act.32 葬儀と屍神の涙

「フーちゃん。やっぱり別れるのは辛いよ」


 両手で涙をぬぐっているのはゾン子だった。今まさに死体へと帰ったプリンス・フークリッドを火葬にしようとしている所であった。ポーズを決めたまま炭化していたカリスマことマイクジャクソンの遺骨も回収した。


 大量の炭と熾火を敷いた上にプリンスの遺体を乗せる。旭の手から眩い火球が放たれプリンスの遺体は燃え上がる。下に敷いていた炭も真っ赤に燃え始めた。

 燃え上がる遺体。その前で泣き崩れる屍神。

「辛いのか」

「うん」

 ララの問いかけに頷くゾン子だった。

(こいつも結局は愛が深いんだろうな。だから死んでも死なせない。現世は不条理なものだ)

 ララの足元にうずくまり涙を流すゾン子。周りの者たちはその姿を黙って見つめていた。

 遺体が燃え尽きるのに一時間少々かかった。幸いなことにこの火葬を邪魔するものは誰もいなかった。まだ熱い遺骨を箸を使って拾い集める。その場にいた全員が拾う。兵器用のコンテナしかなかったが、それでもないよりはましだった。ゾン子の涙はまだ流れていた。


 その時、空中に巨大な光球が現れ、黒色の鋼鉄人形が実体化した。グスタフの乗るインスパイアであった。


「あのー。何があったんでしょうか? 僕、何か不味い事しましたか?」

 頭を掻きながら鋼鉄人形から降りてくるグスタフだったが、彼には冷たい視線が集中する。

「今、遺骨を拾い集めていた最中です。粛々とした雰囲気が台無しですわ。もっと静かにしてください。ヽ(`Д´)ノプンプン」

「気が付きませんでした。ごめんなさい。"(-""-)"」

「そうだグスタフ。その辺に大穴を掘れ」

「どの位の?」

「おーきな穴だ」

 ララの指示に従いグスタフはインスパイアに乗る。盾をシャベル代わりに使って地面に穴を掘っていく。

「おお、グスタフよ。いい仕事をするな。その調子だ」

「まだ掘るんですか」

「まだだ。頑張れ」

「はいわかりました」

 グスタフは恐らく汗だくで鋼鉄人形を操作しているのだろう。初めて操る鋼鉄人形をこんな形で操作するとは思っても見なかったのだろうが、新兵の訓練課程には必ずある鋼鉄人形での穴掘りであった。

「ああ、懐かしいですね。あれ、私もやらされました」

「新人いびりにはちょうどいいかもな」

「まあ、あれは鋼鉄人形のバランスと全身の動かし方を学ぶのに最適なんですよ」

 直径20m、深さが5m程の穴を掘り終えたころにララがストップをかける。

「もういいだろう。この穴に遺骨を入れろ」

「遺骨って」

「その辺にある黒焦げのヤツだ。100名以上の遺骨があるはずだ。木の燃えカスを分別している時間は無い。全て放り込め」

「えーっと……わかりました」

 観念したのか盾をブルドーザーの様に使って炭化した木や遺骨等をその大穴に落としていく。

「終わったら掘った時に出た土を使って埋めていけ。余った土は盛って山にしろ」

「はい。わかりました」

 黙々と作業するグスタフだったが、程なく高さが5m程の小山が完成した。

「これでいいですか」

「ああ上出来だ。突貫作業だったが仕方なかろう。邪魔する奴がいなくて幸いだったな」

「ええそうですね」

「皆集まれ。グスタフも降りて来い」

「はい」


 ララが最前で跪く。そして両手を合わせ拝礼する。

「名もなき異国の魂たちよ。そなたたちに永遠の安らぎが訪れんことを」

 皆もその言葉に合わせて拝礼をする。

「直れ。簡素だがこれで葬儀を済ませる。プリンス・フークリッドとマイクジャクソンは遺骨をプリンセス・フーダニットに引き渡す。葬儀は彼女に任せる。以上だ」


『ララさん。接近する移動体があります。上空にバートラス4機。自衛隊のF4EJファントムが4機。アカンサス重装型とアカンサス近接格闘型。それに自動人形パンゼが十二体。自衛隊の74ななよん式戦車が十両ですね』

「目標は?」

『ララさんですよ。ソリティア陣営が潰しに来ましたね』

「分かりました。フィーレ姫は戦闘機を墜としてください。ミハル中尉はアカンサスを撃破。戦車とパンゼは私がまとめて面倒を見る。グスタフは皆の護衛。旭さんとゾン子は取りこぼした奴を撃破。以上だ。かかれ!」

 フィーレ姫は素早くヴィオレット・ツァオバラーに乗り込み空中へと飛翔する。ミハルはライムグリーンのアカンサス・クロウに乗り込みビーム砲を構える。上空に飛行機雲が8本接近してきている。東側には砂ぼこりが舞い上がっていた。

 黒い猫耳をソフィアに預け紺色のNinjaキャップを被ったララがにやりと笑う。


「喧嘩を売る相手を間違えたな。馬鹿め」


 ララはその一言を残し東へと消えていった。

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