act.18 王城侵入と救出

 アルマ帝国軍特殊艦ケイオン。

 宇宙巡洋艦であるが、所属は宇宙軍ではなくアルマ帝国軍となっている。総司令セルデラス直轄の艦である。

 このケイオンは特殊艦と言われている。その理由はこの艦がことができる特殊な能力を有しているからだ。

 山脈や大地の中に沈み潜航する技術は過去存在していたのだが、すでに失われている。しかし、この技術を搭載している艦が帝国には未だ存在している。それがこのケイオンなのだ。


 ケイオンから三人の人物が降り立つ。

 場所は王城地下の水路である。

 この城下町は近くの川より水を引き小川にして城内と城下町を潤している。しかし、それとは別に地下の水脈から引き込んだ水路がある。この水路は一般には知られていない秘密の水路であった。

 

「コウ。誰かいるか?」

「いえ。誰もいませんね。大尉殿」

「今は少尉だ。間違えるな」

「これは失礼しましたクロイツ少尉殿」

「クロイツの姓も今は名乗れん」

「失礼しました」

 ごちんと銃床で頭を叩かれるコウであった。

 叩いたのはミハル・ジュドー中尉である。

「もう説明したでしょ。頭悪いんだから。あ、私は今だけ軍曹でもよろしいですよ。ハーゲン様♡」

「そういう訳にはいきませんミハル中尉殿」

「カタい事言うのね」

「何がしたいのですか?」

「憧れの帝都勤務になったというのに、いつもお城観光のお年寄りの相手ばかりしてるのです。もう、イケメン様に出会えなくて腐っているんですよ。私も少しは羽目を外したいのです」

「羽目を外すのは任務終了後にしてください。中尉殿」

「任務終了後ならいいんだ」

「結構です。でも私が付き合うとは言っていませんよ」

「もう、ケチ。もっと気さくな人だと思ってたのにな。それじゃあ総司令と同じじゃない」

「ミハル中尉。静かに。もう目的地の下です」

 コウの言葉にさすがのミハルも口をつぐむ。

 

 三人共迷彩服に身を包み、アサルトライフルと光剣を装備している。そして目的地とは地下の食糧庫である。

 ネーゼの霊視により、地下の食糧庫に人質がいることが分かっている。しかし、人数は一人。他の4人は不明なのだという。

 梯子を見つけ上っていく黒猫。

 周囲に誰もいなかったようで、彼の合図でミハルとハーゲンも上にあがった。

 食糧庫内に造られた隠し扉を外して中に入る。

「誰かいるか」

「え? 誰ですか?」

「フェオ。フェオなのか?」

「少尉殿! 助けに来て下さったんですか!!」

 そこにいたのはハーゲンの赴任地ルベール砦の主任整備士フェオだった。

「大丈夫か?」

「僕は大丈夫です。でもリオネさんが……」

「リオネがどうした」

「北東の工業地帯へと続く街道に行ってるんです。彼女をドールマスターとして戦わせるつもりのようです」

「北東と言うと、ソリティア・ウィード陣営との戦闘という事か?」

「そうなんです。リオネさんはあの骸骨に吸血鬼化されて、もう完全に奴隷みたいになってるんですよ。もう一人のドールマスターのウーサル・ビアンカさんも同じです。吸血鬼になってるんですよ」

