番外編 帝都リゲルの風景

 俺の名は驚次郎おどろきじろう。変な名前だあ? ほっとけ。職業は作家だ。地球人だが特別に許可を貰ってここに来ている。

 俺がいるのアルマ帝国の帝都リゲルだ。異星からここに入るには色々と手続きが面倒なのだ。まず宮内庁に届けを出し紹介状を書いてもらう。その後、外務省で特殊なビザを発行してもらう必要がある。何で外務省なのかって? アルマ帝国の大使館や領事館なんて地球の何処にもないだろう。日本の皇室とアルマ帝国の皇室は古くから付き合いがあるらしいから、宮内庁にお願いするのが一番。そして具体的な手続きは外務省が行うのだ。

 

 さて、入国するには宇宙船に乗る必要がある。アルマ星間連合という星間組織があり、そこの旅客船の搭乗を申し込むのだが、席が取れるのは一年に数名程だと言う。地球はそのアルマ星間連合には加入していないのだ。基本料金はそう高くはないのだが、地球からその旅客船までの往復に別便の手配が必要になる。今回はストライク運送店という個人業者が請け負ってくれた。

 さて、帝都の南100㎞の地点に国際宇宙空港がある。宇宙船の中、空港の中は近代的というよりは超未来的であった。しかし、此処から帝都へ入るにはかなりの抵抗感があった。電子機器、携帯電話やパソコンを全て預けてからでないと入国できないのだ。着る服、靴なども全て脱がされ着替えさせられた。ヨーロッパあたりの中世から近世といった感じの衣装であろうか。時計さえ所持できない旧態然とした世界。そこは電気は無く電車も走っていない都市。これがアルマ星間連合の中心地だとは信じられなかった。


 都市を知るにはまず食事から。

 俺は帝都リゲルの繁華街をウロウロしてみた。殆ど石畳の敷かれた路面はごつごつと硬い印象だ。また、建物の多くは石で積み上げられていた。行きかう人は地球の人とそう変わらない印象だった。白人がいて東洋系、中東系、黒人系、様々な肌色の人が笑顔で行きかっている。その中に数は少ないものの、獣人と呼ばれる人も闊歩している。体形は人間と変わらないのだが、全身が毛皮で覆われていると思われる。まあ衣類を身に着けているからその下は想像なのだが外れてはいないと思う。尻尾のある人が多い。猿人、犬系、猫系、羊や鹿、兎等の哺乳類系の人多く見かけた。中には昆虫系や魚類系、爬虫類系の人もいるらしいのだがここリゲルでは少数派なのだという。

 食品や衣類、装飾品などを扱っている露店が道の両側に所せましと店を広げている。中東あたりのバザーを思わせる風景で、食品は地球で見るものと大差はない印象だった。他の惑星でも生態系は何となく似通ってしまうものなのか、それとも、造物主たる神が共通とでもいうのだろうか。野菜や果物、穀物類など違和感のない物ばかりが並べてあった。

 そんな中、ひときわ目を引く光景に引きつけられる。それは空中に生きた魚を展示販売している店があったからだ。ここリゲルでは内陸の為海産物は干物が多いと勝手に思っていたのだが、生の魚を販売する店があった。しかも生きている魚が数匹ほど、空中の生けすの中を泳いでいるのだ。その店はリゲルにおいても大人気なようで、早朝に開店しても昼までには商品を売りつくしてしまうのだという。

 俺は露店でホットドッグとコーヒーを買い、それをかじりながら大通りに出る。主な交通手段は馬か鳥だった。馬は地球にいる馬と大差がないようだったが、鳥というのはダチョウをもっと大きくしたような体型の大型の飛べない鳥だった。ここではコックと呼んでいる。それらに鞍を付けて乗るか、馬車を引かせるのだ。

 しかし、大通りの中央では路面電車のような物が走っていた。芋虫のような形の車両が三両ほど連結さてれており、帝都の人々にとって重要な足となっているのだという。

 時折、自動車を見かけるも、それは地球の内燃機関とは別の原理で動くもののようだ。スタイルは地球での黎明期における自動車に似ている。馬車や鳥車と仲良くゆっくりと走っている姿は微笑ましい。

 その時、上空を巨大なクジラのような物体が通り過ぎていく。それはゆっくりと中央の城、皇城の中心上空で停止した。

 皇室用の飛行船なのだという。ここアルマ帝国では法術という魔法のような力を持つ人が多いらしい。その法術を使って動く乗り物が何通りかあり、先ほど見た自動車や路面電車、飛行船や海洋の船舶などがあるという。また、戦闘用のロボットも法術で動く代物らしい。

 おっといけない。こんな所でぼやぼやしているわけにはいかない。今日は皇城でイベントがあると聞いていた。そこへ取材に行く段取りだったのだ。

 芋虫の路面電車(電車じゃないのだろうけど)に乗って皇城へと向かう。横の通用門から事前に交付してもらっていた許可証を見せ、内へ入ることができた。正面の正門前は一般の見物客でごった返している。

 広場に向かい、取材用の席へとたどり着いた。今日のイベントは新しい親衛隊長の任命式と、新造された鋼鉄人形のお披露目だという。

 皇城に設けられたバルコニーから姿を現す少女。金髪で幼いその少女が新しい親衛隊長なのだという。肩で切りそろえた金髪と青い目はヨーロッパの貴族を思わせる。しかし見た目は小学4年生の女児だ。

 現皇帝が祝辞を述べ、その女児が抱負を述べると万雷の拍手が沸き上がる。

 この女児の名はララ・アルマ・バーンスタイン。第四皇女であり帝国内では圧倒的な人気を誇るアイドル的存在なのだという。そして、次に登場してきたのは銀髪で銀色の瞳のふくよかな女性であった。彼女はネーゼ・アルマ・ウェーバー。彼女が次期皇帝なのだという。ここ帝国では女性が上に立つことが多いのだろうか。彼女もまた万雷の拍手の拍手で迎えられた。

 そして広場の中央に光球が現れ、それは巨大化していく。次第に人の形となり12m位の大型ロボットが実体化した。細身のボディーは朱と白に塗分けられ、両肩に帝国と皇室の紋章が描かれている。これがアルマ帝国の誇る法術で動く戦闘用ロボット、鋼鉄人形だ。そしてこの朱色のモデルは現在帝国にある鋼鉄人形の中でも最強の力を誇るリナリアだという。次期皇帝ネーゼの専用機であった。

 その美しい威容に帝都の人々は酔いしれ、また称賛を惜しまなかった。


 俺はメモを取るのも忘れ、その光景に魅入っていた。そして、皇室である支配者に対する人々の絶対的な信頼と称賛を目の当たりにした。事あるごとに為政者を批判し馬鹿にする自分の国のマスコミはこの光景をどう判断するのだろうか。そして、そんな敬意を持たぬマスコミなど、この国では全く見向きもされないのだろうと実感した。


※このエピソードは全くの番外編です。ララちゃんの故郷がどんなものか、庶民目線でさささっと説明しているだけ。宇宙軍の装備は地球の技術レベルをはるかに超えているので、宇宙空港や宇宙軍の基地、その他の限定した区域においてはそういうオーバーテクノロジーが使用されています。ララちゃんが地球の娯楽に憧れたり、普通のおやつに目を輝かせる理由はこんな所にあるのですね。

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