序章 状況説明ですみません
act.1 始まりはここから
ここは地球より150光年離れた惑星アルマ。そのアルマの大地の中で異彩を放つ王国がある。獣人の国ラメルである。
数日前、そのラメルで事件は起こった。帝国との国境地帯に建設された小さい城塞都市ルベール砦。この砦を守備している人型決戦兵器、鋼鉄人形ゼクローザスが何者かに強奪されたのだ。その場に居合わせた整備士と軍医も拉致され、どこかに連れていかれた。同時にラメル王都ベルナでも事件が発生した。軍の駐屯地より複数の鋼鉄人形が強奪されたのだ。練習機のオレンジネクサスと偵察機のブルーネクサス、また、主力戦力であるインスパイアとその女性
首謀者は不明、また、拉致された人員や装備もどこへ運ばれたのか不明だった。宇宙軍が出動し、その行方を追っているのだが手掛かりは全く掴めていない。
今、アルマ帝国の帝都リゲルでは緊急の御前会議が開かれている。豪奢な広間に置かれた巨大なテーブルを十数名の人物が囲んでいる。上座に皇帝ミザール。その周りを皇族が囲み更に重臣が位置している。
「このような異常事態に対し、どう行動するのが最適なのかが問われております。事実を公表し、正式に軍を派遣するのか。それとも、事実を秘匿とし、諜報部、もしくは少数の特殊部隊を派遣するのか。どちらにしろ帝国の威厳にかかわる一大事です」
そう言って大層な演説をしているのが第一皇子のセルデラス・アルマ・ウェーバーであった。まだ若いこの男は金髪で身長180㎝程度の大柄な体躯をしている。アルマ帝国軍総司令だ。
「発言の許可をお許しください。ラメル王国ルベール砦守備隊所属のハーゲン・クロイツ少尉であります」
発言を求めたのは狐型の獣人だった。美しい毛並みを持ち大柄な体躯をしている。セルデラスが頷く。
「言ってみろ」
「実行犯については私に心当たりがあります。恐らくレーザ星系の住人アルゴル族の仕業かと思われます。ふた月ほど前の事です。彼らの中の一人がゼクローザスを強奪せしめんとルベール砦を襲ったことがあります。私の搭乗しているゼクローザスが特別製であると思い込んでいた様子でした。今回、わざわざルベール砦を襲い、私の搭乗機を奪った動機は明白かと思います。また、地球の巨大企業p.w.カンパニーが暗躍している可能性も否定できません。この大企業は異世界転移、空間転移の高度な技術を駆使し莫大な利益を上げています。今回の大規模な行動には彼らの何某かの思惑が絡んでいると想像されます。宇宙軍の捜索で何も手掛かりが得られないことから、実行犯はこのp.w.カンパニーの特殊技術を用いて逃走したものだと考えられます」
「なるほど。特殊な事例だな。要するに、軍の派遣よりは少数の特殊部隊の派遣が望ましいと、そう言いたいのか?」
「その通りです。行先は何処なのかはっきりと把握できません。軍を動かすことは不可能なのです。しかし、拉致された人員の救出には向かわねばなりません」
ミザール皇帝が頷きおもむろに口を開く
「そうだな。拉致された人員の救出を最優先として事に当たって欲しい。この任務に最適な人材は誰か?」
「私にやらせてください。必ず救出してみせます」
皇帝は頷いているのだが、その一言に異を唱えたのはセルデラス総司令だった。
「貴様の言いたいことはよくわかる。だがな、鋼鉄人形を奪われた貴様に何ができるというのだ。貴様には新品のゼクローザスをくれてやる。しかし、高次元蓄積体の補充はどうする?一ヶ月はかかるだろう。蓄積体が空のまま出撃すればお前は死ぬぞ?」(注1)
「構いません、私の命を懸け拉致された人員を救います」
「馬鹿な事は言うな。貴様は情報の収集に専念しろ。件のカンパニーという大企業とつながりがあるのは貴様だけのようだからな。実戦部隊の選定は私がやる」
「私のリナリアを使わせてはいかがでしょうか?」
突然発言したのは第一皇女のネーゼ・アルマ・ウェーバーだった。腰まである銀髪に白い肌。豊穣な母性を体現したかのような体形のこの美しい女性は次期皇帝となることが確定している。
(確かにその手は有効かもしれない)
セルデラスはそう考えた。
ネーゼ皇女の専用機として用意されている鋼鉄人形リナリア。専用の高次元蓄積体はネーゼの持つ強大な霊力に合わせた特別性のものが装着してある。ほぼ無限の力を発揮するであろうこの案は現実性があると考えたのだ。
「それを受け入れることはできませぬ。皇女殿下」
「帝国の象徴たる皇帝専用機を訳の分からぬ異世界へ派遣するなど考えられませぬ」
「帝国の恥をさらす行為です」
「鋼鉄人形ではなく、諜報部である黒剣を動かすべきです」
「軽々しく黒剣を使うなどと言うものではない。黒剣に指示できるのは皇帝陛下只一人であるぞ」
「申し訳ありません」
セルデラスの言葉に一人の重臣が平伏する。
しかし、口々に反意を示すこの重臣たちの反応も当然であった。
帝国の象徴であるリナリアが出撃するのは帝都決戦の時のみとされているからだ。数名の人員の為にリナリアを出撃させるなどあってはならない。
(しかし、解決のための良策が他にあるのか?)
