act.35 契約解除と奪還作戦
ここはケイオン艦内の医務室である。
人間の女性リオネと狐型獣人の女性ビアンカが眠っている。
それを見つめるネーゼとマユ。マユは二人の頭の側、ネーゼは脚の側に立っている。
「マユさん。上手く行きそうですか」
「ええ」
マユが手をかざすとそこから白い光が広がっていく。その白い光はリオネとビアンカを包みこむ。しばらくするとリオネとビアンカの皮膚の表面に赤黒い血が浮き出てきた。その血は二人の心臓の上に集まっていき、小さな赤黒い蛙に姿を変えた。マユはその蛙をひょいと手でつまんでガラス瓶の中へと入れる。ガラス瓶の中では赤黒い蛙が二匹ぴょんぴょんと跳ねている。
「これで二人は解放されました」
「良かったわ。もう大丈夫ね」
「ええ」
ネーゼとマユは見つめあって微笑んでいる。
「これはどういう魔法だったの?」
「ビンイン・ジ・エンペラーにかけられた血の契約。その力は強大で契約を無効化する事は出来なかった。二人の魂のほんの一部と少しの血を使って契約者に仕立てたの」
「今はその蛙が契約者なのね」
「そう。契約者乙です」
「その蛙は生きている。つまり、契約者甲から見れば契約はそのまま継続しているように見えるのね」
「そうです。血の盟主が操るのはこの小さな蛙。気が付いても、もう何もできません」
「うふふ。その蛙、私が頂いても良いかしら」
「ええどうぞ。でも姉様、これどうなさるおつもりですか」
「こうするのよ」
ネーゼはガラス瓶を手のひらに乗せる。瓶は淡く光り中の蛙は消えてしまった。「あ? 姉様、それ何処に飛ばされたのですか?」
「あの骸骨の口の中よ。帝国に楯突いた輩には酷いんだから」
「ざまあみやがれですわね」
「うふふ。そうね」
二人は手を取り微笑んでいた。
そのころハーゲンと黒猫は例の駐屯地へと入り込んでいた。鋼鉄人形には乗らず生身での潜入である。ハーゲンは顔の色を落とし、黒猫は白黒まだらにペイントしている。
「にらみ合っているだけで戦闘が行われた形跡はありませんね」
「そうだな。では手はず通り」
「武装している鋼鉄人形を奪ってその他の機体を撃破する」
「そうだ」
ハーゲンと黒猫はグレーの砂漠迷彩が施されたゼクローザスとインスパイアに乗り込み抜刀した。周囲は途端に混乱する。ハーゲンは異世界の12m級ロボットを両断し、黒猫は肩に装備してあるロケット弾で施設を破壊する。帝国の鋼鉄人形と宇宙軍のエリダーナが次々と光に包まれて消えて行く。無人の機体のみネーゼがテレポートで回収しているのだ。
インスパイア一機とブルーネクサス一機が挑んできたが、ハーゲンと黒猫にコクピットを貫かれて沈黙する。その二機も光に包まれて消失した。
「回収は済んだようだな。俺達も逃げるぞ」
「了解」
ハーゲンと黒猫は搭載火器を射撃しながら駐屯地から離れていく。いきなり味方に奇襲された格好の現場は大いに混乱し、鋼鉄人形を奪還され、また、他のロボットは破壊されてその戦力のほとんどを失った。
駐屯地から東南に15㎞ほどの場所へ回収された鋼鉄人形が置かれていた。ここで内部を簡易的に検査して自爆装置などの危険物が無いか確認後、南部のヴァレンティア王国の有する拠点へと再送する手はずとなっていた。
「コウ少尉。誰もついてきていないな」
「ええ。後方には誰もいません」
「上にはボクがいるよ」
突如光学障壁を解除して分厚い装甲のロボットが着地してきた。銀色の装甲に朱色のマーキングが映える。
「ボクは
北の方角では火災が発生していた。恐らくビンイン陣営と対峙していたソリティア陣営の駐屯地だろう。
「あそこの火災は?」
「え? ボクだよ。みんな弱かったんだよね。あっという間に全滅さ。お兄さん、ボクとやってみるかい」
銀色のバリオンは実剣を抜き構えた。
ハーゲンの乗るゼクローザスも実剣を抜く。
今、番外の戦いが始まろうとしていた。
※鋼鉄人形に搭載されている霊力蓄積型反応炉は貴重である為、なるべく回収するようになっている。逆に言えば、この反応炉さえ残れば機体の再建は容易である。
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