act.31 帝国とヴァレンティアの接触
一軒家とは言うものの、豪勢な貴族の館といった風である。その周囲には二機のロボットが警備兵の様に立ち威圧していた。
黒騎士ことシュバルツリッターと漆黒である。
「ハーゲン少尉殿。なかなか立派な屋敷ですね。それにあんなロボットが警備してるなんて贅沢極まりないですよ」
「そうだな。帝国では鋼鉄人形を置いてる家などないからな。侯爵家位だろうな」
「ですよね。戦時とは言え不釣り合いな印象ですけども」
「この屋敷が基地としての機能を有しているのだからそれでいいのだろう」
「ああそうか。城塞じゃないからかそう感じるのか」
雑談を交わしているのはハーゲンと黒猫である。ケイオンの甲板上で魔術師の屋敷を眺めている。この屋敷でアルマ帝国とヴァレンティア王国のほとんど首脳会議が行われているのだ。
「こちらの要求は鋼鉄人形を一次預かってもらう事とアズラの修理だろう。あの機体は帝国軍の整備士も頭をひねっていたからな」
「法術(魔術)の運用概念が違うって言ってましたね。それはそうと、あのグスタフとかいう子供がミハル姉さんと互角にやりあってたとか信じられませんよ」
「確かに。あの子供もララ様と同様の天才なのだろうな」
「ねえ。何話してるの?」
「あ? いや。お前さんが天才だって話だ」
不意に現れたグスタフに黒猫が答える。
「天才だなんて違いますよ。ミハルさんには結局遊ばれてたし、僕の師匠を負かしたララさんの足元にも及びません」
「ララ様は別格だからな。しかし、俺が小さかったころでもミハル姉さんとは戦えなかった。俺達と比べればお前さんは天才なんだよ」
顔を赤くして照れるグスタフ。そこへケイオンの乗務員が呼びに来た。
「ハーゲン少尉とコウ少尉。鋼鉄人形でアズラを運んでください。修理依頼を受けていただけるようです。グスタフ君よかったな」
「はい」
満面の笑みで返事をするグスタフだった。
ハーゲンとコウ、そしてグスタフまで鋼鉄人形にのって作業をする。行動不能となったアズラとゼクローザス三機を屋敷の周囲へと移動させる。これから明朝までにこれらの機体を修理するのだという。
黒いインスパイアに搭乗したグスタフは、その鋼鉄人形を気に入ったようだ。
「僕もこれで戦って良いですか?」
「いいですよ」
「ネーゼ様。異国の少年にそのような……」
「ハーゲン。大丈夫です。彼はすでに立派な戦士ですわ」
「ありがとうございます。できれば、ララさんと合流したいと思います」
「ララさんが気になるの? それとも」
「フィーレ姫の事が気になります。彼女は脚が不自由で歩くことができなかった。しかし、先ほどは地面を走り回っていたのです。何かがおかしいんです」
「分かったわ。それでは今からララさんたちの所へ送って差し上げます」
「ありがとうございます」
「ララさんにも連絡しておいてあげるから心配しないで」
グスタフの乗った黒いインスパイアは眩い光に包まれ、その光と共に消失した。テレポートでララ達の所で転送されたのだ。
「これから鋼鉄人形奪還作戦を実施します。吸血鬼が活発になる日没までに作戦を終了させます。ハーゲン少尉はリナリア、コウ少尉はネクサスに搭乗してください」
「了解」
ハーゲンとコウは敬礼し、それぞれの鋼鉄人形に乗り込む。
そこへヴァイスとシュシュ、龍野、武蔵がやって来る。
「ネーゼ殿下。作戦のお手伝いはしなくてよろしいのですか」
「御心配には及びませんヴァイスシルト殿下。ありていに言えば盗んで逃げるだけですから。むしろ少数の方が良いと思います」
「そうかもしれませんね。ところでこの黒いロボットは……」
「連合宇宙軍の正式装備です。対人用自動人形パンゼと申します。周囲の警戒及び屋敷の警備にご利用ください」
全高は約2.5m位ある黒い装甲をもつロボットが三体配置してある。赤く光る三つ目はグリーンに変化し点滅する。挨拶でもしているのだろうか。また赤く光り始め散開していった。
「作戦終了後はまたお越しくださいね」
「ええ。お邪魔させていただきます」
ハーゲンと黒猫が駆る鋼鉄人形がケイオン艦内に収納される。
ネーゼも手を振りながら艦内に消えて行った。
ケイオン左舷の扉が閉まり再び地中へと潜航していく。その直線的な黒い艦体は程なく地中へと姿を消した。
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