act.28 ゾン子と胸比べ

 燃え盛る林の炎はすぐに鎮静化した。魔術でもたらされた炎が高温過ぎた為、木も死体も炭化するのが早かったようだ。

 火災の跡は熾火おきびとなり、赤く燻っていた。

「あんた誰?」

 不意に後ろから声をかけられるララ。

 池の中にずぶ濡れの髪とずぶ濡れのワンピースを着ている青白い顔の少女がいた。

 額にはコインを押し付けた様な跡がくっきりと残っている。

「私はララ。貴方、その跡は何? おでこすごい事になっている」

「俺っちはゾン子。あ。やべえよ」

 ゾン子と名乗ったずぶ濡れの少女は額に手を当てた後、水中に潜って何やらガサガサと底を漁り始める。

 何か失くして困っている風だったので、ララも潜って一緒に探す。どうせ額にくっきりと残ったコイン状の跡をつけたもの、大きいコインだろう。

 程なくララが粘着力の無くなった粘着テープとそれに張り付いていたであろうコインを見つけた。

「探し物はコレ?」

「ありがとな!!」

 ゾン子はララの手からそのコインと粘着テープを受け取り額に貼り付けようとしているのだが勿論くっつきはしない。

「うーん。これくっつかないよ」

「そんなものでくっつくわけないだろ。とりあえず池から上がろう。ソフィア!」

「はい姫様」

「ゾン子の持ってるコインを首からぶら下げるもの、何かないかな?」

「かしこまりました。これはいかがでしょうか?」

 ソフィアが取り出したのは小さい巾着袋だった。

「これにこの紐を通して……、ほら、いい感じにできました」

「これ、貰って良いの?」

「いい。大事なものを失くすなよ」

 ゾン子は手に持っていたコインを巾着袋に入れて首から掛ける。

「可愛いかな?」

「ああ、その巾着は可愛いぞ」

「うわー! 女の子から可愛いって言われちゃった!!」

「ずぶ濡れなのはまずいだろ。着替え持ってないのか?」

「俺っちはこのワンピースしか持ってないんだ」

「じゃあ服を貸してやる。一緒に着替えようか」

「でへ。着替えるよ」

 いきなり青いワンピースを脱いですっぽんぽんになるゾン子だったが、ララの胸元をみて何やらニヤニヤしている。

「へへへへ。俺っちの方が胸大きい」

「77のAだろ。それなら上にいるフィーレ姫と同じくらいだな」

「へっ。ならこうだ!! んんんんんんん」

 穏やかに膨らんでいる胸を掴んで唸るゾン子。

 何と、胸が少し膨らんでいるではないか。

「これで80のBになっただろ。へへへーん」

「触ってもいい?」

「いいぞ。ほらほら」

「えい」

「こら。乳首つつくんじゃねえよ」

「じゃあ揉むよ。うにうに」

「あああああーん。くすぐったい。このぺったんこの胸に触らせろ」

「いやだー。こそばゆいじゃないか。ああ、もうダメ。触るな」

「触りまくって感じちゃった方が大きくなるんだよ。さっき俺っちがみせたじゃん」

 そう言ってぺったんこなララの胸をぎゅっと揉むゾン子であったが……。

「何馬鹿な事やってるんですか? いい加減に体拭いて着替えないと風邪ひきますよ」

 そう言ってゾン子の頭と体をごしごし拭き始めたのはミハルだった。ララの体はソフィアが拭いている。

「全く。お子様ですわね。素っ裸でじゃれ合って」

 フィーネ姫も下に降りてきて茶々を入れる。

「お、77Aのお嬢さん来たね。私の勝ちだ」

「そんな事で勝ち負けを競うなんて馬鹿げてますわ」

「最下位はララちゃん。胸のサイズ70あるかな? まだブラは必要ないよね」

「関係ないだろう」

 そっぽを向きあからさまにムッとしているララだった。

「あら。何を競っているかと思えば胸の事でしたか。では私が一番ですね。ゾン子さん」

 そう言ってゾン子の顔を胸に挟むミハルだった。

「くっ。苦しいです。ごめんなさい。もうしません。小さい子からかいません。ごめんなさい」

「はい。服着ましょね。戦闘服しかないけどこれで我慢してね」

 笑いながらゾン子に服を着せるミハルだった。

 ついでにフィーレ姫も戦闘服に着替え、少女三人でポーズを取る。

「はい。チーズ」

 記念撮影も済ませた。

 離れていた旭とヒナ子も戻って来た。


 突然、池の中から人が這い出てきた。人ではあったが肌は青かった。

 素っ裸で四つん這いだった。首には犬等に付ける紐、リードが巻かれてあったが首輪はつけていない。リードを引っ張ると首が絞まるように結んであった。


 男性で顔立ちは整っているのだが、その表情には精気が無い。そして何故か頭部に猫耳を付けている。元々が青い肌であったようだが、今はその顔は黒ずんでいた。


 ララがここに来てから既に10分は経過している。

 その間に池に入った人物などいなかった。

 つまり、10分以上池に素潜りしていたのだ。

 いつものララであれば忍術がどうとか言ってはしゃぐところだが、その異様な風体に絶句していた。


「あー。フーちゃんごめんねぇ~。忘れてた。潜水ごっこしてたんだった」


 その男に謝罪しながらタオルで体を拭くゾン子。

「猫耳も返してもらうよ」

 その男の頭に付けてあった猫耳をつまんで自分の頭に装着するゾン子。その時彼女は、林と共に燃え尽き炭化していた死体の群れに気が付いた。


「あれ。燃やしたの誰? 俺っちのフレンズなんだけど」


 ララは気が付いた。池から上がってきた男は死体だと。そして、屍の王は先ほどのカリスマではなく目の前にいるゾン子であったと。


「燃やしたのは私だ。ところでその男は誰だ。何という名だ」

「まさか。あのカリスマまで燃やした?」

「死人は冥界へと送るべきだ。貴様はその摂理に反している」

「勝手にフレンズ燃やしたから俺っち怒るよ」

「死人を操る貴様の罪は重い。そこの男共々冥界へ送り届けてやる」


 ララが目配せをすると、皆がそこから離れていく。


「私はララ・アルマ・バーンスタインだ。プリンセス・フーダニットの代理として参戦している。デュエルだ」

「んー? デュエルってなんだっけ。戦う?」


「デュエル承認されました。プリンセス・フーダニット陣営の代理、ララ・アルマ・バーンスタイン様とモナリザ・アライ陣営の代理、ゾン子様のデュエルを開始します。5……4……3……2……1……開始です」


「げ、この雰囲気は覚えてる。これ、カンパニーの戦闘実験? ララちゃんカンパニーの刺客?」


 どこまでも話がかみ合わない二人だった。

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