二日目の戦闘(後編)
act.27 出会ってはいけないもの……デッドマンズダンス
ララ達一行は軽食を済ませ、北東部の工業地帯を目指していた。王城周囲の難民キャンプコモンを迂回し、また、北西部の森林地帯には近づかず荒地を進んでいく。
ララはヒナ子の背に乗りその傍らを旭とソフィアが歩いている。
その1000m後方を歩くライムグリーンのアカンサス。そのはるか上空を哨戒しているヴィオレット・ツァオバラー。時折、蛇やトカゲ、ネズミ等を見つけたソフィアや旭は餌としてヒナ子に与えている。ヒナ子は好き嫌いをせず何でもよく食べた。大型の芋虫や小型の蛇が好みのようだったのだが、アルゴルのような大型のミミズは見つからなかった。
視力の良いララが北方向にちょっとした林を見つけた。
「林があるし、湖沼もあるみたいだ。人影が見えるな。何か餌になるものがあるかもしれないから行ってみよう。進路変更だ」
ソフィアと旭に目配せし北へ進路変更する一行であった。
その時、マユから通信が入る。
『ララさん注意です。前方の林に動体は確認していますが生命反応はありません』
「ロボットですか?」
『金属反応はありませんが、ロボットか死体かと』
「死体は動かないでしょう」
『死体をロボットの様に動かす黒魔術があると聞いたことがあります』
「ゾンビってやつですかね。映画で見たことがある」
『ここからは確認できません』
「代理の反応は?」
『一つ確認できています』
「ではそのまま行きます。ミハル! ナパーム弾か焼夷弾は用意しているか」
「いえ、現在の装備は徹甲弾です。火炎放射器も装備しておりません」
「フィーレ姫。あの林を焼き尽くすことはできますか?」
「はい。必要とあれば瞬時に焼却できます」
「ではそのまま待機願います。私の合図で燃やしてください」
「分かりました」
「ララさん。炎でしたら僕が得意ですよ」
「存じておりますが、ゾンビらしき相手に生身で接近する事は危険です。ヒナ子と一緒にここで待機願います」
「ぴよ?」
「ああ、いざとなったらお前さんのアレで焼き尽くしてくれ」
「ぴよよ!!」
ララはヒナ子に頬ずりをするとその背から飛び降り走り出した。
前方の林の中の人影は何やら踊り狂っているようだった。
一糸乱れぬスリラーダンス。
木々の間を出ては消え、消えては出てくる。
その林へ近づけば死臭が漂ってくる。
踊っている面々は一般市民といった服装であったが、手が欠損していたり目玉が飛び出したりしている。正に死体が踊っている異様な風景。北方にある『血と毒の沼』ジェノサイド・ラインにはゾンビがいると資料に書いてあったのだが、ここからはかなり距離がある。
踊り狂っているゾンビの中にただ一人リーダー格と思しき人物が見えた。
このゾンビ軍団の統率者。踊る死体のカリスマ的存在。その動きとリズム感は群を抜いてキレがある。正に踊るゾンビのキングであった。
ララは生来、活動的な性質だった。乗馬や武術は大好きであったが舞踊はあまり好きではなかった。
それは静的な舞踊が多く、ララにとっては退屈であったからだ。宗教的な制約の多いアルマ帝国では、激しい情熱的な舞踊はほとんど見られない。
ゾンビ軍団のその激しい踊りを間近で見たララの心は高揚していた。ゾンビ達は攻撃してくる素振りも見せず、ひたすら踊り狂っている。ララもそれにつられてステップを踏み始めていた。そしていつの間にかその輪の中に入り、一緒に踊り始めていた。
ララは格闘の素質が高かった。しかし、舞踊の素質があったとは思っていなかった。ゾンビのカリスマとララの息はぴったりで、今日初めて一緒に踊ったとは思えないものだった。ゾンビのカリスマと手を取り踊る。何時しかララとそのカリスマは社交ダンスを踊っていた。手を取り抱き合い華麗なステップを刻む。ララの身長が足りない分はカリスマが補ってくれていた。周囲のゾンビ連中もいつの間にかペアを組んで社社交ダンスを踊り始めていた。
そう。このゾンビの王、カリスマこそがこのゾンビ軍団を操っている張本人だと判明した。ララは林の脇にある池を確認するとインカムでマユに連絡した。
「マユ姉様。この中に生きている人間はいないのですね」
『ええ、いません』
「それではフィーレ姫に連絡してください。10秒後に全力射撃を。この林を焼き尽くしてください」
『了解しました』
ララはカリスマから離れて池に向かって走り始める。その池に飛び込んだ瞬間に紫色の巨大な光弾がその林に落ちてきた。
紫色の閃光が弾け周囲に業火が振り撒かれる。
木々は一斉に燃え上がり、踊っていた死体たちも一斉に燃え上がった。あのカリスマも燃えていた。
炎のダンスで踊り狂う。
ララの飛び込んだ池は水深が1mほどであった。
ララは水面から首を出しその様子を眺めていた。
踊り狂う炎の人形を眺めながらララはつぶやく。
「貴方は最後までカリスマだった。ありがとう」
ララは深く頭を下げた。
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