act.2 事前準備は面倒なのです

「あの~本当に大丈夫なのでしょうか?」


 金森は怪訝な表情をしている。

 異世界社長戦争に名乗りを上げたのが何と、自分の娘と同じような年ごろの少女だったからである。


「大丈夫だ。問題ない」


 胸を反らせ、両手を腰に当て睨みつけるララだったが、140㎝のおチビちゃんでは威厳も何もない。


 ここはハーゲンの赴任地、ルベール砦。獣人の国ラメル王国とアルマ帝国の国境に建てられた小さな城塞都市である。今、会議室で打ち合わせをしている真っ最中なのだ。


 地球からの来訪者金森泰三かなもりたいぞう、p.w.カンパニーの社員である。技術者でカンパニー主催の戦闘実験に深くかかわっている人物だ。

 先般、彼の依頼でハーゲン達は『異界電力ベイエリア』へ向かった。前社長オルガノ・ハナダを救出する為である。金森には他意は無かったのだろうが、それは株式会社異世界電力を潰すカンパニーの思惑に協力する結果となった。救出されたハナダとサイボーグのラナは姿を消し行方知れずとなったらしい。


 さて、今度の依頼は更に難解で困難であった。しかし、この話に乗る事が、先の事件で拉致された人員を救助する為の有効な手段だと分かった。金森がそれを説明している。

「ララ皇女殿下。おかけになって下さい。順を追って説明いたします。私達が赴く場所は『No.51異世界』です。この宇宙とは別の次元、別の世界です。p.w.カンパニーはそこに第1991支店王国を建国したのです。商業取引とは言い難い侵略行為で制圧して築いたものです。私が開発にかかわった転移の技術は、異世界との交流を実現して平和と繁栄を着築き上げる為のものなのです。異世界といえども他国を侵略し、征服し、殲滅する為ではありません」

 メガネを外しハンカチで涙をぬぐう。その表情には、自分の開発した技術を悪事に使用された無念がにじみ出ている。

「そこには、地球で言うところの中世ヨーロッパ的な世界が広がっていました。当地では、人間の王国と魔族の王国が激しい戦争を繰り返していました。カンパニーは人間の王国と契約し、その世界の平定を請け負ったのです。しかし、敵を蹂躙しただけでは飽き足らず、その人間の王国まで奪ってしまいました。この横暴なやり方にはカンパニー内でも賛否両論あったのです。内部の意見は真向から対立し、現社長のモナリザ・アライに不信任案が提出されました。そして新しい社長を選出する為のイベントが組まれたのです」

「ふむ、私はそれに参加し勝てばよいのだな。腕力ならだれにも負けんぞ」

「私はララ様との試合では完敗しております。全く歯が立ちませんでした」

 そういうハーゲンの顔を見て頷く金森だった。

「ハーゲンさんが歯が立たないとはどんな強さなのでしょう。想像がつきませんね」

「正に想像を絶する強さですよ」

「それは頼もしい。各陣営の基本情報はこちらになります」

 金森の見せる資料には5つの陣営が記載されていた。その詳細な情報も記載されている。

 ♦️モナリザ・アライ、♣️ソリティア・ウィード、❤️ビンイン・ジ・エンペラー、♠️リンド、Ⓙプリンセス・フーダニットの5つである。

「この中のⒿプリンセス・フーダニット陣営に参加していただきます。この社長候補プリンセス・フーダニットの代理として、他の4つの陣営の代理と一騎打ちとなる予定です」

「勝てばいいのだろう?」

「ええ、相手を殺すか身に着けているベルを破壊すれば勝利となります」

「そのベルとは?」

「こちらになります。代理の位置と生存を示す装置となります。見た目はコインですが、その性質上ベルと呼称しております」

 金森がコインを象ったペンダントを見せる。

「参加準備の際、ララ様に身に着けていただきます」

「皆、ペンダントなのか?」

「いえ、それは不明です。いくつもの、任意の形状に変化させることができます。ララ様におかれましては、ご希望があがあれば変更いたしますが?」

「そのままでよい。まあ、こんな玩具おもちゃなど関係ない。要は皆殺しにすればいいのだろう?」

「それでも勝利条件を満たしますが、それより重要なのがスポンサーの印象です。どういう勝ち方がふさわしいのか美意識が問われます。私が考えるに、このベルを奪うか破壊して代理の人命は尊重する勝ち方をすればがポイントが高いと思います」

