act.19 vsリラ・シュヴァルベ(後編)&グスタフ
『ララさん。大丈夫ですか?』
「大丈夫とは言えませんが何とかします。強制テレポートだけはしないようネーゼ姉様にお伝えください」
『分かりました。でも、本当に危険ならネーゼ姉様を止められませんよ』
ララの口元からギリリと歯軋りの音がする。
魔術師など魔術を発動する前に殴れば勝てる。障壁があってもそれ以上の力で粉砕すればよい。今まではそう思っていた。
しかし、この相手は違った。
エナジードレイン……と表現したが、普通ではなかった。
魔術障壁が双頭の蛇であり、暗黒の騎士でもあった。
暗黒の騎士が光剣を防ぎ無力化した。そして、双頭の蛇がララの両腕を喰らった。それは霊体の両腕であったわけだが。
「このデュエルは私の勝ちだ。さっさと退散したらどうだ?」
「ララ姫、貴方はよくやった。確かにこの勝負、私の負けだ。しかし、貴方がわが主ビンイン・ジ・エンペラー様に歯向かうものだという事もよく理解している」
「そうだな。お前さんの主はわが帝国の敵となった。私も引くわけにはいかない」
「ならばやることは一つ。お互いの生命をかけ、命尽きるまで戦うのみ」
「ふん。物分かりがいいね」
オラケルのボウガンから巨大な矢が放たれる。
しかし、ララはそれをかわし旭とヒナ子のいる場所へとジャンプしていた。
「南へ走れ」
「貴方は逃げないのですか?」
「私が逃げなければ奴は追ってこない。ぐずぐずするな。行け!!」
「ピヨヨ!」
ヒナ子を促し旭とソフィアが走り出す。
それに気づいたオラケルがボウガンを向けたその時、アカンサス・クロウの発射したAPFSDSが着弾した。
4発共装甲に触れる直前で弾かれるが、更に次弾が着弾する。今度はHESH。装甲表面の魔術障壁にへばりつき爆発する。コレにはオラケルがグラついた。しかし、全くダメージを与えていない。
「アカンサス・シン援護射撃」
上空からアカンサス・シンのビーム砲がオラケルに命中する。しかし、これも弾かれた。
そして正面からはアカンサス・クロウの大出力ビームライフルが発射された。
オラケルの周囲200mほどが巨大な光球に包まれ、そして激しい炎が燃え上がる。
しかし、オラケルは倒れない。その強大な魔術障壁が全ての攻撃を阻んでいた。
「姉様。救出作戦の進捗状況はどうなってますか?」
『整備士のフェオ・シチリアは救出完了。しかし、現在敵に奪われたゼクローザスとハーゲン少尉のインスパイアが城内で交戦中。交戦が終了するまではオラケルを引きつけて欲しいとネーゼ様からの伝言です』
「ふん。あの化け物をまだ引きつけておけだと? 姉様の我儘も大概にして欲しいものだな」
『大丈夫。貴方ならできますよ』
「分かりました」
オラケルの両肩に装着されている円筒状の魔術放射筒が上を向き、黒い魔術波動を上空に吹き上げた。その黒い稲妻は高度5000m以上の上空でビーム攻撃を加えていたアカンサス・シンを捉えた。アカンサス・シンは黒い稲妻に包まれながら地上に墜落した。
次いでオラケルはアカンサス・クロウに向け黒い魔術波動を放った。それはアカンサス・クロウの遠距離ビーム砲と空中で衝突し巨大な光球が弾ける。そして周囲に巨大な火炎が吹きあがっていく。
「撃ち方止め。私が突っ込む」
首に大型の手榴弾を二つぶら下げたララはジャンプし、再びオラクルのコクピットに侵入した。そして、ララの右脚はリラの喉を潰していたが致命傷ではなかった。
「右脚一本くれてやる」
「馬鹿な。速すぎる……」
ララはかろうじて動く両手に抱えた手榴弾をリラの足元に放り込み口にくわえていたピンを吐き出した。
「じゃあな」
リラが黒い稲妻を放った時には、ララの姿は消えていた。
ズドン!
