act.30 魔術師の拠点

 ハーゲンと黒猫はケイオン艦内にいた。暴れ始めたリオネとビアンカを必死に抑えている。

「血、血を飲ませろ」

「うがああああ。血を寄こせ」

「少尉殿。これ、物凄い力ですよ。吸血鬼化ってこんなに力が増すんですね」

「そうなんだろうな。こんな経験は初めてだ」

「帝国じゃお目にかかれませんからね」

「お二人を医務室へお連れ下さい。こちらです」

 ケイオンの医療士官が案内する。一人を三人がかりで抑え込み医務室の拘束台に固定する。しかし、二人は暴れ続け収まる気配が無い。

「今すぐ解放しろ。ビンイン・ジ・エンペラー様の元へ帰せ」

「私達に酷いことをすると主様が黙っておられないぞ。さあこの戒めから解き放て」

「これ。血を飲ませた方が良いんじゃないですかね。それで落ち着くなら」

 二人の惨状をみかねた黒猫が進言するも医療士官は首を横に振る。

「マユ様が来られるまでは拘束しておけとの指示です。勝手な治療は控えてください」

「でもこんなに苦しんでいる」

「ハーゲン少尉」

 ハーゲンが医療士官に睨まれる。

「私もこの惨状には憂慮しています。同僚の苦しんでいる姿を見ているのは辛い。しかし、我々の持つ医療技術では彼女たちは救えない……」

 さらに暴れる二人を見つめうなだれる医療士官だった。


 そこへネーゼとマユが入って来る。

 ネーゼが手をかざすとビアンカとリオネは白い光に包まれて静かになり眠ってしまった。

 今度はマユが二人の額に手を当てて目を瞑る。

「マユさん。どうですか?」

「血の契約について少々確認する必要がありますね。恐らく解除は可能です。この二人はしばらく眠らせておいてください。私は一旦戻ります。姉様お願いします」

「分かったわ」

 ネーゼの手のひらが眩く輝き、その光に包まれるマユ。その姿は光と共に消えてしまった。

「マユ様はどちらへ?」

「元に戻しました。ララさんのサポートですよ」

 きょとんとしている黒猫にネーゼが説明する。

「ララさんは強い子なのですが、暴走しないように見張り役が必要なのです。マユさんの言う事なら素直に従いますからね」

「あ、そういう事ですか。納得しました」

「そろそろ目的地に着いたようですね。外へ出ましょうか」


 地中を潜航しつつ須王龍野達の拠点へと到着した特殊艦ケイオン。その拠点とは、古い洋館といった風の立派な建物であった。そこの庭先へと地中から浮上する。ちょうど庭先にいた龍野と武蔵が仰天していた。

「なんじゃこりゃ~!! いきなり地面の下から湧いて出たぞ」

「これが帝国の特殊艦か……なんて運用の仕方だ。信じられない」

 屋敷の中からヴァイスとシュシュが正装のドレスをまとい玄関から出てきた。「龍野君、武蔵さん、落ち着いて。情報にあったでしょ。地中に潜行する特殊艦ケイオンの事」

「聞いていたが実際目の当たりにすると驚くぜ」

「ああ、そうだな」

「うわー凄いよこれ」

「アルマ帝国の皆様。歓迎いたしますわ。さあどうぞ。中へお入りください」

 4人揃って恭しく礼をする。


 ケイオン側面のハッチが開く。外へ出てきたのはネーゼとケイオン艦長のエリザ・ローレンツ中佐であった。

 


※こちらの物語では吸血鬼化されたのはビアンカとリオネだけです。フェオを含む整備士三名は吸血鬼化されていません。



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