act.6 セレブ・ボーダーのやくざな貴族
夜どおしソフィアに見張らせていたのだが、何事も起こらなかった。朝を迎え伸びをするララにソフィアが優しく語りかける。
「姫様。昨夜はよく眠れましたか?」
「ああよく寝た。やはり十分に睡眠を取る事は重要だな」
「そうですね」
そこへドアをノックされ、女性の給仕人が入室してきた。
水差しと水を張った洗面器を交換する。
部屋に水道はないのだが、こうして定期的に交換して貰えるのは有り難い。
次いで朝食を持ってきた。メニューは硬めのパンとスープ、干し肉、サラダだった。ここでは高級であろう朝食を律儀に二人分届けてくれた。
「私は必要が無いので返却しましょうか?」
「いやいい、私が食べる」
そのまま二人分の朝食をペロリと平らげるララだった。
身支度を済ませ屋敷の主人に挨拶をする。
笑顔で握手をしてくるのがうさん臭いのだが、ララも笑顔で答えている。
「またおいでください」
「ええ、機会があれば寄らせていただきますわ」
一応、アルマ帝国の要人であるララはこの程度の社交術は身につけている。
主人は律儀にもサンドイッチのお弁当を二人分用意してくれた。人間そっくりで何も食べない自動人形を連れて歩くと食料が二倍手に入る!!
思いもよらぬ効果にララは舞い上がっていた。三日間とは言え補給の無い状態で戦い続けなくてはいけない過酷な戦場である。この効果は十分に活用しなくてはいけない。そう心に誓うララであった。
「ところでララ様。これからどうされますか?」
「近くに町がある。そこへ行ってみるよ」
「元々第二の王都と呼ばれていた都市ですね」
「そうだったな」
「今は、セレブ・ボーダーと呼ばれている半分廃墟の町ですね。治安は滅法悪いと思われます」
「そういう所へ行かないと仕事にありつけないだろ?」
「そうかもしれません」
「そういう事だ」
ララとソフィアは二人並んで歩いている。
のどかな草原の一本道を白人の少女が二人で歩いている。
二人とも金髪で、二人とも三つ編みのお下げで、それを二本たらしている。
仲の良い姉妹に見えるのだが、その服装が異様である。二人とも緑系の迷彩服を着こんでいるのだ。そして、背の低い方、体の小さいほうが巨大なリュックと日本刀を背負っている。これも異様だ。
ララは町に近づくにつれ、なにがしかの視線を感じていた。
よそ者の異様な風体の少女二人。
犯罪者達が獲物にしようと虎視眈々と狙っている。
その町に行くには幅約30mの川を渡る必要があった。その川にかかっている橋にはいかにもガラの悪い連中がたむろしていた。
「ここの通行料は10万だ。円でもコスト(当地の通貨単位で円と同価)でも構わないぜ」
「お嬢ちゃん。その荷物重そうだね。それ、置いて行ったら通らせてあげるよ」
「来てる服全部でも構わないぜ。まだお毛々生えてないでしょ。お兄さんに見せて欲しいなぁ~」
ここまで下品なのはサル助の中でもなかなかお目にかかれないだろう。
革ジャンを着た痩せ男、リボルバーをいじくっている筋肉質の男、そしてでっぷりと肥えたヒゲ面、この三人だった。
「ララ様、よろしければ私が始末しますが……」
「いい、私に任せよ」
お下劣な男たちはニヤニヤ笑いながらララ達を見つめている。
ララは肩から日本刀を外し前に掲げた。
「おい、そこのデブ男。お前だ。今から私と殴り合いをしろ。お前が勝ったらこの刀をやる。本物の日本刀だ。50万はするぞ。私が勝ったら何も言わずここを通せ」
「お嬢ちゃん本気?マジ?お兄ちゃんは服脱がしちゃうよ?」
「このロリ助、始まりやがった。変態野郎が」
「返事は!」
「いいよ。ただし僕は殴らないよ。でもこれで服を切る。肌は切らないよ」
ひげ面はポケットからバタフライナイフを取り出し刃を引き出した。
「今朝、きれいに研いだからね。よーく切れるよ。お嬢ちゃん暴れないでね」
「ふん、昨日もどこぞのガキが暴れて切り刻んだってのに懲りない奴め」
「ルールは気絶するか死んだ方が負け。これでいいな」
「いいよ。た・す・け・てって泣いても終わらないって事だよね。いいよいいよ」
荷物を脇に置いてララが構える。
ナイフを突き出しながらひげ面が迫って来る。
ララは、自分の顔にゆっくりと突き出してきたナイフをするりとかわしひげ面の右手を掴む。そのまま一本背負いで投げ飛ばした。
ひげ面は受け身を取ることなく地面に背を叩きつけられる。ララは高くジャンプしてひげ面のでっぷりと肥えた腹の上に着地した。
ララが飛びのくと同時に体を折り曲げたひげ面は盛大に嘔吐し痙攣している。
「ふん。他愛もない。通るぞ」
バンと銃声が鳴り、荷物を抱えようとしたララの足元に銃弾が撃ち込まれた。
「お嬢ちゃん。それはいけないねぇ。俺達は面子を大事にしてるんだ。舐められちゃ商売できねえんだ。落とし前……」
リボルバーの回転弾倉を抑えたララは、ガタイの良い男の鳩尾に拳をめり込ませていた。
「喋っている暇があったら相手の息の根を止めろ。馬鹿者」
筋肉質の男は白目をむいて悶絶した。
鍛えているであろう腹筋をいとも簡単にに貫いた拳をペロリと舐め、痩せ男に向かって話し始めるララ。
「見逃して欲しいのなら10万で手を打ってやろう」
痩せ男は財布から紙幣を抜き取り土下座していた。
「は、8万しかありませんがこれで勘弁してください。お嬢様。俺達が悪かったです。すみません!!」
「分かった。許そう、以後気を付けるように。命は保証せんぞ」
「ははー」
時代劇で見るような見事な土下座にララは見入っていた。
二人は悠々と橋を渡り対岸についた。
「ララ様。資金獲得の為、ワザとあのやくざ貴族に付き合ったのですか?」
「当たり前だ。この程度の川はジャンプできる」
それを聞いてにこやかに笑うソフィアだったがその両手には紙幣が十数枚隠されていた。
「お前いつの間に?倒れた男から奪ったのか?」
「私は隠密行動が得意です」
唯々にこやかに笑うソフィアだった。
何はともあれ一行は24万コストの現金を手に入れた。
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