act.23 どうしてこうなった? 旭vsフィーレ・ラント・ベルグリーズ
「はっ! こんな痴話喧嘩みたいな事をしている場合じゃありません。私はソリティア・ウィード様の為に戦うと誓ったのです。そう、そこにいるイケメンっぽい人。貴方は代理ですね。私と戦いなさい」
「僕ですか?」
「ええ、貴方です。乙女の痛みをちっとも理解していない
仁王立ちになって
「フィーレ様、それはいきなりすぎるのでは?」
「みっともなく負けてしまったあなたは黙っていなさい。それと、リラ師匠の一番弟子は私ですからね。勝手に名乗らないように。今度一番弟子を詐称したらお仕置きなんだから」
グスタフの忠告にも耳を貸さずにまくしたてるフィーレ。
ララは大あくびをしながら手を振り、ブーツを脱いで近所を流れている小川に入って何やら探し始めた。
「ララ様? 何かお探しですか?」
「いや、小魚でも取ってヒナ子の餌にしようかと思ったんだが、メダカ位のヤツしかいないな」
ミハルの問いに答えるララだった。
「そこのひよこさんの餌ですね。蛇やトカゲは食べるのでは?」
そう言って軍服の袖から小型のナイフを取り出し、フィーレの足元に投げる。
「何よエロ女! 危ないじゃないの。そんなものが刺さったら大怪我するわ!!」
「あら。想い人様との語り合いを邪魔してごめんなさいね」
そう言って投げたナイフを回収するミハル。ナイフは体長2m近い蛇の頭に刺さっていた。
「これは毒蛇ね。頭を切り落としてっと。ほーらヒナ子ちゃん」
躊躇なく蛇を掴み、まだ動く蛇をヒナ子の方に投げると、ヒナ子は上手にそれを丸呑みした。
その傍らではお湯を沸かしてティータイムの準備をしているソフィアがいた。
「暴れて埃を立てないでくださいね。お茶が不味くなりますよ」
フィーレは顔を真っ赤にして怒り狂っている。
「毒蛇を退治してくれたのには感謝しますけど!! 何よ、このピクニックみたいな雰囲気は!! 私はそこのイケメンっぽい人とデュエルするんです。邪魔しないでください」
「はい。誰も邪魔はしていませんよ。暴れて埃を立てないでとお願いしているだけです」
「もう話が通じないわ! そこのイケメンっぽい唐変木さん。私と戦うのが嫌なのですか?」
「嫌ではありません。いえ、この場合の嫌ではないはそのまま嫌ではないと言う意味であって、好きだという事ではありません」
「そんな事を一々言わなくてもいいの。戦うの?」
「戦いましょう。僕も皆さんの熱い戦いを見せられ疼いていたところです。モナリザ・アライの代理、
「私はソリティア・ウィード陣営のフィーレ・ラント・ベルグリーズです。いざ勝負!」
「デュエル承認されました。モナリザ・アライ陣営の代理、日向旭様とソリティア・ウィード陣営の代理、フィーレ・ラント・ベルグリーズ様のデュエルを開始します。5……4……3……2……1……開始です」
「始まってしまいましたね」
「ああ、始まったな」
ララとミハルが会話をしている。
「しかし、旭様の事をイケメンっぽい唐変木と称するところがひねくれてますね」
「そうだな。グスタフが脈無しかもしれないという落胆を咄嗟にぶつけたのだろうな」
「子供っぽいですね」
「ぽいというよりはそのまんま子供だろ。まだ10歳らしいからな。グスタフといい子供を招へいする陣営の気が知れん」
「そうですね。おや、姫はロボットに乗らずに戦うようですね」
「アレはグスタフのアズラより強そうなんだがな」
「どうしてそう思われるのですか」
「アズラは接近戦特化タイプだが搭乗者が接近戦の場数を踏んでいなかった。つまり、実力を出し切っていないんだ。対してあのヴィオレット・ツァオバラーは結界を駆使する魔力照射型だろうな。フィーレ姫は魔術で戦うのが得意なのではないかな」
