act.39 vs五千合体ツブツブオー(後編)

 スクラップの津波はツブツブオーの部品の上で止まり、そこに大きな山ができた。その山は段々と盛り上がっていき、人型のロボットへと姿を変えていく。先程までのツブツブオーとはまるで違う巨大でいびつな姿をしていた。


 その巨大な威容は異常であった。

 身長は100mを超えるだろう。自重を支える事さえ不可能だと思われるその巨体だが、しかし人の形を保ち咆哮する。


「グゴオオオオオン」


 機械の騒音としか思えないその大音響にララ達は凍り付いてしまった。


「あー。これはちょっと大きすぎるな。さすがに私の手に余るぞ」

「どうするのですか」

「どうするかな」

「暢気ですね」

「まあな。こういった事態のばあいはなるようにしかならん。焦ったら自滅する」

「なるほど」

 ララと旭の会話は暢気であった。

 そこへまた一両の86式多脚戦車が接近してきた。その車両は他と違って黄金色に輝くボディーを有していた。その黄金色の多脚戦車はゆっくりと浮上し、巨大化したツブツブオーの胸の中に吸い込まれていく。ツブツブオーの姿はもう一度再構成され、白を基調とした赤と青のカラーリングに変化していく。歪な集合体から正統派勇者ロボットへと変身してしまった。そしてその右手には50m以上はあろうかという大剣が握られている。

「ツブツブオーよ。まだ戦うのか」

「私の名はツブツブオーではない。ウィリアム・クルックス。Dr.ウィリアム・クルックスだ」

「ではDr.クルックス。あなたはソリティア陣営の代理としてこの私と戦うのか。私はプリンセス・フーダニット陣営の代理、ララ・アルマ・バーンスタインだ」

「わからない。わからないのだ。私はなぜここにいる。私は様々な雑多なパーツを組み合わせて勇者ロボットを作る研究をしていたのだ。その研究はほぼ完成していた。その名も『五千の魂一つに束ね、灯すは異世界新たな光、勇者合体ツブツブオー』だ。私が、もしかして私が、ツブツブオーのコアとなっているのか?」

「状況から考えてそうなっているようだな。現状は把握しているか?」

「わからない。陣営とか戦うとかの話は何なのだ?」

「仕方がないな。一から説明してやるからよく聞いておけ」

 

 ララがこの社長戦争について一から説明を始める。それはDr.クルックスにとって初めて聞くような話ばかりであった。ツブツブオーはララの一言に一言に頷いていた。


「確かに、私はカンパニーの一員であったが合体ロボットの研究に打ち込んでいたのでこの現状については把握していなかったのだ。このような非道が行われていようとは夢にも思わなかった。ララ姫、あなたの言うことが本当ならば私たちはここで戦うべきではない」

「ならばどうする。一旦この戦いを終了するためにはベルを破壊しなくてはいけないぞ」

「ベル……そのような小さいものがこの体のどこかに隠れているというのか。ではこうしよう。私が今から合体を解く。そうすればこの体は分解し、スクラップの山となるだろう。そこを焼き払え」

「了解した」

 

 ツブツブオーの胸から黄金の多脚戦車が出てくると、その姿は元のスクラップのような歪な集合体へと変わっていき、そして体型を維持できなくなったのか次第に崩れていく。そして50m程度のスラップの山へとなった。


「全員で一斉に攻撃してくれ」

 アカンサス・クロウとアカンサス・シンのビーム砲、ヴィオレット・ツァオバラーの魔力の光球、ヒナ子のビーム砲、旭の太陽がその山へと放たれた。グスタフとシュナイゼルも魔力を放出している。

 スクラップの山は爆発し業火に包まれる。濛々と黒煙を吐き出しつつ燃え上がっていく。その時戦闘終了を告げるアナウンスが流れた。

「只今、ソリティア・ウィード陣営の代理、五千体合体ツブツブオー様のベルが破壊された事を確認しました。デュエルの勝者はプリンセス・フーダニット陣営代理のララ・アルマ・バーンスタイン様です。繰り返します。勝者はプリンセス・フーダニット陣営代理のララ・アルマ・バーンスタイン様です」


「俺っちは燃やすの苦手だからやらない」

「私もだ」


 胸を血に染めているゾン子がぼそりと言う。それにララも同意した。


 目の前では元ツブツブオーの残骸が燃え盛っている。この大きな焚火が燃え尽きるまでにはしばらくかかりそうだった。

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