「そうか、後二人は?」

「ラメルの整備士です。アンジェラとジェイクも北東の駐屯地に連れて行かれました」

「北東部の駐屯地か。次はそこへ行かねばならんな」

「はい。お願いします」

「鋼鉄人形の配置はどうなっている?」

「城の中央広場に3機配置されています。ゼクローザスとインスパイア、オレンジネクサスが各1機なんですが、不味い人がいるんですよ」

「その不味い人とは?」

「災厄と呼ばれる高名な魔術師“リラ・シュヴァルベ”と動く城塞と呼ばれる大型ロボット“オラケル”が控えています。あの人の魔術は相当ヤバイらしくて」

 いつもの様に怯えているフェオ。この小心な若者は事が起こると怯えて動けなくなる。

「やはりいたか。今からララ様がそいつをおびき出す作戦を実施される。俺達はそいつが城外へ出た隙に鋼鉄人形を奪還して脱出する」

「なるほど……ってララ様がオラケルと戦うんですか? ララ様生身ですよね」

「あのお方は素手で鋼鉄人形を破壊されるのだ。余計な心配はしなくていい。動くぞ」

 その言葉に頷くフェオだった。

 ハーゲン達は地下の食糧倉庫から一階の厨房へ入る。そこから脇の通路を通り中央広場を望む。周囲に数名の警備兵の姿が見える。

 フェオの言った通り、そこには3機の鋼鉄人形が配置されていた。皆、真っ黒に塗装されており胸の操縦席が開いている。そして中央には一際背が高く横幅の広い大型ロボットのオラケルが構えていた。

 時計を見ながらミハルがつぶやく

「始まります」


 ヒュルルルルル……ズトン!


 砲弾が空気を切り裂く音と同時に城の中央に数発着弾した。

 更に数発着弾する。石造りの城は意外と強固で、爆発しない演習弾ではほとんど被害を与えられない。


「予定通り演習弾ですね」

「ああ、これでリラ・シュヴァルベは動くか」


 城内の大広間より一人の女性が出てきた。黒いドレスの上に黒いローブを羽織っている。彼女は宙に浮いたままオラケルの胸に吸い込まれていく。そしてオラケルは宙に浮きあがった。


「何? 相手はララ・アルマ・バーンスタインだと? 徒手空拳でこの私に挑もうというのか?」


 そう言い残してさらに高く浮き上がる。

 左手、西側の塔に砲弾が命中し、その塔は崩れ始めた。それを眺めたオラケルは、南西方面へ急速に飛翔していった。


「今だ」


 ハーゲンの合図で黒猫とミハルは広場に躍り出る。

 二人とも銃は使わず光剣のみで、5名の警備兵を瞬時に倒した。


「来ると思ってたよ。情報は入手済みだ! この狐が!」


 艶のある黒色に輝くゼクローザスの操縦席が閉まり両目が光り輝く。そして実剣を抜刀し容赦なく剣を振るってきた。

 石畳が砕かれ周囲に破片が飛散する。


「貴様がハーゲン・クロイツだな。そこの鋼鉄人形に乗りな。どっちでもいい。私好みに黒く塗ってあるが整備は完璧だ。さあ、帝国最強とやらを私に見せてみろ!」

「お前は?」

「おお、名乗るのが遅くなったな。私はダリア・メルジーナ。ビンイン閣下の部下だ。さあ戦え!」

「ハーゲンさん。あの人ヤバイです。バンパイアなんですけど身体能力も魔力も他のヤツと比べて桁違いなんです」

 泣き顔で訴えるフェオであった。

「心配するな。ハーゲンさんは鋼鉄人形に乗せれば無敵だよ。敵う奴なんかいない」

 黒猫の言葉に頷くミハル。フェオもそれを見て頷いていた。

 その時ネーゼから精神会話が繋がった。

(ハーゲン。リナリアを送りましょうか?)

(不要です。フェオの回収をお願いします。私と黒猫はここにある鋼鉄人形で戦います)

(分かったわ)

 ネーゼの返事と同時にフェオが消えた。テレポートで回収されたのだ。ハーゲンはジャンプしてインスパイアの操縦席に飛び乗る。黒猫はネクサスに搭乗した。

「コウとミハル中尉は周囲の警戒をお願いします」

「了解」

「分かったわ」

 真っ黒に塗装されているインスパイアが抜刀し構える。

 今、城内中央広場にて鋼鉄人形同士の決闘が始まった。


※アルマ帝国においては姓を持たない獣人も多く、名前+階級で呼ぶことが一般化している。勿論、姓を持つものに対しては姓+階級で呼ぶ。ハーゲンはとある事情で大尉から少尉へと降格され、また実家からは姓を名乗るなと勘当寸前の扱いを受けている最中。コウ少尉はハーゲンの元部下なので昔の癖がでてしまったのだろう。

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