「面倒だな」

「しかし、スポンサーの権力は絶大なのです。美しい勝ち方をしなければ戦いに勝っても社長に就任することができません」

「つまり、私はこのプリンセス・フーダニットとかいう貧相な魔族を社長にするため戦うのだな」

「ええ。そう考えて結構です。彼女はp.w.カンパニーの解体を公約としています。私の希望はプリンセスを社長とし本当にカンパニーを解体する事です」

「お前は職を失うのでは?」

「構いません。私達が一生懸命開発した異世界転移技術を、これ以上悪事の為使わせるわけにはいかないのです。もう、このような悲劇を繰り返させる訳にはいきません」

「分かった。全て私に任せよ」

 相変わらず自信満々のララ皇女である。

「ところで金森さん。どうして帝国の鋼鉄人形が複数強奪されたんだろうか。俺の使っていたゼクローザスだけで用が足りたはずだが?」

「それは恐らく、この社長争奪戦での戦力とすべく奪取したのだと思います。カンパニーでは、このアルマ帝国の鋼鉄人形を高く評価していますから。それに、以前話のあったアルゴル族が暗躍しているようです。各地から武器を集め各社長候補陣営にばら撒いています。こちらの連合宇宙軍の装備もかなり流出していると思われます」

「そうなのか。あのミミズ男がまた暗躍しているのか」

「ええ、間違いなく」

「ミミズは気持ち悪いな。ハーゲンに任せた」

 その一言を聞きさっきまで黙っていた金髪の大男が話し始めた。セルデラス総司令である。

「ララ姫。代理として戦えるのはあなた一人ですよ。目の前にアルゴルが出現した場合は一人で処理しなくてはいけない。分かっていますか?」

「分かっている」

「ルールに反するかもしれませんが、私は総司令として参加者の安全と不明者の救助を最優先とし作戦を立てます。ララ姫にも従って貰いますよ」

 その一言でララはしかめっ面をする。規則や決まり事が大嫌いな姫だとの噂だったが、この総司令もその規則に属する人物らしい。

「では、概要を説明します。まず、帝国の特殊艦ケイオンを派遣します。この艦は重力圏内でも次元航行のできる特別な機能を持っています」

 通常、重力圏内での次元航行は座標の狂いを生じる為、使用できない決まりがある。しかしこのケイオンはそれを無視し、そのまま山脈の中海の中地面の中を航行できる古代の技術を搭載している。

「この艦は単独で『No.51異世界』とそこに存在する『第1991支店王国』へ直接航行することができます。金森氏との事前の打ち合わせにおいて、これが可能であることは確認済みです。このケイオンにリナリアとネーゼ姉様、ハーゲン少尉を搭乗させ行方不明者の救助をします。出来れば鋼鉄人形の回収も行いたいのですが、無理はしないでいただきたい。代理として戦闘に参加するのはララ姫、あなたです。ララ姫に随行しオペレーターとして指示する役目をマユ姉様にお願いします。よろしいですか?」

「ええ、お任せくださいな」

 傍らに座っているマユが返事をする。

「ところで、ケイオンにネーゼ姉様とハーゲン少尉を同乗させるのですね」

「ええ。私の一存ですが実施します。ネーゼ様には秘密裏に帝都を出てもらう必要があります。ネーゼ様脱出の手配、リナリアの手配は私にお任せください」

「貴方も隅に置けませんわ。まるで新婚旅行のようではないですか。姉様に優しすぎるのではないですか?」

「そ、そのような事は考えておりませんよ。私は作戦の成功率を考えた上での配置を決めているだけです」

「そうだと良いのですけどね。ハーゲン氏?」

「私も総司令に同意します。今は不明者の救助を優先して考えるべきだと思います。この配置が最適だと判断いたします」

「そういう事にしてあげますわ。では、この後はどうなりますか?」

 マユの言葉に金森が答える。

「マユ様とララ様は私と同行願います。ハーゲン少尉とネーゼ様は特殊艦ケイオンで予定座標へ移動をお願いします」

「つまり、少尉はこのまま総司令と帝都へ戻ってネーゼ姉様と合流。姉様の専用機リナリアと共にケイオンで出航となるわけですね。私とララはこのまま金森氏と移動すると」

「そうですが、何かご不満でも?」

 セルデラス総司令の一言に、大いに不満顔をしたララが返事をした。


「何・も・不・満・な・ど・無・い!」


(この爆弾のような姫様をトラブル無くお連れできるのだろうか?)


 金森の胸中は不安で満ち溢れていたのだった。

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