戦闘開始

act.5 弱い者いじめナイツとvs86式無人多脚戦車(海賊版)

 ララとソフィアの転送先は草原だった。


「姉様。草原に到着しました。見渡す限り草原です。地図情報ではロイヤル・ヤードとなっています」

「確認したわ。そこでは魔物や盗賊はいないみたいだけど、ロイヤルゲームナイツが出てくるみたいね」

「何ですかそれは?」

「そこは貴族の所有地です。地主たちが、勝手に入りこんだ者を狩るゲームに熱中しているようですね。弱い者いじめですよ」

「ヴィランじゃないんですね。では、ぶっ殺してOKですよね。姉様」

「ダメですよ。そこは大人の態度を見せるべきでしょう。貴方が彼らよりも強くて高貴だと思い知らせればよいと思います」

「分かりました」


「姫様。何人か近づいてくるものがいます。馬に乗っているようです」

「うむ。見えているよ」

「申し訳ありませんが、私は視力が0.5程度なので遠くの物体を光学的に把握することができません」

「構わん。私は3.0だからな。例の弱い者いじめをする連中のようだ。馬に乗っているし、甲冑を身に着けている。槍も持っているな」

 そう言って巨大なリュックを下ろし、ソフィアに投げるララだったが、


 グシャリ


 とソフィアが潰れてしまった。

「ララ様。この荷物をどけてください。身動きが取れません」

 極薄の鋼板を重ねただけの張りぼてボディのソフィアは重量を支えられず潰れてしまったのだ。

「悪かった」

 そう言ってリュックを取るララだった。

 ソフィアは立ち上がる。

「姫様。重量物は気を付けてくださいね」

「申し訳ない」

 素直に頭を下げるララ。馬を駆り尚もこちらに進んでくる鎧の騎士に向かって背中の日本刀を抜く……いや、抜けなかった。

「これ、抜けないじゃないか」

「やっぱり。姫様の体格では抜き差しは難しいと思っておりました」

「大事なことは早く言え」

 そう言って日本刀を肩から外しソフィアに向かって投げるララだったが。


 グシャリ


 またソフィアが潰れた。


「姫様、気を付けてください」

「悪かった」


 日本刀を拾い頭を下げるララだった。

 そんな漫才をしている二人の側を三人の鎧騎士が通り過ぎる。


「おや、姉様、奴ら通り過ぎましたよ。どうしたのでしょうか?」

「戦闘車両が迫ってきていますね。それから逃げていたのでしょう。データは……ありました。86式無人多脚戦車です」

「戦車ですか?」

「戦車と言っていいのかよく分からない性能です。左右の手に12.7㎜チェーンガンを装備してますね。これは要注意。尾にも砲は装備してあります」

 その時窪地から巨大なサソリを思わせる多脚戦車が顔を出す。水色に塗装されたボディは全長5m位だろうか。丸い頭部に小さい三つ目が可愛らしい印象をもたらすもののこれは戦車である。殺りくと破壊の為の機械なのだ。両手のチェーンガンを発砲してきた。ダダダ、ダダダと三点バーストで射撃をしてくる。

「ララさん。弱点はサソリの心臓よ。そこにあるCPUを破壊しなさい」

「了解」

 横に走りながら弾幕をかわしていたララは急に向きを変えた。数メートルを瞬間的に跳躍したララは多脚戦車の胴体に取りつき渾身のパンチを浴びせる。

 轟音と共にボディに大穴が空き多脚戦車は沈黙した。

「やれやれ、戦闘は24時間後からではなかったのですか?」

「現地人との衝突でなければあり得ない状況です。運営に問い合わせますね」

 ララとマユがインカムでやり取りしているうちに、先ほどの騎士三人が戻って来た。

「貴方たちは何者か?」

「何処から来たのだ。ここは立ち入り禁止だ」

「その大サソリを倒したのは貴方か?」

 次々に言葉をかけてくる。

「私の名はララ・アルマ・バーンスタインだ。こちらは従者のソフィア。この度開催される社長戦争において、プリンセス・フーダニットの代理として参戦している。そこのガラクタは今、私が屠ったばかりだ。他に質問はあるか?」

 三人の騎士は小声で話し合っていた。

「ララ姫。確かに代理として登録されているな」

「プリンセス・フーダニットの代理ではないか。我々カンパニー派とは敵対する勢力だ」

「しかし、代理戦争には手を出すなと厳命されている」

「あの大サソリを倒してくれた恩がある」

「ここは一夜の歓待を持って礼としようではないか」

「それがいいだろう。しかし、あの大サソリを素手で破壊する姫だぞ。我々に取り込んでおく方が良いのではないか?」

「確かにそうかもしれない。しかし、社長戦争には手出し無用だ。傍観するほかあるまい」

 耳の良いララには話の内容が丸聞こえであったのだが、本人は知らん顔をしている。

「ララ姫。今夜は私共の屋敷で夕食とベッドを提供させてください。あの大サソリには困っておりました。それを退治してくれたお礼です」

 ララは頷く。

「ご承諾いただけたのですね。では迎えの馬車を寄こします。しばらくここでお待ちください」

 頭を下げ去っていく三人の騎士。

 そこへマユから通信が入った。

「先程の多脚戦車ですが、CPUに死体の脳を使用していたそうです。それが腐っていて暴走していたとの事。破壊してくださって感謝しますとの返事を貰いましたよ」

「分かりました。プッチンプリンでも寄こせと伝言願います」

「了解。それと、今夜は野宿しなくて済みそうですね」

「はい。助かりました。罠である可能性も考慮していますが、今の所そういった気配は感じません」

「私もです。夜の警護にはソフィアにお願いしなさい」

「そうですね」

「お任せください」

 ソフィアが一礼する。

 ほどなく馬車が到着し、草原の中にポツンと建っている屋敷へと案内された。


 ララは暖かい異国の食事を堪能し、そして客間のベッドに潜り込む。

 さて、明日からが本番である。

(自分の仕事は目の前の敵を倒すだけ。ややこしい事はハーゲンとネーゼ姉様に任せるしかないな)


 そんな事を考えながら眠りにつくララだった。


※86式無人多脚戦車(海賊版)に関しまして、全長5mの設定としています。また、装甲は薄いものの鋼板と複合素材として、槍や弓では貫けなかった相手をララが倒した事としております。

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