act.10 バンパイアの襲撃と共闘の旭
ドキドキ
そう、それはララの胸の鼓動。
ぺったんこな胸でも、イケメン様に出会えばドキドキする。
ソフィアは右手を無数のリボンに変化させ戦闘態勢に入った。
ララに気配を感じさせず自分の探知にも引っかからずに接近したこの青年をこの上ない脅威だと判断している。
「嫌われちゃったかな?」
穏やかな笑みをたたえ両手の平を上へ向ける青年。敵意の無い事を示している。
「ソフィア。もういい。この人に悪意はない。何か飲み物と食事を」
「分かりました姫様」
右腕を元に戻し、お茶の準備をしようとしたソフィアに頭を下げる青年。
「ありがとうございます。食事は済ませてきたのでお茶をいただけますか」
「分かりました」
「僕の名は
「私はララ・アルマ・バーンスタイン。プリンセス・フーダニット陣営の代理です。失礼して食事をさせていただきます」
「私は暗殺用自動人形トロワ型DD03Aのソフィアと申します。ここではララ様のお世話係として来ております」
ララはカレーを食べ始める。ソフィアはプラのカップに注いだほうじ茶を旭に手渡す。旭はそれを受け取り、お茶の香りを堪能している。
「良い茶葉ですね。何処のほうじ茶でしょうか?」
「さあ、カンパニーが用意したものですけれども、メイドインジャパンだと思います」
旭は一口啜る。
「道理でなじみ深い味と香りです。これは良い一服になりそうです」
「ところで、旭様はどうしてここへいらしたのですか? どうも戦闘される気が無いようですが」
「こんな目立つ場所でキャンプする人がどんな神経をしているのか興味がありましてね」
「ララ様はアルマ帝国の第四皇女で、皇帝警護親衛隊の隊長でもあります。帝国最強戦力とも言われております」
「そんな可愛い外見で最強なのですか? その帝国とはどの世界の帝国なのでしょうか?」
「地球とは別の惑星です。地球から見ておうし座の角、ヒアデス星団の一角にある惑星です。アルマ星を支配しているのがアルマ帝国となります。人口は概ね100億人程度でしょう」
「なるほど、一つの星が一つの国家なんですね」
「ええそうです」
旭とソフィアは会話を続けている。帝国の事や地球の事、色々情報をかわしていた。旭が退魔師の家系の長であり、相当な実力者であることが伺えた。
ララは俯きながら黙々とカレーを食べ続けている。その頬はほどよく赤く染まっていた。
「ところで旭様。戦闘目的ではないとおっしゃってますが……ここに来られた理由は何でしょうか?」
「この界隈は物騒なんですよ。異国の女性二人ですと危険極まりないと思うのです。大変おこがましいのですが、一夜の護衛役として参上いたしました」
「それは感謝いたします。どころで、代理としてのデュエルはいかが致しますか?」「今夜を無事乗り切れたなら明朝に。それでいかがですか?」
「姫様?」
「好きにしろ」
カレーの皿を地面に置き、そっぽを向いて返事をするララだった。
「何かお気に召さない事でも?」
「アレはきっと照れ隠しですわ。ところで今宵は月がきれいですわね」
「ええそうですね」
ソフィアの言葉に頷く旭であったが、そこへララが口を挟む。
「あー旭さん。そのソフィアは暗殺用の自動人形だからな。口説いても無駄だぞ。無駄。ソフィアも余計な事を言うな。旭さんが勘違いしたらどうするんだ。月がきれいとか漱石でもあるまいに」
「うふふ、これは失礼しました」
「漱石とは……地球の文化にお詳しいのですね」
「ええ」
ソフィアが説明を始める。帝国と地球は交流が深く、特に日本の文化が受け入れられていることなどを語っていく。
夜が更けていく。いつの間にか、丘の周りは人のような人でないような、様々な蠢くものに囲まれている。
「来ましたね。僕の出番だ」
すくっと立ち上がった旭。
その脇に寄り添い立ち上がるララ。しかし、旭は右手でララを制す。
「ララさん。ここは私に任せてください」
この男は生来のお人好しなのだろう。数百はいるであろう人外の群れに一人で立ち向かおうというのだ。明朝戦うかもしれない相手を庇って。
「姉様聞こえますか?」
「聞こえます」
「現状、完全に包囲されています。連中の意図は不明ですが、我らを襲う為集結している可能性が高いと思われます。空爆等の支援は受けられますか?」
「それは難しいわね。デュエルでなければこちらからの支援も大目に見てくれると思うのだけど、空爆は無理。ケイオンは隠密行動中なので出てこないわ」
「やっぱり戦わないとダメかな? イケメン様の前でやんちゃな事するの、恥ずかしんだけど」
「旭様に全て任せてその場が収まるとでも?」
「思いません」
「ならば存分に力を発揮なさい。その方があなたという人を正しく理解してもらえますよ」
「分かりました」
ララとマユが交信している間に一人前にやって来た。禿げ頭で初老の男だった。
「社長戦争に参戦されている代理の方とお見受けしましたが?」
「ああそうだ。僕の名は
「紹介ありがとうございます。私はこの地を統べるバンパイアの長、ゲオルグ・ジャン・ソネットと申します」
「そのバンパイアの長が何の用ですか?」
「私達はビンイン・ジ・エンペラー様の陣営に属しております。わが主の為、微力ながらこの社長戦争に参加させていただきたく存じます」
「貴方は代理ではないのですね。それなのに参加とはどういう意味でしょうか?」
「わが主の為、敵対する勢力を削ぐことです。つまり、あなた方の抹消ウッ」
ゲオルグが話し終わる前にララが動いていた。彼の胴体に正拳付きを食らわせ、体が折れ曲がったところに膝蹴りを顔面に加える。ぐしゃぐしゃに顔面を潰されながらもまだ動くその男の心臓に向かって光剣を抜き突き立てた。
「グオオオオオ……」
断末魔の悲鳴を上げながらゲオルグは動かなくなり、そして灰になって崩れていく。
「ほほー、この光剣はバンパイア退治の神器のようだぞ」
「それでは僕も。
……我が身は陽を宿す者……重ね重ねて、束ね束ねて……その陽は灼け衝く無謬の裂光……」
一斉に飛び掛かってきたバンパイアたちであったが、その場で突如出現した強烈な陽光の前に怯む。
旭の周りに浮かぶ九つの光球。彼の言霊に応じ具現化されたバレーボール程度の大きさを持つ輝く太陽であった。
バンパイア達はその光に怯え退散を始めるが、ララはすかさず追撃する。宇宙軍の光剣を振り回し、あるものはその胴を切り裂き、あるものは心臓を突きさす。光剣に心臓を破壊されたものは灰となって崩れ落ちた。
旭はララのもつ武器の能力とララのその敏捷かつ的確な動きに見入っていた。
(さすがは評判通りのお方だ。事前にお会いして正解だったな)
心の中でそうつぶやく旭だったが、その言葉はララには伝わらない。
「ララさん。もうお止めになって」
暗闇の中からすっと現れたのはララの姉、ネーゼだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます