act.36 ゼクローザスvsバリオン☆番外戦闘+ヴァイスリッター・アイン
銀色のバリオンが剣で打ち込んでくる。ハーゲンはそれを受け止めずかわすのだがそこに回し蹴りを入れてくるバリオン。ハーゲンは盾でかろうじて受け止める。最初の打ち込みがフェイントだった。
「お兄さんやるね。次行くよ」
次々と剣で打ち込んでくるバリオン。その剣撃は変幻自在でハーゲンも防戦一方だ。そして、時折加えてくる蹴りと盾での打撃が良いアクセントとなっている。ゼクローザスは防御しきれず何発かはボディーに打撃を受けた。
「くっ。これは……」
「まだまだ行くよ。参ったとは言わせないからね」
バリオンは左手に持っていた盾を投棄し光剣を抜いた。二刀流となったバリオンの攻撃はさらにバリエーションを増していた。ゼクローザスの持つ鉄壁を誇る盾にも切り込みを入れられ、ボディーに何本も切り傷を受ける。
「そこだ!」
実剣による打ち込みを交わしたゼクローザスに光剣が突き刺さる……と思いきやゼクローザスの姿は消えバリオンの背後に回り込んでいた。
「まさか、テレポート!?」
「残念だったな」
盾を構えたゼクローザスの体当りを受け吹き飛ばされるバリオン。その衝撃で玲香は一瞬気を失ってしまった。
「そこまでよ。ハーゲン。剣を収めなさい」
「はいネーゼ様」
「え? 止めを刺す絶好のタイミングなのにどうして?」
「コウ少尉。彼女の剣には殺気が無かった。本気なら恐らく斬られていただろうな」
「え? マジですか?」
「何謙遜してるのよ。フェイント後の本気の打ち込みを何回かわしてると思ってるの? しかもテレポートなんて奥の手を使うなんて信じられない。この化け物操縦士」
「化け物はよしてくれ」
「一対一で仕留められなかったなんて初体験だよ。ボクの初めてを奪った責任取ってくれるかな?」
「意味が分からん。ネーゼ様、この女性は?」
「彼女は遠山玲香さん。工場地帯で彷徨ってたから助けてあげたの。そしてソリティア陣営のかく乱をお願いしたら快く引き受けてくれたわ」
「そういう事。強い奴と戦わせてくれるってのが条件だったんだ」
「玲香さん。満足していただけましたか?」
「もう大満足。お腹いっぱいだよ」
「そうか、ララ様の間接的なサポートをしたわけですね」
「そう、ララさんはソリティア陣営に入り込みたかったの。これで随分入りやすくなったのではないかしら。ああ、それからコウ少尉」
「はい」
「アカンサス・シンの修理が完了しています。思ったよりダメージは少なかったわ。貴方はミハル中尉と共にララさんのサポートをお願いしますね」
「了解です」
黒いネクサスを降りた黒猫は薄いグレー系の迷彩が施されたアカンサス・シンに乗り込む。
「ではコウ少尉。ララさんの元へ送ります」
アカンサス・シンが頷くとその機体は光に包まれ消えてしまった。
「私達はここを撤収します。ハーゲン少尉、玲香さん、残りの鋼鉄人形をケイオンに積み込んで下さい」
「了解」
「分かりました」
地中から浮上したケイオン。その舷側のハッチが開いていく。そこに鋼鉄人形を積み込むハーゲンと玲香だった。エリダーナはAIが起動し自力で歩行しケイオン艦内へと入っていく。艦内に入りきらなかったハーゲンと玲香はケイオンの甲板上にしゃがむ。そのままケイオンは地中へと潜航していった。
ケイオンの向かった先は須王龍野達のいるヴァレンティア王国の拠点であった。しかし、そこは謎のロボット軍団に包囲され、正に戦闘中であった。
龍野と武蔵が奮戦しているのだが数的に劣勢。自動人形パンゼも果敢に立ち向かっていたが敢え無く破壊されていた。
「ハーゲン少尉と玲香さんはすぐに出撃して。私もリナリアで出ます」
「了解」
「分かりました」
ネーゼも朱に輝くリナリアで大地に降り立つ。
まずはケイオンの高出力ビーム砲が発射され、巨大な火球が包囲網の一角を包む。それをきっかけにハーゲンのゼクローザスと玲香のバリオンが切り込んでいく。
突然の敵襲に混乱する謎のロボット軍団だが、龍野達はそれに乗じて攻勢を強めていく。
「帝国の援護か。助かった……」
「さあ反撃するぜ」
安堵したのは武蔵。龍野は更に闘志を増したようだ。シュバルツリッターは上空に飛翔し、その大剣を振りかざしてビームを連射していく。
防御を考えない龍野の攻撃力はすさまじく、包囲していたロボット軍団のほとんどを一気に破壊してしまった。
逃亡を図った2機をハーゲンと玲香が仕留めたことで、敵は全滅した。
一軒家はヴァイスとシュシュの障壁に守られ無傷であったが周囲は破壊され広く火災が発生していた。ヴァイスの駆るヴァイスリッター・アインは空中へ飛翔しその美しい氷の剣を振る。その剣から発生する煌めく氷の結晶が、しかも大量の結晶が火災に降り積もっていき鎮火していく。
周囲を舞う煌めく氷の結晶。
ハーゲンと玲香はその美しい舞をしばし眺めていた。
「ネーゼ様。ご助力ありがとうございます。完全に奇襲された格好になりました」
「皆様がご無事で何よりです。この屋敷の防御は私とハーゲンにお任せください。ヴァレンティア王国の皆様はご自身の任務を全うしてください」
「ありがとうございます。ネーゼ様。龍野君と武蔵さんは補給と休息を」
「分かったぜ。ハーゲン少尉。しばらくここを頼んだ」
「ああ」
「あの黒騎士も強いね。魔術?は凄いけど、ボクはララちゃんに興味が出てきたよ。素手でロボットと戦うんでしょ。ネーゼさん。ボク、ララちゃんの所へ行っていいかな」
「良いわよ。補給は?」
「要らないわ。じゃあ自前で飛んでいくからね。さっきの黒猫さんのいるところで間違いないよね。じゃあ」
ブースターを吹かしてバリオンは北方に飛んで行った。アカンサス・シンの機体情報を把握しているようだった。
「今のは見かけない奴だな」
「未来から来た凄腕パイロットだ」
「へえー。ハーゲン少尉にそう言わせるなんてな。なかなかの猛者ってことだな」
「ああ」
口笛を吹いて龍野と武蔵は屋敷に入っていく。屋敷の周囲では複数の鋼鉄人形が並べられ、修理の順番を待っていた。
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