眉間にしわを寄せ腕組みをするセルデラスだったが、そこへ一人の少女が挙手をする。
「この度の不始末。この私が全て解決してみせます。お任せください陛下」
その一言にその場がざわめく。
帝国最強と言われる武力を有する皇帝警護親衛隊。その隊長であるララ・アルマ・バーンスタインだった。2回にわたり御前試合で優勝を収めた彼女は満場一致で隊長へと推挙されたのだ。ララの力は鋼鉄人形数機分に匹敵するとも言われている。
しかし、皇帝ミザールは首を横に振った。
「親衛隊長とは言え新任だ。成人したばかりの若者に未知の危険な任務を与えるわけにはいかない」
もっともな意見。いくら能力が高いとはいえ、一番の若輩者を行かせるなどそれこそ帝国の恥であろう。
(陛下はララを溺愛されているからな。ここは私が行くしかないだろう)
セルデラスはそう考えているのだが、重臣たちの意見はララの出陣を肯定するものばかりだった。
「陛下。ララ皇女殿下のお力は帝国随一。この度は姫殿下に一任されてはいかがでしょうか?」
「帝国最強の親衛隊を派遣するのには賛成します。これこそが帝国の威厳を示す行為となるでしょう」
御前試合でのララが見せた超人的な能力が刷り込まれているのか、重臣たちの意見には平時よりも熱がこもっている。
しかし、皇帝の表情は硬い。ララを行かせたくない気持ちがありありと透けて見える。この皇帝の徳性を解さない重臣たちをどう説き伏せるか、セルデラスが考えている時にもう一人の少女が挙手をした。
「私が補佐として参加いたします。陛下。それなら安心なのではないですか?」
その少女は第二皇女のマユ・アルマ・ルメールだった。黒い髪に褐色の肌、そして金色の瞳が目立つ最高の法術士。癒しと回復を得意とする彼女の補佐があれば、救出作戦の成功率は高くなるはずだ。皇帝が決断を下す。
「マユよ。分かった。お前に任せよう。ララ。頼むぞ。帝国の民を、必ず救出してくれ」
「御意」
「お任せください陛下」
ララとマユが返事をする。皇帝も頷いている。
この采配に重臣たちも納得しているようで誰も口を挟まない。
ただ一人、ムスッと頬を膨らませているネーゼを除いて。
「本日の会議はここまでとする。具体的な日程と他の人選、装備等については追って知らせる。以上だ」
セルデラスの言葉で御前会議は閉会となった。
(注)鋼鉄人形は操縦士の霊力を大量に消費して稼働する。その為、過去には操縦士の生命を全て吸い取る魔の人形として忌み嫌われていた。約三百年前、操縦士の霊力を事前に蓄積しておくことで安全に稼働するシステムが開発された。それが高次元型霊力蓄積体。鋼鉄人形は全て、一ヶ月以上かけてその専任操縦士が霊力を蓄積している。事前に霊力を蓄積していない鋼鉄人形を操作すると、操縦士は死亡することがある。
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