第9話 冒険者なんだから、ダンジョン行こう!

「せっかく冒険者になったんだから、ダンジョンに行こうよ!!」


Cランク冒険者になってしばらく経ち、ソーマとカレンが家でお茶していたら、アリサがそう言って飛び込んできた。


「ふぇ!?ダンジョンですか!?」


丁度買い出しから帰ってきたカグラが反応する。

お茶には茶菓子がないとだめです!!と言って買い出しに出かけていたのだ。


「アリサさんも一緒にどうです?」


「ありがとう。いただくわ」


アリサが紅茶を一口飲み一息ついてから話し出す。


「最近ヴァグラ渓谷で新しいダンジョンが見つかったっていうじゃない」


「あ、その話お客さんから結構聞くよ!下級のモンスターが出るフロアが多いっていうよね」


「そう!このダンジョンなら私たちにも無理なくいけるし、まだ下位層もあんまり探索されてないからお宝もたくさんあると思うんだ!!」


ダンジョンは、その発生の原理ははっきりしていないが、一説には大地のエネルギーが集まり形成されるという。

そのため、自然では出来にくいような迷宮のような地形が形成されたり、エネルギーを浴びて強化されたモンスター、未知の鉱石などが見つかったりする。


これまでに、9つのダンジョンが見つかっていて、このダンジョンが10個目である。世界には無数のダンジョンが存在していると言われている。


「ダンジョン!いいじゃないですか!!冒険者っぽくて!それに新しい発見ができれば有名人ですよ!!」


カグラも乗り気だ。


ダンジョンの自由探索はランクに関係なく行うことができる。そのため、低ランクの冒険者が自分の実力に合わない所まで行ってしまい、命を落とすことが多く起こっている。

ソーマはそこが気がかりだった。うーん、どうしたものか…。


ソーマはもう一度アリサとカレンの方を見やる。


キラキラした目でソーマのほうを見つめる。仕方ないか。


「絶対無理はしないぞ」


「「はーい!!」」


「お兄ちゃん行ってらっしゃい!」


こうしてソーマたちは初のダンジョン探索に挑戦することになった。

この時ソーマは、この後に何が起こるかなど知る由もなかった。


ヴァグラ渓谷のダンジョンは渓谷の最深部に入り口が発見された。

断崖絶壁を下っていかなければならないため、それだけでも危険を伴う。


「こここ高所恐怖症なんかじゃないんだからね」


アリサが足を震わせながら下っていく。


「そうですよね!アリサさんが高所恐怖症なわけないですよね」


カグラはそう言って断崖絶壁をすたすたと下って行ってしまった。


「待ってよカグラ!!私が悪かったから!高所恐怖症でいいから!もっとゆっくり行こうよー!」


しかしその声はカグラには届かない。


「もうやだよー」


「何やってんだ?アリサ?」


最後尾からやってきたソーマがぐずるアリサに追い付いた。


「なんでよ!なんで入り口までの道を整備しといてくれないの!?」


「ダンジョンなんだから当たり前だろ」


「しかもなんでソーマはそんなにスムーズに下りられるの?」


「俺は身体強化魔法と標魔法でどこに足をつけばいいとか分かるからな」


「何それ!?ずるい!?チートじゃない!」


アリサは駄々をこねる。


「じゃあ、あきらめて帰るか?」


ソーマの質問にアリサは少し俯きながら頬を膨らませ


「…やだ…」


とだけ答えた。


「じゃ、じゃあ駄々こねてないで行くぞ」


この時、ソーマは少しドキッとしていたのだが、恐怖のせいで、その動揺がアリサに伝わることはなかった。


「お二人さーん!!そこにつきましたよー!!」


先に進んだカグラが、渓谷の底についたことを伝える。


ソーマとアリサも暫くしてたどり着いた。


「おや、アリサさん大胆ですね」


ソーマの手を固く握るアリサを見てカグラがつぶやいた。

アリサは我に返り顔を赤らめた。

断崖の恐怖で無意識のうちにソーマの手を握っていたのである。

ただし、我に帰った後もソーマの手を握り続けていたのだが。


「お二人さんだけいちゃいちゃしちゃって…私たちは蚊帳の外ですか…ラムネさん」


ぽよーん…


ここぞとばかりにソーマにくっつくアリサを見て、そうつぶやくカグラだった。

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