね。ね」

「えーっと。見た目よりお年なんですか?」

「乙女に歳を聞く奴はゾンビに蹴られて死んじゃうんだよ。知ってた?」

「いえ。知りませんよもう。そのゾンビって何ですか?」

「知らないの?」

「師匠なら知ってると思うんですが、師匠は僕にはまだ早いって教えてくれないことが多いんですよ」

「ええ。それじゃあ俺っちが色々教えちゃおうかな?」

「何だか怖いですよ」

「怖くないって。気持ちいい事するだけだからさ。ちょっとそこの物陰で遊ぼうよ」

「物陰って、ここには何も??」


 確かにそこには物陰的なものがあった。しかし、それは大型のロボットであり、サソリ型の多脚戦車であった。


「ゾン子さん。それ危ないです」


パパパ


 そのサソリの両腕から発射されたチェーンガンに、ゾン子は撃ち抜かれていた。胸から鮮血をまき散らし倒れるゾン子。そしてその多脚戦車は更に数両が実体化し一行を取り囲んでいた。






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