「その姫がなぜ地上での決闘を選んだのか?」
「それはあの脚にあると思います」
二人の会話に割って入ってきたのはグスタフだった。
「姫は右脚が不自由なのです。通常は魔力を使って移動するのですが、ご自身の脚は使えません。車いすが必要な方なのです」
「何があったのでしょうか」
「ソリティア・ウィード陣営ではAI操作の無人機やサイボーグが活躍していると聞く。フィーレの体もサイボーグ化されているのではないかな」
「サイボーグ化って……それじゃあフィーレ様は人間じゃなくなってるの?」
「さあな。戦いの推移を見守ろうじゃないか」
ララの一言に一同は頷く。
既に九つの太陽を召喚している旭の周りを走っていたフィーレは突然見えなくなった。
「光学的結界?」
「いや、加速装置だ。魔術じゃない」
懐に飛び込んだフィーレの一撃を受け止める旭。倍化を使って身体能力を極限まで上げているようだ。そして旭も消えた。
上空十数メートルの地点で閃光が弾け両者が姿を現す。フィーレが着地するその場を狙って旭の太陽が放り込まれる。それはフィーレの結界に阻まれ業火となって四散する。
「うわ。やり過ぎだよ」
「そうですね。ハイ紅茶ですよララ様。おやつはきのこの山のミニパックです」
「あちち」
ソフィアのさし出す紅茶に口を付けたララがしかめっ面をする。
「熱いですから気を付けて。はい、ミハル様とグスタフ様のものもご用意してありますよ」
「ありがとね。ソフィア」
「ありがとうございます」
二人は紅茶とチョコを受け取り戦況を見つめる。
旭は炎の竜と氷の孔雀を召喚してフィーレにぶつけるのだが両方が結界に阻まれる。
そして、再び驚異的な加速で距離を詰め拳を合わせる二人。
「あー、旭さん押されてるね」
「え? フィーレ様の方が押されてるのではないですか?」
「だから君はお子様なの、グスタフ君。姫様は結界だけしか使っていないでしょ。他の魔術はまだ見せていない」
「あ、そうか」
そう言ってグスタフの頭を撫でるミハルだったが、フィーレはそれに鋭く反応する。
「そこのエロ女。グスタフに手を出すんじゃない!!」
そう言ってミハルを睨むフィーレ。その時出来た隙を見逃すはずのない旭の強烈な掌底がフィーレの鳩尾を叩く。
「あー、前言撤回。グスタフがいる限りあの姫はダメだ」
「んー。やはりお子様なのですね」
フィーレは十数メートル吹き飛ばされる。そこへすかさずあの太陽が放り込まれた。
巨大な火球が広がり周囲に業火をまき散らす。しかし、そこにはフィーレの姿は無かった。旭の背後に現れたフィーレは巨大な紫色の光弾を放つ。光弾に撃たれた旭の体は瞬時に燃え上がる。
「ふん。ざまあみろですわ」
燃え上がる旭の体を見つめながら胸を張るフィーレだったが、その背後から旭にそっと抱きしめられる。
「まさか、いつの間に」
「ベル、見つけました」
胸のペンダントを掴んだ旭の手のひらでベルは砕けた。
「只今、ソリティア・ウィード陣営の代理、フィーレ・ラント・ベルグリーズ様のベルが破壊された事を確認しました。デュエルの勝者はモナリザ・アライ陣営の代理、日向旭様です。繰り返します。勝者はモナリザ・アライ陣営の代理、日向旭様です」
「何時の間に……あそこで燃えているのは人形なのですか?」
「ええ、土の精霊にお願いして制作しました。よくできているでしょう」
「分かりました。私の負けです。さっさと離れてください。セクハラで訴えますよ」
「それは勘弁してください。お姫様」
笑顔で両手のひらを天に向ける旭だった。
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