act.34 vsシュナイゼル・ヘルト☆精神移植とフィーレ姫

 そこにはララの搭乗した黒色のインスパイアとシュナイゼル・ヘルトの搭乗した白騎士が対峙していた。白色に黄金のレリーフが刻まれた荘厳な機体に巨大な盾を構えている。

「シュナイゼル・ヘルト。貴様のベルを破壊した時点で戦闘終了とする。何もかも洗いざらい話せ。いいな」

「分かりました。ベルはこのランディスの後頭部の奥、脳幹の部分にあります。私が負けた場合は全てを貴方に委ねましょう。貴方のベルは何処でしょうか」

「ベルはペンダントとして首から下げている。このインスパイアの両目を潰した時点で貴様の勝ちとする。ベルはその時に渡す。これでいいな」

「構いません。ところで、フィーレ姫は私に従ってくれるのでしょうか」

「フィーレ姫。どうする?」

「分かりました。この戦いの勝者に全てを委ねましょう」

「承知しました。決して貴方様にとって不利となる事は致しません。ベルグリーズの神に誓ってこの約束は守ります」

「よく言った」

 ララの乗ったインスパイアが抜刀する。その刀身は黄金に輝いていた。

「シュナイゼル。貴様は抜かんのか」

「貴方の攻撃全てを防御して見せましょう。さあどうぞ」

「後で泣くなよ」

 黒いインスパイアは一気に距離を詰め、白騎士の巨大な盾へと回し蹴りを放つ。大盾はびくともしなかったが、白騎士の巨体は数メートル後退した。

「なっ、何という膂力だ。結界ごと我を押し下げたというのか」

「まだまだこれからだ」

 インスパイアはその大盾に横蹴りを放つ。その衝撃を受け止めきれず、白騎士は尻餅をついてしまった。

「ふん。大層丈夫な盾だが、貴様自身が耐えられるかな」

 ララは盾を捨て実剣を両手持ちに替えてその大盾に切り込む。黄金色に輝く実剣はその大盾に2m程食い込んだ。

「さすがに硬いな。しかし、斬れるぞ」

「まさか。この大盾に切り込みを入れるとは信じられない」

 地上での防御を不利と感じたのか、白騎士は飛翔しそして黄金の光球を放つ。インスパイアはその光球を真っ二つに切り裂きジャンプした。そして上段から剣撃を加えるのだが白騎士はそれを大盾で防ぐ。しかし、その大盾はまたも2m程の切り込みを入れられる。白騎士はさらに高度を取りインスパイアから離れていく。

「馬鹿な。この私の防御結界を無視してこの大盾を切るなどあり得ない。どんな魔術を使っているのだ」

「確かに結界は効いているぞ。その大盾が少ししか切れていないからな。結界が無ければチーズみたいに切ってやる」

「信じられない。まさか無効化を使うのか」

「そんな事はどうでもいいから降りて来い。こっちは飛べん」

「まさか、その黄金の剣は神々をも砕くという……」

「くどくどうるさい」

 ララは実剣を白騎士に向かって投擲した。その剣は黄金の閃光となって白騎士の大盾に突き刺さった。

「剣を離した。ここがチャンスか」

 白騎士はその両肩より魔力を込めた黄金色の光弾を数発放ち、一気に距離を詰めてきた。光弾はインスパイアの周囲で炸裂し眩い光を放つ。そして白騎士は剣を抜きインスパイアに斬りかかって来た。しかし、剣を振り下ろす前に、その右腕を掴まれていた。その刹那、インスパイアのローキックが白騎士の左ひざを砕いていた。

「早すぎる……」

 片足でバランスを崩した白騎士はそのまま仰向けに倒れる。剣を持っていた右肘を踏みつけられ肘から先が千切れてしまう。すぐに馬乗りになったインスパイアの右拳はそのまま白騎士の顔面を叩き潰していた。


「只今、ソリティア・ウィード陣営の代理、シュナイゼル・ヘルト様のベルが破壊された事を確認しました。繰り返します。ソリティア・ウィード陣営の代理、シュナイゼル・ヘルト様のベルが破壊された事を確認しました。デュエルの勝者はプリンセス・フーダニット陣営の代理、ララ・アルマ・バーンスタイン様です。デュエルの勝者はララ・アルマ・バーンスタイン様です」


「わ、私は負けたのか。未だに信じられない。正面からこのランディスの防御を打ち破るとは……」

「さっさと降りろ。そして洗いざらい話せ」

「分かった。ララ姫に従おう」

 白騎士の胸が開き中からシュナイゼル・ヘルトが這い出して来る。

 ウェーブのかかった金髪をなびかせた逞しい男であった。

「あれはイケメンっていうよりハンサムだよね。長髪のス〇パー〇ンって感じ?」

「はい。シュナイゼル様は女性に大層人気なのですが、あのように堅物でフィーレ姫一筋なのです」

「あーこれはララちゃんにくっついて正解だったよ。じゅる」

「ところであなたのお名前は?」

「俺っちはゾン子。よろしくな」

「僕はグスタフです」

「あ、悪い悪い。ショタに興味ないんだ。えへ。白人のハンサム。えへへ」

「あのーショタって?」

「ハンサム♡(♡∀♡)。✧♡」

「全然聞いてない」


「ミハルは周囲の警戒を。フィーレ姫は下りてきてください。ソフィアはお茶の用意」

「了解」

「分かりました」

「ココアにしますね」


 それぞれが返事をして行動を始めた。皆がシュナイゼルの周りに集まり、彼の話が始まった。


「皆さんは私の行動が変だと思っているでしょう。フィーレ姫の護衛役であるのにフィーレ姫の側にいない事を」

「ああ、そうだな。先ほども言ったが、そこにいるフィーレ姫が偽物であるかのような行動をしている」

「確かに、そこにいらっしゃるフィーレ姫は偽物です。いえ、心は本物ですが肉体は偽物なのです」

「それはどういう事だ?」

「精神移植という未来の技術を使っているのです。そして、本物のフィーレ姫、つまり本物の肉体は囚われているのです」


 シュナイゼルの爆弾発言に周囲は凍り付いてしまった。

 未来において開発された精神移植という技術がある。これは精神つまり人の魂を別の器、義体に移す技術の事だった。これを戦争に応用することで、優秀な兵士を死なせることなく何度でも使用できるというのだ。義体が破壊されてもその魂は肉体に戻る。そして新しい義体に精神移植をして戦わせる。これを何度でも繰り返すのだと言う。

「それでは、私は心は本物で肉体は偽物。そして本物の肉体は囚われているのですね」

「ええ、肉体を人質に取られています。そうすることで、絶対に裏切らない兵士を作る事を目的としています。姫様はお体に障害がある事を逆手に取られました。歩けるようにする事だと偽り、精神移植によってソリティア陣営の兵士とさせられているのです」

「つまり、私がソリティア陣営を裏切ってしまうと、私の肉体の方が殺されてしまうという事でしょうか?」

「その可能性が高いと思います。私は姫様がこの3日間ソリティア陣営から離れなければ元の体に戻すとの確約を得ています。そう言った理由があり、姫様が陣営から離れる事を妨害していたのです」

「なるほど。それで全て辻褄が会いますね」

 旭の言葉に皆が頷く。

 甘くしたココアをズルズル飲みながらララが右手をゴキゴキと鳴らした。

「その拠点。早く制圧しないとフィーレ姫が危ないな」

「すぐに行動しないと」

 グスタフも同意する。


「ハンサム♡(♡∀♡)。✧♡」


 両目がハートマークになっているゾン子だけが上の空であった。


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