act.20 ゼクローザスvsインスパイア
「ミハル中尉、コウ少尉。周囲の警戒を怠らないでください」
「分かってるわ。ところであの子達大丈夫かな?」
「ララ様ですか?」
「アカンサスよ。AI任せじゃ心配なの。ララ様は大丈夫。心配していないわ」
「確かに。俺は鋼鉄人形に乗ってても、あの人に勝てる気がしない」
「そうよね」
常に無駄口を叩くのがミハルの悪い癖だ。
ハーゲンの搭乗したインスパイアは通常通り起動した。
「外部の塗装以外はいじっていないようだな。霊力の蓄積量も十分だ。行けるぞ」
そう言って実剣と盾を構えるインスパイア。
「準備はいいようだな。では行くぞ」
ダリア・メルジーナが斬りかかって来る。ハーゲンはその剣をいなし盾を構えて体当りをする。
ゼクローザスは後方に吹き飛ばされ中央の広間を半分潰してしまった。
「どうした。操縦には自信があったのではないのか?」
「うるさい。魔力は私が一番だ」
「ならやって見せろ」
「うがああああ」
ダリアの叫び声に応じて剣が黒く輝いていく。
「これで何体ものロボットを切り刻んだ。お前も同じだ」
黒く輝く剣で打ち込んでくる。しかしインスパイアの盾は青白く光り始め、その剣を弾き飛ばした。
そして、青白く光るインスパイアの剣はゼクローザスの剣を叩き折った。
「まさか、信じられん。こんなことがあってたまるか。私の魔力はビンイン・ジ・エンペラー様に次ぐ力があるというのに」
「今すぐ鋼鉄人形から降りて逃げるのなら見逃してやる。これ以上やるというのなら容赦はせん。お前のような黒き波動を持つものは、本来、鋼鉄人形を操る資格が無い」
「波動の色など知ったことか。お前を倒して私が最高の使い手となってやる」
今度は背中に背負った大剣を構え、それを振りぬいてくる。しかし、獲物が大きくなったせいで振りの鋭さは逆に失われた。
「人形で剣を使うのなら、普段の素振りを欠かさぬことだな」
インスパイアの輝く剣はゼクローザスの大剣を砕き、その操縦席へと突き刺さっていた。剣はダリアの胸をも貫いていた。
「こんな事では負けんぞ。何度でも復活してや……」
「出来るのならやって見せろ」
そう言ったハーゲンの剣。インスパイアの剣は更に輝きを増し、その光にダリアは焼かれていく。
「ま……さ……か……太……よ」
その一言を残し、ダリアは灰となって崩れていった。
『ネーゼ様。ゼクローザスを撃破しました。回収をお願いします』
『了解しました。ハーゲン少尉、コウ少尉はそのまま方東部へ威力偵察を行ってください。火器はそこにアサルトライフルがあると思います』
『威力偵察ですか? ララ様の援護に向かわなくてもよろしいのでしょうか』
『ララは大丈夫です。万一の場合は私が何とかします。目標地点の手前1000mの地点までテレポートで送ります。よろしいですか?』
『了解しました』
黒猫はアサルトライフルを2丁掴み、1丁をハーゲンに手渡す。
『威力偵察するには武装が貧弱ですが、やりますか大尉殿』
『ああ、そうだな。それと俺は大尉じゃない。間違えるな』
『あ、すみません』
『ではネーゼ様。どうぞ』
『分かりました。では行きます』
ネーゼの言葉と同時に二機の鋼鉄人形は虹色の光に包まれて消えた。
テレポートでの送り先は、十数キロ北東にあるビンイン・ジ・エンペラー陣営の鋼鉄人形部隊駐屯地であった。
突然後方に現れた漆黒の鋼鉄人形が二機。
駐屯地の連中はすぐに気が付いた。しかし、味方が乗っているとばかり思っているのだろう。整備士や歩兵の連中は手を振っている。
「ハーゲン少尉。奴ら味方だと思ってますよ」
「そうだろうな。敵の施したカラーリングそのままだからな」
「宇宙軍の機体もいますね。それと、異世界のものでしょうか。見たこと無い奴もいる」
「ざっと30機か」
「鋼鉄人形は……ゼクローザスが1、インスパイアが3、ブルーネクサスが3、オレンジネクサスが4、計11機ですね」
「少し足らないか?」
「2機足りません。さっきのヴァンパイアが試し切りしたんじゃないですか?」
「そうかもしれんな」
そんな言葉を交わしている二人の間に無線で割って入る奴がいた。
「ちょっとあんた達、誰よ。王城には鋼鉄人形乗れる奴は一人しかいなかった。そいつはゼクローザスがお気に入りだったから他の機体には乗らない」
「ははあ。そりゃ勘違いじゃないの? 俺達傭兵でさ、さっき着任したばかりなんだよ。それでこっちに来いって言われて来てみたんだけど敵は何処よ?」
「傭兵? 怪しいね。帝国のスパイじゃないのか?」
「スパイだなんて人聞きが悪いな。つまんねえことで言い争ってると敵が来るぞ」
その時、高空を三本の飛行機雲が伸びてきていた。その飛行機雲はカクっと鋭角にターンして急降下してきた。
「ありゃあバートラスですね、三機編隊だ」
「威力偵察だな。対空防御だ」
すかさず上方に盾を構えるインスパイアとネクサス。しかし駐屯地の他のものたちは反応が遅い。
機銃掃射をしながら反転し再び上昇していくその一機を狙って黒猫が射撃し撃ち落とした。
僚機が撃墜された事で肝を冷やしたのか、そのまま一目散に逃げて行った。駐屯地の対空砲を撃ち始めた頃にはしっかりと射程外で、すぐに見えなくなった。
「あんた良い腕してるじゃない。私はリオネ・ガルシア。よろしくね」
「ああよろしく。俺はコウ・エクリプスだ。コウって呼んでくれ。えーっとこっちは」
「レイダー、レイダー・グラブロ。レイでいい」
「はーい。コウとレイね。よろしく」
急襲してきた戦闘機を墜とした事で好意を持って受け入れられたようだった。魔術師系の人材が多く軍事には疎い者ばかりなのだろう。
「ここにしばらく居座りますか?」
「それが良いかもしれないな」
「こいつら素人丸出しだから重宝されるかもしれませんね」
「そうだな」
「でも、あの狂犬の名前使わなくても良かったんじゃないですかね?」
「咄嗟に思いつかなかったんだ。本名だと不味いだろ」
「そうですけど」
「何か言った?」
「いや、何でもないです。何でも」
「ははは」
必死で誤魔化すハーゲンとコウであった。
※狂犬とは、海兵隊の狂犬として有名な獣人。俺の愛しいアンドロイドに出ているレイ軍曹の事。黒いシェパードのような姿をしている。肉弾戦ならハーゲンやコウよりも強い。
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