操縦席内で大型の手榴弾が二発爆発した。
魔法障壁によりリラは無傷であったのだが、操縦席内の機器は十分に破損していた。
動く城塞オラケルはここに沈黙した。
「まさか、このオラケルが行動不能にされるとは……。仕方がない、今日は撤退するとしよう」
オラケルは浮上し、そのままゆっくりとした速度で王城へと帰っていく。
「やっと帰ってくれた。追撃は不要。アカンサス・シンの回収を急げ」
『よく頑張りましたね。ララさん。王城の方も片付いたようですよ』
「了解。とりあえず救護要請します。両腕と右脚が動きません」
『分かりました。私が行ってあげると良いのだけれどここから動けないわ』
「分かっています」
アカンサス・クロウはホバー走行で接近してきた。両腕に155㎜砲を抱え背に巨大なビームライフルを背負っている。
ララが座っている場所にミハル中尉がテレポートで送り込まれてきた。
そこへ旭とヒナ子も走って来る。
「ララさん大丈夫ですか?」
旭の問いかけにララは苦笑いをしている。
「大丈夫じゃない……満身創痍ってやつ? 誰か来た場合はお願いします」
「分かりました。その時は僕が戦いましょう」
「ぴよよ!!」
二人ともやる気になってくれているようだ。
「こんにちは」
そこへ一人の少年が通りかかる。ララよりも小柄で幼い少年だった。
「戦闘されたんですか? あちこち火が残ってるしものすごく焦げ臭いし。あれ? それは闇の魔術でやられましたね。見せてください」
この、栗色の髪をした色白の少年は生来のお人好しなのだろう。ララの素性も聞かず、その黒ずんだ両手と右脚を撫でさすり症状を詳しく確認している。
「痛くないですか?」
「いや、全く感じない。触られているのも分からない」
「闇の魔術の影響ですね。これと似た技を使う人よく知ってるんですよ。良い薬がありますからね、少し待ってください。直ぐに良くなります」
自身の背嚢から二枚貝に詰められた塗り薬をララの両手と右脚に塗りたくっていく。
「これはですね。僕の師匠が作った薬なのです。すごくよく効きますよ。失われた霊体を回復する優れものです。もうすぐ痺れが出ますからね」
「あー痛いビリビリする。痛いぞ。どうにかしてくれ」
「我慢我慢。痛いのは良くなっている証拠です」
そう言ってララの両腕を撫でる少年。それで痛みを感じているのだろう。ララは涙を流しながら歯を食いしばっている。
「ああ痛い。触るな。痛いぞ」
「だから我慢ですって」
「うがあああ。触るな」
「ダメ。ここは良くマッサージすべきなんですよ。痛みがある方が直りが早いんです」
「分かった。分かったからもう少し優しくしろ」
「ふふーん。僕のありがたさが分かりますか?」
「よく分かった」
「まだ痺れていますか?」
「いや、大丈夫みたいだ。感覚は戻って来た」
「じゃあもうすぐ戦えますね。ララ・アルマ・バーンスタインさん」
「私の事を、知っているのか?」
「勿論です。先ほどの戦いもじっくりと観察させていただきました。申し遅れました。僕の名はグスタフ・シュネー・アイゼンヘルツ。先ほど貴方が撃退したリラ・シュヴァルベは僕のお師匠様です。今から一時間後で結構です。無理強いはしませんが、僕と戦ってくれますね」
「分かったよ」
「お師匠様の仇は取らせてもらいます」
「デュエル承認されました。プリンセス・フーダニット陣営の代理、ララ・アルマ・バーンスタイン様とリンド陣営の代理、グスタフ・シュネー・アイゼンヘルツ様のデュエルを開始します。5……4……3……2……1……開始です」
※ララの使うジャンプは自称“加速装置”のほとんど瞬間移動の事。目視できる範囲で移動するのだが、その時の姿は通常捉えることができない。
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