act.24 シュバルツリッター登場

 ここはソリティア陣営とビンイン陣営が対峙している街道。

 互いの斥候が接触し、長距離砲による威嚇射撃が絶え間ない。


 しかし、お互いが動かない。

 自陣におびき寄せて有利に戦おうとする意図が見え見えだった。


「私達の出番はまだかな?」

「こんなににらみ合ってちゃ迂闊に動けない。先に動いた方が負ける」


 グダグダ喋っているのはゼクローザスに搭乗している二人のドールマスター、リオネ・ガルシアとウーサル・ビアンカだった。どちらのゼクローザスもグレー系の砂漠迷彩が施されている。


「やっぱりそうだよねー。そう思うよね。レイとコウ」

「ああ、間違いはない」

「膠着してるな」

「しかし、このままにらみ合っていては時間ばかり消費する。何とかこの盤面を動かす手はないのだろうか?」

「あるよ」

 ビアンカの問いに黒猫が答える。

「どうするんだ。コウ少尉」

「正面の防御は固いから側面から攻撃するんだよ。そして敵の防御が側面に移った段階で主力が突撃する」

「そんな単純な手に引っ掛かるかな」

「俺達四人の手練れが遊撃部隊となって側面を突く。それで主力を引きつけられるさ」

「確かにそうかも。その作戦いつやるの?」

「早い方が良いだろう。装備を補充してからすぐに移動しよう」

「分かったレイ。部隊長に進言してくるからそれまでに装備を整えてて。整備士のアンジェラとジェイクに言えば何でも装備してくれるよ」

「分かった」

 アンジェラは羊型、ジェイクはタヌキ型の獣人だった。

 ハーゲンとコウは整備士のアンジェラとジェイクを見つけて整備の依頼をする。

 しかし、話の内容は逃亡の段取りだった。

「分かりました。ハーゲン少尉。ところでお顔が真っ黒ですけど……」

「変装だ。余計なことで突っ込むな」

「はい。では、皆さん四名の鋼鉄人形が駐屯地から離れたら南へ移動するんですね」

「そうだ。ここから約3㎞南だ。そこへ帝国から迎えが来ている」

「よかった。どうなる事かと心配していたのです」

「ああ、心配ない。リオネとビアンカも必ず助ける」

「でもあの二人は吸血鬼になっているんです。大丈夫なのでしょうか?」

「ネーゼ様とマユ様が来られています。あの方たちであれば、どんな吸血鬼の呪縛でも解き放たれるでしょう」

 アンジェラとジェイクは顔を手を取り見合わせて大喜びしている。

 その姿に吸血鬼の一人が小言を言ってきた。

「何浮かれてるんだ、この獣人風情が」

「ごめんなさい。同郷のものが集まってついはしゃいじゃいました」

「気を付けろ。この馬鹿が」

「お前もな」

 そう言って黒猫がその吸血鬼の鳩尾を蹴り飛ばす。

 その吸血鬼は数メートル吹き飛んで痙攣している。その騒ぎを聞きつけ吸血鬼が集まって来た。

「なさけない。吸血鬼ってその程度か?」

「馬鹿め。血を吸いつくしてやる。猫の血は不味そうだがな」

 一触即発。四人の獣人を取り囲む吸血鬼の群れ。ハーゲンが光剣を抜こうと柄に手をかけた時、ゼクローザスに乗ったリオネが制した。

「馬鹿な事やってんじゃないよ吸血鬼共。お前らの素行が悪いせいでビンイン様の格が下がるんだ」

「いや、リオネ姉さん。こいつらが生意気なもんで」

 口答えする吸血鬼をリオネが諭す。

「アルマの獣人を舐めると痛い目に遭うよ。みんなさっさと持ち場に戻る。いいね。コウとレイも行くよ」

 リオネの一言に吸血鬼たちはその場を離れていく。

「へへーん。その辺の吸血鬼よりは私の方が力が上なんだ。まあ、あんたたちに暴れられたら戦力が低下するからね。馬鹿やられちゃ困るの。いいかな」

「分かっている」

 ハーゲンと黒猫は頷き鋼鉄人形に搭乗する。多少の追加装備を携え、四機の鋼鉄人形は駐屯地を後にした。

 リオネのゼクローザスは重武装。両肩に120㎜ロケットランチャー、右腕に120㎜滑腔砲、左腕に76.2㎜ライフルを持っている。対してビアンカは格闘戦仕様にしており、両手に実剣を持ち、大剣を背負っている。火器は内臓の機関砲だけのようだ。

 二人とも盾は持っていない。

 それに対してハーゲンと黒猫の装備は軽く、盾と実剣、それとアサルトライフルであった。

「あんた達、軽い装備でやれるの?」

「鋼鉄人形は剣と盾があれば十分戦えるのですよ」

「そうだ。原則火器は不要だ」

「まあ、どこかの狐みたいな事言うわねあんた。毛色が違うけど、雰囲気は似てるよね」

「それは誰だ?」

「あ、こっちの話。気にしないで」


 四人はソリティア陣営の駐屯地の南東5㎞の地点に到達する。

「さあ始めようか」

 そう言ってハーゲンは実剣を抜刀しリオネに対峙する。黒猫はビアンカと向かい合う。

「あんた達何考えてるの?」

「俺はハーゲンだ。皇帝の命を受け、お前たち二人の救出に来た」

「そういう事」

 リオネはすぐに後退し火器を構える。

「味方じゃなかったのね」

「いや、味方だ。だから助けに来た」

「余計なお世話よ」

 今まさに接触しようとする黒猫とビアンカの間にロケット弾が着弾する。

 即、後退する黒猫とビアンカ。その爆炎の中心に空から舞い降りる漆黒の騎士。

 鋼鉄人形より二回りも大きいその騎士は通信を接続してきた。

「おいおい。お前さんたちはアルマ帝国の鋼鉄人形じゃないのか。こんな所で仲間割れしてるのか?」

「その声は龍野、須王龍野か」

「あれ。ハーゲン少尉ですか? 乗ってる機体が違うな」

「今は別の機体だ。何をしに来た」

「いやね。ベルを所持している機体と所持していない機体が戦うのはもったいないと思ってね。その喧嘩、俺が買う」

「いきなり割り込んできてんじゃないわよ。ぶった切るわよあんた」

「二刀流のゼクローザスか。面白い。俺はプリンセス・フーダニット陣営の代理、須王龍野だ」

「ビンイン・ジ・エンペラー陣営の代理、ウーサル・ビアンカよ」


「デュエル承認されました。プリンセス・フーダニット陣営の代理、須王龍野様とビンイン・ジ・エンペラー陣営の代理、ウーサル・ビアンカ様のデュエルを開始します。5……4……3……2……1……開始です」

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